戦略人事を目指す方へ!戦略人事担当の年収やキャリアについて
戦略人事とは、経営目標を達成するために経営者のパートナーとなって人事を執り行っていくことを言います。
まだビジネスの現場に広く浸透しているとはいいにくい状況ですが、戦略人事とはどのようなスキルを身につけていけばいいのか、戦略人事としてキャリアを積んでいった先のビジョンがどのようなものであるか、不明瞭に思える方もいらっしゃると思います。
この記事では、戦略人事になるための方法や、年収の目安などをご紹介していきますので、今後の参考にしてみてください。
戦略人事とは
戦略人事とは、企業の経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報のうち、「ヒト」の管理を経営戦略と連動させて実施することをいいます。
経営学では戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management)と呼ばれ、英訳の頭文字を取って「SHRM」と呼ばれています。
従来、企業の経営戦略は経営層や経営企画室などが策定するもので、人事部門は基本的に関与しないものとされていました。
そのため人事部門の組織目標は、「コスト削減のために人材のアウトソーシングを検討する」「従業員のモチベーションアップのため、昇進制度を改善する」といった、経営戦略自体とは関わりのない内容となるのが通例でした。
こうした、あくまで人事部門における業務改善や問題解決を中長期的な視野で行うことは、「人事戦略」と呼ばれます。
しかし、経済のグローバル化、深刻化する少子化、インターネット・デジタル技術の進展といったこれまでにない経営環境の変化にともない、これまでのような「人事戦略」を行うだけでは、必要な人材の確保が難しくなりつつあります。
そうした中で注目を集めているのが、企業が定める経営戦略の実現に貢献できる人材管理を目指す「戦略人事」の考え方です。
経営戦略と連携・協働して人事を考えるのが「戦略人事」であり、先ほど述べた「人事戦略」とは思考法が大きく違います。
たとえば戦略人事では、企業が経営戦略として海外進出を検討しているなら、その戦略を実現でき、成果を出せる人材をどう確保・管理するかを課題として設定します。「経営戦略」と「人事」が密接につながっているわけです。
戦略人事の4つの機能と役割とは
戦略人事について、さらに内容を細かく見ていきましょう。その構造は大きく分けて以下の4つに分類できます。
HRBP(HRビジネスパートナー)
HRBPとはHuman Resource Business Partnerの頭文字を取った言葉で、経営戦略を実現するため、各事業部門と連携しながら人的資源・組織づくりを行うことです。
この場合、人事部門は各事業部門の「ビジネスパートナー」として位置づけられ、各事業からの人材・組織に関わるニーズに応えたり、まだ明確になっていない問題・ニーズを掘り起こしたりすることが求められます。
人事がHRBPとして機能するには、各事業部門のリーダーとその構成員と密に連絡を取り合い、一緒に事業展開に関わっていく意識をもつ必要があります。バックヤード部門として距離を置くのではなく、積極的に事業内容に参画していくのです。
OD(組織開発)&TD(人材開発)
ODはOrganization Developmentの頭文字、TDはTalent Developmentの頭文字を取った言葉です。
OD
ODとは、従業員への企業理念の浸透および組織文化の形成によって、企業として目指すべき組織のあり方を実現することです。
従業員の「マインドセット」(考え方や価値観)そのものを変革させて、より成果を出せる組織づくりを目指そうとするのがODの基本的な考え方といえます。
組織を活性化させる方法としては、職場環境の改善や人事評価の見直しといった環境・制度に注目するのが従来の方法でした。
しかしODでは、従業員の心の持ち方そのものにコミットし、当事者意識をもって問題の解決に取り組んだり、組織の健全化を目指そうとしたりする思考法を企業内に広めることで、成果の出せる組織づくりを目指します。
