資産税に強い税理士は市場価値が高い?資産税特化事務所に転職するには
一般的な税理士事務所では、相続税申告などの資産税業務に携わる機会は限られているため、すべての税理士が資産税に強いわけではありません。
近年、高齢化や税制改正の後押しもあり、資産税専門税理士の市場価値は上昇傾向にあります。
資産税に関する知識やスキルを身に付けることは、税理士としてのキャリアアップにも有効です。
本記事では、資産税に特化した税理士の仕事内容やメリット・デメリットを解説します。
今後、資産関連業務の経験を積みたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
資産税業務とは
資産税とは、「相続税」「贈与税」「譲渡所得に係る所得税」等の総称です。
相続や土地の売却といった課税原因が臨時発生的に発生したら課せられる税金であり、課税対象額が大きいことで知られています。
資産税に関して言えば、金額が億単位になることも珍しいことではありません。
資産税業務とは、読んで字の如く資産税を扱う業務を指します。
資産税は、その課税原因をみるとわかるとおり、どのような時に発生するかタイミングが不定期であるためです。
時期ごとに発生する通常の税務とは別と考えましょう。
なお、資産税業務は特例が多く、処理は複雑で高度な専門知識と処理を正確に行うことができる手腕が要求されます。
そのため、資産税業務に特化した税理士法人も存在します。
資産税に特化した税理士法人の仕事内容
資産税に特化した税理士法人を大きく分けると、相続税・贈与税といった税務申告を主に行っている税理士法人と、相続・事業承継の対策を重なっている税理士法人とに分けることができます。
税務申告に特化している税理士法人の場合、資産税が発生した時の申告の手続きを中心に行っているため、資産税業務の中では課税資産額は小さめです。
仕事内容は申告手続きなので、どちらかと言えば質よりも量をメインにこなしていく業務とも言えます。
申告の数をこなし、スピーディーかつ正確に申告手続きの業務をやり切る力が必要です。
資産税対策を中心に行っている税理士法人の場合、仕事内容は相続や事業継承等をスムーズに行うための対策になるので、比較的複雑な業務を行うことになります。
クライアントも富裕層や大規模な事業のオーナーが多く、仕事をしていくなかでコンサルティングのような役割を担う必要が出てくる場合もあります。
資産税特化型税理士法人と一般的な税理士法人の違い
大きな違いは業務内容です。
資産税特化型の税理士法人の場合、仕事の中心は資産税業務になります。
資産税業務に関する知識を深められ経験を積むことができますが、一般的な税理士法人と異なりそれ以外の税務に携わる機会は比較的少なく、資産税業務以外のスキルを身につけることが難しいです。
一般的な税理法人の場合は、税務のスペシャリストとして幅広い税務を行います。
代表的な仕事は、記帳代行、法人の決算申告や個人の確定申告、会計や経営にまつわるコンサルティング業務、税金関係の相談、年末調整などです。
資産税に関する業務を行っている事務所もありますが、専門性が高いわけではありません。
なお、一般的な税理士法人といっても、近年はAIの発達などによって、それぞれの税理士法人が差別化に力を入れていることもあるので、実際には様々な特色を持つ税理時法人が存在します。
この記事では、資産税特化型税理士法人と比較して、一般的な税理士法人とくくらせていただきます。
税理士が資産税(相続税)業務の経験を積むメリット・デメリット
資産税に特化した税理士事務所で主要業務となっているのは、相続税に関する案件です。
相続税の申告は相続人が直接行うことも可能ですが、内容が複雑なうえ正確さも求められるため、税理士に依頼するケースがほとんどです。
資産税(相続税)に特化した税理士事務所へ転職したいと考えているのなら、メリットだけでなくデメリットも把握しておくことが大切です。
■メリット
専門性を高められる
資産税に特化した税理士法人であれば、ひとつの分野を深く経験し、専門性を高めることができます。
日本税理士会連合会によると、令和3年6月時点の税理士登録者は79,353人。
税理士法人届出数は主たる事務所が4,389、従たる事務所が2,339。平成29年6月時点の税理士登録者数は76,358人、税理法人の届出が3,561法人であったことと比較すると、確実に数は増えていると言えます。
税理士が多いと言うことはライバルも多いです。
他者と差別化するには、専門性を持つことが大切と考えられます。
