企業内弁護士の人数は、今後も増えていくのか?
2000年代の司法制度改革によって、法科大学院制度の導入とともに司法試験の合格者数が増加し、弁護士も幅広くキャリアパスが模索されるようになりました。その中でも大きなムーブメントのひとつが、企業内弁護士です。法律事務所勤務とは異なる魅力ある仕事ですが、今後、企業内弁護士の人数はどのように推移していくのでしょうか。
現状の企業内弁護士の人数
日本組織内弁護士協会(JILA)の統計によれば、2001年9月には全国でたった66人しか組織内弁護士は存在しませんでした。しかも、そのうち63人が東京都内に所在するという極端な偏在でもありました。しかし、2014年には1,000人を超え、2017年6月現在で1,931人を数えます。日本国内にいる弁護士の人数は38,930人、それは20人に1人が組織内弁護士という計算になることを示します。企業内弁護士は、弁護士にとってすでに代表的なキャリアパスとなりつつあるのです。ただし、関東圏だけでも全体の85%を超える1,644人の組織内弁護士がおり、そのうち1,601人は東京都内で弁護士登録をしています。偏在ぶりは相変わらずであり、その点はひとつの問題かもしれません。
とはいえ、東京都内に本社・本店機能を置いている企業が非常に多いのが現状ですので、組織内弁護士の偏在も、その実態に沿っている側面もあります。
企業内弁護士の人数は、今後増えていくのか
企業内弁護士を含む組織内弁護士の人数は、2001年から2017年までの間でおよそ30倍にまで膨らんでいます。2014年から2017年の3年間でも約2倍の増加率です。組織内弁護士は、需要のわりに供給が追いついていなかったために、今までが少なすぎたといえるのです。
司法試験の合格者を増やした結果、弁護士が余ってしまい、仕方なく就職を選ぶ弁護士が増えているとの議論もあります。ただ、今までは法廷に立つことや法律相談、破産管財人などの従来業務に重きを置きすぎて、それ以外の就職の選択肢が提示されてこなかったことに対する反動が、ここにきて強まっているのかもしれません。それが企業内弁護士の急増につながっている一つの要因ともいえるでしょう。
今後は、企業のコンプライアンス(法令遵守)を徹底し、株主や顧客、取引先などの社会全体へ向けて、信頼性と適法性のある経営体制をアピールするため、企業を中心に弁護士が所属して活動する動きがますます加速していくに違いありません。
また、契約まわりのチェックや交渉業務、知的財産権の行使など、企業の利益を防衛し、さらに経営を発展させるための切り札として、企業内弁護士は重宝され、活躍の場を広げていくことでしょう。
加えて、企業だけではなく、多種多様な領域にまで組織内弁護士のリーガルマインドが食い込んでいくことも考えられます。たとえば、一般社団法人やNPO法人などのうち、比較的規模の大きな組織に弁護士が所属するようになる可能性があります。
こうした動きは、今後もしばらく続いていくでしょう。日本国内で裁判の件数が減少傾向にあり、法廷弁護士らによる案件の奪い合い競争も激化していくことから、そうした競争から離れたい弁護士の勢力が、組織内弁護士を選択することも考えられるでしょう。
企業内弁護士を欲している企業の特徴とは
企業内弁護士のニーズがある企業といえば、ある程度の財政的基盤のある大企業が多いでしょう。企業内弁護士は、多くの場合は法務部に所属するでしょうが、法務部は直接的に会社へ利益をもたらす部署ではありません。よって、ほとんどの企業は後回しにします。企業内弁護士に求められるのは、社内におけるコンプライアンスの徹底や、社外における権利侵害行為の追及を行いつつ、さらには交渉や契約によって取引相手よりも不当に不利な条件を突きつけられないよう、企業活動の「守り」を固める役割です。
さらには、著作権や特許権などの知的財産権の行使などによって、企業に適正な利益をもたらす役割も期待されています。
まとめ
企業内弁護士の人数は確かに急増していますが、日本国内に400万社以上の企業がある中で、2,000人しか企業内弁護士がいないと考えると、明らかに需要と供給がとれていません。もちろん、顧問弁護士に相談すれば事足りる場合も多いですが、企業風土なども踏まえた上で、会社のために法律の力を使って尽くす企業内弁護士には、また別の役割が期待されているのです。
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