TD
一方でTDは、企業が目指す組織づくりを実現するため、即戦力として人材を育てることを意味します。
とくに技術系の企業において重視される戦略人事であり、従業員が特定のタレント(能力)に特化した技量や知識を得ることで、成果の出せる組織づくりを目指すわけです。一例として、技術系資格取得者の育成などが挙げられます。
このODとTDは、どちらか単体だけを重視しても不十分です。ODは企業理念や組織文化など実態のない価値観や考え方を扱うので、それだけだと具体的に従業員に何をしてもらいたいのかが明確になりにくいのです。
一方、TDは従業員に伸ばすべきスキル・技術を明確にしますが、それだけだと組織としての方針や考え方が見えにくく、何のためのスキル・技術なのかが見えにくくなる恐れがあります。
ODとTDはコインの裏と表のように、両方がそろうことで有効に機能するといえるでしょう。
CoE(センター・オブ・エクセレンス)
CoE とはCenter of Excellenceを略した言葉で、人事の分野では「中心的な人事機能」を意味し、採用、給与体系、能力開発などのプロフェッショナルが集結する人事部門が、各事業部に対して人事面でのコンサルティング機能を担うことを指します 。
CoEとしての人事部門は、各事業部と「求める人材」「採用方法」「採用時期」について話し合い、その内容に合わせて制度設計や人材開発手法を立案します。
具体的には、求める人材に合わせた評価制度や報酬制度の策定、研修プログラムの開発などが求められます。
「戦略人事」の考え方にもとづいての人事部門のあるべき姿・位置づけであるといえます。
OPs(オペレーションズ)
OPsとはOperationsの略語で、人事部門では「人的資源管理の実務のエキスパート」を意味します。CoEが戦略的な制度設計、能力開発の立案をし、その運用に関する専門性を意味するのがOPsです。
OPsが従来型の人事の実務と異なるのは、各事業部門と密接に連携しながら、コスト最適化、業務効率化を目指す点にあります。
単純なコストカットやアウトソーシングではなく、各事業部門と密接に連携しながら実務を行うことで、結果・成果の向上につながるような制度・システムの運用方法を目指すのです。
OPsが対象とするのは、採用プロセス、採用後のフォロー、給与計算、福利厚生、勤怠管理など多岐にわたります。
戦略人事の業務の流れ
戦略人事の流れとしては、以下の通りです。
経営戦略から経営ビジョンを把握する
戦略人事は経営戦略と連携し、その実現を目指すのが目的であるため、まずは経営戦略・ビジョンを人事部門の中で共有・理解することが必要です。
戦略遂行における問題点や課題があれば、それも把握します。
経営戦略達成時の人材ビジョンを策定する
経営戦略が実現された場合、そのときの人材の配置状況はどうなっているのかを想定する「人材ビジョン」を作成します。
「経営戦略が達成されているなら、当然このような人材が確保されている」との考え方から、戦略実現のために必要な人材像、研修内容(求められる知識やスキル)、人員数などを検討・チェックしていくのです。
経営戦略は長いスパンにわたって計画が立てられるため、人事部門としても中長期的な予測設定が必要になります。
中長期経営計画から企業目標を把握する
経営陣が策定した中長期の経営計画の内容を理解し、その上で人材ニーズや人事システムの内容を明確にしていきます。将来の成果に備えて、今現在行うべきことを明らかにする作業です。
中長期人事計画を策定する
人材ビジョンと中長期経営計画の内容をもとに、人事部門としての中長期的人事計画を作成します。
この段階では計画は具体的に作る必要があり、求める人材像、採用時期、採用人数などを具体的に定めて、計画の中に盛り込みます。
人材採用・育成計画、組織開発を策定する
中長期人事計画の内容について、さらに細かく具体策を考えていきます。
求める人材・人数を採用するための方法、採用時期を決定するための実施スケジュールの調整、採用後の育成方法などを検討し、実施計画としてまとめます。
戦略人事担当者に求められるスキルとは