なお、転職市場では、専門性を持っていると高く評価されやすく、その専門性が活かせる分野の即戦力として、比較的有利に転職活動を進めることができます。
報酬が高い
資産税専門税理士は高度な専門知識が求められるため、その希少性の高さから一般的な業務を扱う税理士よりも高い報酬を得やすいのがメリットです。
相続の発生件数は増加傾向にあるため、今後も報酬は値崩れしにくい状況が続くと想定されます。
以下に、顧問料と相続税申告の相場を比較した場合、相続税の単発案件がどれだけ高い報酬となっているのかをまとめました。
個人・法人の顧問料の相場
税理士の顧問料は、個人事業主と法人企業で相場が異なるのが一般的であり、法人企業の方が高い傾向にあります。
顧問料は、基本的に売上高と訪問回数によって変動します。おおよその相場は以下の通りです。
個人事業主の顧問料の相場 | 法人企業の顧問料の相場【月間】 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
訪問回数 | 年1回 | 3カ月に1回 | 毎月 | 年1回 | 3カ月に1回 | 毎月 |
年間売上高~1,000万円 | 1万円~ | 1万5,000円~ | 2万円~ | 1万2,000円~ | 2万円~ | 2万5,000円~ |
年間売上高3,000万円~5,000万円 | 2万円~ | 2万5,000円~ | 3万円~ | 2万2,000円~ | 3万円~ | 3万5,000円~ |
年間売上7,000万円~1億円 | 3万円~ | 3万5,000円~ | 4万円~ | 3万2,000円 | 4万円~ | 4万5,000円~ |
相続税申告の相場
一般的な相続税申告の顧問料は、相続財産総額の0.5%~1%が相場です。
例えば相続総額が3,000万円の場合は15万円~30万円、1億円の場合は50万円~100万円となります。
税理士事務所によっては、相続財産総額に対してのパーセンテージで算出する事務所や、総額に段階を設けて金額を設定している事務所があります。(3,000万円以下は〇円・1億円以下は〇円など)
また、申告までの期限が短い場合や評価が難しい土地が相続財産に含まれているときは、相場より報酬が高くなるのが一般的です。
売上高1億円~5億円の企業の顧問料は毎月訪問で年間72万円、相続総額1億円の場合は単発で50万円~100万円の報酬であるのに対し、相続税申告案件を処理する期間は最長で10カ月間です。
このような理由から、相続税申告案件は短期間で高い報酬につながりやすいと判断できます。
■デメリット
他の分野の経験が積みづらい
資産税業務に特化している場合は、資産税業務の経験を積むことはできますが、他の分野の経験を積むことが困難です。
資産税分野に特化したキャリアを考えているなら問題ないものの、税理士としていずれは独立を考えている場合は、専門性を育むことと合わせて、幅広い税務等の経験を積んでおいた方が良いと言えます。
大事なことは、自分が希望するキャリアを考えることです。
希望するキャリアによっては、資産税業務だけではなく、一般的な税務業務全般を幅広く経験しておいたが方が良いケースもあります。
人生100年時代が到来し、ひと昔前には考えられないほど仕事をする期間が長くなりました。
ひとつの専門性だけで長い仕事人生を終えることは困難になってきています。
自分らしい人生を歩んでいくためにも、時期やキャリアに応じて、ひとつだけではなく複数の業務の専門性を高めていく方法は有効です。
時期を問わず忙しい場合が多い
資産税業務をメインとする税理士に対し、一般的な税理士は所得税の確定申告が多忙です。
確定申告の時期は毎年決まっているので、法人・個人共に業務のサイクルにあまり変わりはありません。
しかし、資産税に関する業務は不定期で予測できないため、他業務に追われて多忙となっている中でも適切に対応しなければなりません。
また、相続税の申告には期限があり、原則として相続発生から10カ月以内に申告する必要があります。
書類作成や役所とのやり取りなど、業務の内容は煩雑で多忙ですが、期限を過ぎた場合は追徴課税や延滞金が発生するため、期限厳守が基本です。
そのため、税理士の繁忙期となる所得税の確定申告時期間と相続税の申告期間が重なると、業務量が膨らみ業務過多に陥ります。
相続においては、親族間でトラブルが起きるケースも少なくありません。
遺言書が存在せず、トラブルに発展した場合には、通常業務に加えて相続人に対する細やかな気遣いも求められます。
転職市場での需要
専門分野と言える資産税関連の業務に強い税理士は、転職市場でもニーズの高い職業です。
