人事を悩ます、本当にあったパワハラ事件!パワハラはどのように対処すべきか?
権力や立場を利用して嫌がらせを行うパワハラ。
2001年に「パワーハラスメント」という言葉が誕生して以降、様々な事例が報告されています。
国連の国際労働機関もこの事態を深刻に受け止めており、2019年にはハラスメント対策の国際的な条約制定を行う考えを示し、注目を集めました。
人事の仕事をする上で、パワハラ対策は避けては通れません。今回は、実際に裁判で扱われたパワハラ事件をもとに、人事担当者としてどのように対処すべきかをまとめてみました。
パワハラ事件ケース1:行き過ぎた余興が従業員に対する不法行為と判断される
事案の概要
"化粧品販売会社の社員であった原告(60代女性)が、研修会において易者姿のコスチューム等を着用させられたことなどから精神的苦痛を被ったとして上司及び会社に対し慰謝料の支払いを求めた。"
この事案は、とある化粧品販売会社に勤めていた60代の女性に起きたケースです。
女性は参加が義務付けられた研修会に出席した際、商品販売目標を達成できなかった者への罰ゲームと称され、上司から易者姿のコスチュームとうさぎの耳形のカチューシャをつけるように求められました。
その後上司は、女性の意思を確認することなくコスチュームを着用したまま発表する様子を撮影。
後日、その様子を別の研修会で、やはり女性の意思を聞くことなくスライドに投影しました。
被告側となった上司は「茶目っ気に溢れたクリエーションである」「研修会においてコスチューム着用や撮影について不満を述べていなかった」という旨を主張しました。しかし裁判所は「仮に任意であったとしても上司らの行為は違法になると判断」し、上司及び会社に対して慰謝料として原告に金20万円(合計290万円)を払うよう命じたのです。
余興はある程度の悪ふざけが許容されるかもしれません。もし上司から「罰ゲームだから」と強制されたら、断りたくてもなかなか拒否できない人の方が多いと思います。
労働者は上司のおもちゃではなく、生身の人間です。場をなごませる為にレクリエーションを行うなら、人事担当者として事前に断りづらい環境にならないように配慮やアナウンスをしたり、全社員に許可を得たりするなど心がけましょう。
出典:【第11回】明示的に拒否の態度を示していなくとも拒否することは非常に困難だったとして不法行為と判断された事案
パワハラ事件ケース2:悪質な集団嫌がらせが確認された事例
事案の概要
こちらのケースは大人版の集団いじめが職場で発覚したものです。
原告となった女性(X)は、いじめの首謀者であるD(仮名)を中心とする女性社員7名から悪口や陰口を頻繁に言われ、さらに上司であるN課長(男性)から跳び蹴りのまねや顔すれすれに殴るまねをされていました。
その後、原告の女性は女性社員らによるいじめやいやがらせにより、不安障害、抑うつ状態を発症。それに対して勤務先の会社が防止措置をとらなかったことに療養補償給付不支給処分の取り消しを求めました。
これに対し、裁判所が下した結論は“X(原告)に対するDら同僚の女性社員のいじめや嫌がらせは、いわゆる職場内のトラブルという類型に属する事実ではあるが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、嫌がらせともいうべきものである。”との見解を下しました。
いじめ問題は教育の現場でも度々取り上げられますが、大人が職場でかつ集団で行っていたという事実が衝撃的です。
Xさんは長期間耐えましたが、最終的に裁判を起こしました。
このケースは、民事損害賠償請求訴訟ではなく労働基準監督署長の不支給処分の取消しを求める行政訴訟でしたが、首謀者だけでなく相談を受けていた上司が適切な防止策を行わなかったとして会社の非についても言及されています。
社員の人権を守るためにも、人事担当者は、いじめはしない・させない・見逃さない対策を講じることが大切です。
出典:【第51回】同僚社員によるいじめや嫌がらせが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、嫌がらせであるとされた事案
パワハラ事件ケース3:上司が部下に対し身体的・精神的パワハラ
事案の概要
"消費者金融会社に勤務していた従業員3名が、上司及び会社を被告として(以下「被告上司」及び「被告会社」という。)、パワーハラスメントによる損害賠償請求訴訟を提起した事案。原告のうち1名は、被告上司のパワハラにより、抑うつ状態を発症したとして、慰謝料とともに治療費及び休業損害も請求した。"
原告となった従業員3名は、上司から「やる気がない。明日から来なくていい」「馬鹿野郎」「給料泥棒」などの暴言、背中や膝を蹴られる暴行、さらに配偶者にまで「こんなやつと結婚した物好き」という趣旨の悪口を言われたとして裁判を起こしました。
詳細は省きますが、最終的に原告の主張が認められ、治療費や慰謝料が支払われています。
上司がその立場を利用して悪質な嫌がらせを行う、パワハラの典型例でしょう。
このケースでは、見過ごした会社の責任も認められ、会社も原告に慰謝料などを支払うように通達されています。個人だけでなく会社を守るためにも、パワハラに対して適切な対処をすることが肝心です。
出典:【第17回】上司から受けたパワハラを理由とした損害賠償請求
人事担当者は、パワハラにどのように対処すべきか?
人事担当者がパワハラに対処する為に、まずはパワハラがあるかどうかの確認をする必要があります。
なるべく初期段階のうちに、適切な対処をすることが望ましいです。万が一の備えという意味でも「相談窓口」を設置しておきましょう。匿名または窓口の関係者のみが確認できるように、社員が気軽に相談・報告ができる仕組みと環境を日頃から整えておくことが大事です。
相談窓口は、人事労務担当者や産業医などに通じる内部の窓口と、社会保険労務士やメンタルヘルスの専門企業などに通じる外部の窓口の両方を設置しておくことをオススメします。
相談を受けたら慎重に事実確認を行い、行為者と相談者に対して取るべき措置を決定し実行します。
措置を講じた後は、行為者と相談者双方にフォローを入れることも忘れないことが大切です。会社としてパワハラ対策に対する取り組みの理解を得るようにしましょう。
また、再発防止策を検討して、同じような事案が生じないように対応することも求められます。ハラスメント対策に力を入れている企業の取り組みなどを参考にする方法も有効です。
人事担当者としての責任を持ち、パワハラの芽を事前に摘むような対策も積極的に検討しましょう。
まとめ
パワハラは、どの会社でも起こる危険性があります。
人事担当者が予め対処法を定めておくと、いざというときにもスムーズに対応できます。また、可能な限り予防策を講じて、なるべくパワハラの危険を避けることも重要です。過去の事例を参考にして、パワハラに毅然と対処できるように成長することが望ましいと言えます。
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