ここまで戦略人事の役割や業務について解説してきましたが、通常の人事業務よりも高度なスキルが必要であることが分かります。
ここでは、具体的に戦略人事担当に求められるスキルについて解説します。
人事部門の業務スキル
戦略人事の担当者に第一に求められるのは、人事部門内のあらゆる業務に精通していることです。
戦略人事とは、経営戦略と人事を連携させることを指しますが、ここでいう「人事」とは、人事部門が行うあらゆる業務(採用業務、給与計算、福利厚生、勤怠管理、労務管理、人事評価システムなど)を含みます。
人事部門は幅広い業務を担っています。たとえば「採用業務にだけ精通し、給与計算や福利厚生の仕組みについては知らない」といった人物では、戦略人事を統括できません。
高度なスキル・経験が求められるため、戦略人事は経験豊富な人事部門の最高責任者が担当するのが通例です。
経営戦略・事業戦略への理解
また戦略人事には、経営戦略・事業戦略を十分に理解し、受け入れる姿勢も求められます。
戦略人事は、経営戦略にもとづいて動く各事業部門との連携によって行われるのが原則です。採用計画や人材育成は通り一遍なものではなく、現場の事業部門の実情やニーズに直結した個別性・具体性の高いものが求められます。
そのためには、各事業部門がどのような方針にもとづいて、何を目指そうとしているのかを深く認識し、問題解決を実現できる人事計画を立案しなければなりません。
経営戦略・事業戦略は中長期的な視野で策定されているので、同様のスパンで人事部門がどのような計画を立てていけばよいのかを考えられる能力が必要です。
人間力
戦略人事担当者に不可欠ともいえるのが、ビジネスシーンで活躍できる「人間力」です。
戦略人事を担うには、経営陣や各事業部門の長と頻繁に連絡を取り合い、問題・トラブルが生じれば迅速に解決する力量が求められます。
列挙するなら、課題を発見し解決する能力、コミュニケーション力、リーダーシップ、そして戦略人事では計画を立案し、人事のプロフェッショナルとしてそれを運用・実行することが求められます。
また、策定したプランを最後までやり抜こうとする性格、簡単に諦めない人としてのやり抜く力も必要です。
近年、ビジネスシーンではこうした「人としての力量・能力」を指す言葉として、「GRIT(グリット)」が用いられています。
GRITとは「人間力」や「生きる力」を意味し、頭脳・認知能力の度合いを測る「IQ」に対して「EG(非認知能力)」と呼ばれることもあります。
人事部門で長年経験・キャリアを積んできて、管理職クラスの役職に就いている人物であれば、高いGRITをもっていると考えられ、それを戦略人事の領域で存分に生かす必要があるのです。
戦略人事になると年収やキャリアは変わるのか?
戦略人事となった場合、経営者と近いところでビジョンを共有しながら働いていくため、待遇面もより充実していくだろうとイメージするかもしれませんが、おそらく期待するほどではないでしょう。
仮に、戦略人事として従来の給与システムの見直しをするとした場合、管理部門である人事部の給与テーブルを大きく変えるのが難しいのはイメージに容易いと思います。
しかも、同じ人事部で“戦略”というワードが冠されているだけで、大きな差がつけにくいのも実際のところではないでしょうか。
つまり、待遇にこだわるのであれば、戦略人事として活躍できるフィールドを変更する必要があるのです。
会社ごとに決められた給与テーブルを運用していくのが常であるだけに、納得いく待遇を得るためには転職も視野に入れておかなければなりませんし、その先のキャリアについてもイメージする必要に迫られるでしょう。
求人例から見る戦略人事の年収目安
弊社MS-Japanは、人事をはじめとする管理部門と士業に特化した転職エージェント「MS Agent」を提供しています。
ここでは、「MS Agent」で取り扱っている戦略人事担当者の求人をもとに、戦略人事の年収について解説します。
プライム上場企業内の戦略人事(役員候補)
仕事内容 |