その背景には、高齢化が進み相続や贈与などの機会が増えたことや税制改正があり、今後も需要は高まり続けると予想されています。
2023年上半期「税理士」求人動向において、法人の確定申告書の作成スキルがある税理士と相続税申告書の作成スキルがある税理士の求人動向は共に59%で同率一位でした。
このような結果から、半数以上の事務所が相続税申告書作成スキルのある税理士を求めていることが分かります。
税理士の仕事のうち、高い報酬が得られる分野は、法人企業の顧問税理士です。つまり、資産税業務に長けている税理士は、それと同等のニーズがあると言えます。
実際に、相続税申告を扱っている会計事務所は多く存在しません。
しかし、既存のクライアントやその紹介で相続の相談が来るケースは往々にしてあると考えられます。
そのような場面において、即座に対応できる資産関連に強い税理士は重宝されるため、採用ニーズが高まっています。
転職後は、資産税業務に特化した人材としての地位を確立することも可能です。
資産税特化型税理士法人で求められること
資産税業務に関する専門知識
資産税特化型税理士法人と謳うからには、そこに就職した場合、資産税業務のプロフェッショナル集団の一員として認識されます。
資産税業務に関する確かな知識と、経験値が求められます。
ただし、一口に資産税特化型税理士法人といっても、クライアント層や力を入れている資産税業務はそれぞれの税理士法人によって異なります。
求人に応募するなら、応募先の資産税特化型税理士法人のメインユーザーや得意としている資産税業務に合った知識や経験が必要です。
コミュニケーション能力
資産税業務は、相続や事業継承など、クライアントの人生の節目や重大な時に携わる可能性が高い業務です。
そのため、クライアントと良好な関係を築き業務を遂行できるコミュニケーション能力が求められます。
もちろん、クライアント等の話を丁寧に聞き理解できるヒアリング能力も大事です。
コンサルティング能力
資産税業務では、事業オーナー等がクライアントになるケースもあり、時には経営に関するコンサルティング業務に携わることもあります。
そのため、経営に関する知識やコンサルティング能力が必要です。
ケースによっては富裕層がクライアントにあることもありますから、富裕層に合わせた知識も必要となります。
資産税特化型税理士法人への転職を成功させるためには
まずは応募先の税理士法人が、資産税業務の中でもどのような業務を主に行っているかを確認しましょう。
クライアントの層も把握しておくことが大切です。
事前に情報を確認した上で、その資産税特化型税理士法人で自分はどのように役立つかを選考段階からアピールします。
資産税業務の経験は豊かであることが望ましいです。
ただし、一口に業務経験といっても、応募先の企業の中で中心となっている資産業務に関する経験が多いことが大事と言えます。
コミュニケーション能力やヒアリング能力を高めておくことも大切です。
必要な時にはチームを組んで業務にあたることもありますので、幅広い人と良好な関係を築ける能力が必要でしょう。
経営に関する知識も伸ばしておけるとより良いです。
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まとめ
資産税関連業務に特化した税理士法人は、税務申告を専門に扱う事務所と資産税対策を中心に行う事務所に分かれているのが一般的です。
主に資産税関連業務の処理を担う税理士法人は、資産税業務以外の税務処理に携わる機会が少ないものの、専門性の高い知識やスキルが身に付くため、税理士としての強みになります。
高齢化の進む昨今、資産税関連業務の経験が豊富な税理士の需要は高い傾向にあります。
そのため、税理士としてさらなるキャリアアップを望む方にとっては、非常に魅力的な転職先です。
資産税関連業務に特化した税理士法人へ就職し、多くの経験を積むことは、将来独立を考えている方にとって大きな強みとなるはずです。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、幸せに働く人を増やしたいという想いから新卒でMS-Japanに入社。
上場企業を中心とした求人開拓から管理部門全般のマッチングを行い、2021年1月より専門性の高いJ事業部に異動。
主に会計事務所、監査法人、社労士事務所の担当を持ちながら士業領域での転職を検討している方のカウンセリングから案件紹介を両面で行う。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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