・次世代幹部の輩出に向けた仕組みづくり ・事業計画に基づいた人事戦略(制度構築/タレントマネジメントなど) ・採用戦略の構築及び実行 ・採用広報及びインナーブランディング ・HR Techを利用したオペレーション改善やプロジェクト推進 等 |
必要な経験・能力 |
<必須> 人事企画業務の経験 |
想定年収 |
800万円 ~ 1,500万円 |
業績拡大中グロース上場企業の戦略人事マネージャー
仕事内容 |
・人事戦略の立案及びそれに基づく各施策の企画・実行モニタリング ・組織戦略の立案・折衝・実行 ・経営戦略の遂行に向けた人材獲得に向けた施策の立案・実行 ・人材開発プログラムの策定・実行・モニタリング ・エンゲージメント向上施策の立案・実行・モニタリング ・採用戦略の立案・モニタリング など |
必要な経験・能力 |
<必須>下記いずれか ・人事・組織コンサルティングの経験(目安3年以上) ・事業会社での人事企画、人材・組織開発、採用等の人事関連領域での経験(目安3年以上) <歓迎> ・人事組織のマネジメント経験 ・人事戦略等の立案経験 ・人事関連領域におけるプロジェクトマネジメント経験 |
想定年収 |
600万円 ~ 1,000万円 |
東証プライム国内最大手人材会社グループの戦略人事(HRBP)ポジション
仕事内容 |
・事業戦略や事業の中期経営計画を踏まえた人事戦略の企画・立案・推進 ・メンバー育成補佐 など |
必要な経験・能力 |
<必須>下記いずれかを3年以上 ・人事戦略の提案等のHRBP業務経験 ・事業会社で、人事領域における企画設計の経験(組織開発関連・人事戦略・制度設計等) |
想定年収 |
850万円 ~ 959万円 |
戦略人事のキャリアステップとは
戦略人事を担当していれば、日頃から経営者と近いところで仕事をする機会が多くなるため、その貢献度合いによっては想像以上の高い評価を得られることも珍しくないでしょう。
戦略人事は企業経営に深く関わるからこそ、その企業において役員クラスへとステップアップしていくことも十分に考えられます。
加えて、戦略人事を担当できるスキルも日本のビジネス界ではまだまだ珍しく、他の企業から高く評価される場合もあるでしょう。
必要性は叫ばれつつも、慣習的な理由によって導入を躊躇する企業の多い戦略人事だからこそ、時代に沿ったちょっとした意識の変化がその待遇に大きな変化を及ぼすことも予想できます。
言われたことだけをこなす営業マンよりも、自分で考えて行動していく営業マンのほうが高い評価を得るのを考えれば、戦略人事がステップアップしていく光景も鮮やかに映るのではないでしょうか。
まとめ
戦略人事という仕事は、まだ十分に受け入れられたものであるとはいえないものの、常に競争力を養っていかなくてはならない企業にとって、その存在価値は高まるばかりといっても差し支えはないでしょう。
いつの時代もそうでしたが、ビジネスの現場は合理性かつ効率的なものであれば、広く門戸を開いてきています。
これからは、貴重な経営資源であるヒトを戦略的なイメージにもとづいて活用していく戦略人事は非常に重宝されることでしょう。
戦略人事としての活躍フィールドは企業風土が大きく関係してくるだけに、今後、戦略人事を志そうと思うならば、まずは転職エージェントに相談してみるのがおすすめです。
転職エージェントは皆さまが興味をもった企業と円滑なコミュニケーションができるだけに、よりスムーズな転職サポートとして役立ってくれる存在といえます。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、飲料メーカー営業、学習塾の教室運営を経て19年MS-Japanに入社。キャリアアドバイザーとして企業管理部門、会計事務所などの士業界の幅広い年齢層の転職支援を担当。
経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 経営企画・内部監査 ・ 会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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