公認会計士に監査法人以外のキャリアの選択はある?
投資家に対して企業財務情報の信頼性を保証する監査・会計の専門家が「公認会計士」。これまでは、公認会計士は監査法人で勤務するのが一般的なキャリアでしたが、近年では監査法人以外にも広がっています。
では公認会計士になった場合、具体的にどのようなキャリアの選択肢があるのか詳しく見ていきましょう。
監査法人以外のキャリアの選択肢も増えている
医師、法曹(裁判官・検事・弁護士)と並ぶ「三大国家資格」の一つに位置付けられる公認会計士の業務は、法定監査(法律に基づく独占業務)と法定外監査および監査付随業務とされています。
これは公認会計士法第一条の「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする」の定義に由来します。
このため、公認会計士のキャリアというと「監査法人の公認会計士」をイメージする人が多いようですが、実は公認会計士には様々なキャリアがあります。
監査法人以外のキャリア
監査法人以外の公認会計士のキャリアを具体的に挙げると、事業会社で財務戦略を手掛ける公認会計士、事業会社のCFO(最高財務責任者)を務める公認会計士、コンサルティングファームで事業再生を手掛ける公認会計士、投資会社でベンチャーキャピタルを手掛ける公認会計士などかなり多彩です。
これを集約すると、監査法人以外のキャリアは次の4つのキャリアモデルに大別できます。
事業会社
近年、国際会計基準を導入する企業が増加しています。国際会計基準は日本会計基準より会計処理や財務諸表作成ルールが複雑なので、高度な会計専門知識を持った公認会計士のアドバイザリー(顧客に対する継続的な助言と支援)が不可欠になっています。
また近年は、大企業はもとより中堅企業でも直接金融の比率が増加しているため、資金調達手段が多様化しています。必然的に、必要な時期に必要な額をいかに資金調達するかの財務計画の重要性が高まっています。この財務計画の策定・実行においても公認会計士のアドバイザリーが欠かせない状況になっています。
このため公認会計士を社員として採用する事業会社が増えています。事業会社で活躍している公認会計士は、一般に「組織内会計士」と呼ばれます。組織内会計士の主な業務として、次が挙げられます。
- ●会計業務(国際会計基準財務諸表の作成、国際税務・管理会計のアドバイザリー、M&Aの財務デューデリジェンスなど
- ●財務業務(財務戦略の策定・実行支援、経営分析結果の経営計画への反映など)
- ●IR業務(経営・財務情報の分析・管理)
- ●経営企画業務
コンサルティング
公認会計士の間で近年、人気上昇中のキャリアがコンサルティングといわれています。具体的にはコンサルティングファームでのM&A、事業再生、経営・事業戦略策定、マーケティング戦略策定などのアドバイザリー業務です。
公認会計士がコンサルティングファームで活躍しやすいのは、公認会計士が身に着けている財務・会計・経営管理の高度な専門知識をアドバイザリー業務でいかんなく発揮できるからだといわれています。
公認会計士がコンサルティングファームにおいて実際に活躍している主な事例として、次が挙げられます。
- ●企業参謀としてトップの意思決定の精度を上げるための経営・事業の現状分析と改革提言
- ●基幹系・業務系システム導入のアドバイザリー
- ●国際会計基準導入に関するアドバイザリー
- ●事業再生・組織再編計画策定のアドバイザリー
- ●経営統合・会社分割のアドバイザリー
- ●株価・知的財産等の評価
- ●経営リスク監査(内部統制システムの信頼性・安全性・実効性等の評価・検証)
- ●資金管理、在庫管理、固定資産管理など管理会計の制度設計・改善のアドバイザリー
会計事務所
会計事務所は、株式未公開の中小企業や個人事業主を対象に税理士業務(独占業務および付随業務)を提供している事業体です。
公認会計士の場合、税理士試験を受けなくても税理士登録をすれば税理士業務も行える特例措置があるので、大手会計事務へ就職する、あるいは監査法人等で経験を積んだ後に会計事務所を開業するなどの公認会計士が少なくありません。監査法人のキャリアと並ぶ公認会計士のポピュラーなキャリアといえます。
公認会計士が会計事務所において実際に行っている主な業務として、次が挙げられます。
- ●税務代理(確定申告、国税不服申立て、税務調査立会いなど)
- ●確定申告書等各種税務書類の作成代行
- ●税務相談(節税対策や納税に関する助言)
- ●記帳・給与計算・年末調整代行
- ●経理業務指導
- ●銀行との折衝等資金調達指導
- ●トップの経営参謀役(会計・経営管理に基づく経営助言)
そのほかベンチャーのCFOなど
近年、公認会計士の新たな活躍の場として関心が高まっているのがベンチャー企業のCFOといわれています。
イノベーション事業創出を目的とするベンチャー企業の場合、トップの資質に基づくオンリーワンの商品開発力やビジネスモデル構築には優れていますが、それを支え継続的に発展させるための経営管理部門が脆弱なのが一般的な特徴といえます。
この経営体質的弱点を克服するため、財務・会計・経営管理の高度な専門知識を身に着けた公認会計士をCFOとして招聘するベンチャー企業が増加傾向にあります。実際、ベンチャー企業のCFOに就任する若手公認会計士も増加しているといわれています。
ただしCFOといっても、機能分担が明確な大企業等のCFOと異なり、トップの補佐役であり、「経営管理の責任者」的なポジションがベンチャー企業のCFOといえそうです。したがって、ベンチャー企業のCFOとしての公認会計士の主な業務として、次が挙げられます。
- ●月次・四半期・年次決算の迅速化と高精度化
- ●予算の制度化と管理会計の充実
- ●客観的データに裏付けられた事業計画書の作成と直接金融市場からの資金調達
- ●人事・労務制度の設計等組織整備、経営・法務リスク管理体制整備、株式公開準備
この他、金融機関や投資ファンドで本部決裁の融資審査や投資アドバイザリー業務で活躍している公認会計士も少なくありません。
このように公認会計士のキャリアは、今後やりたいことに合わせて様々な選択肢がありますが、その分どのキャリアに進むか迷いやすいとも言えます。
自分に合ったキャリアが分からないと不安に感じている場合は、一度会計士専門のキャリアアドバイザーに相談してみましょう。
監査法人以外のキャリアを選ぶメリット
公認会計士にとってこれまで王道とされてきた監査法人以外のキャリアを選択することは、特に初めての転職の場合、不安に感じることが多いと思います。
しかし、監査法人以外のキャリアを選ぶことで以下のようなメリットがあります。
若手会計士の場合は年収アップの可能性がある
監査法人から転職すると年収が落ちるのではないかと考える方もいますが、若手会計士の場合は事業会社への転職で年収が上がる可能性があります。
以下は、2023年にMS-Japanが運営する「MS Agent」を利用して転職決定した公認会計士の勤務先別平均オファー年収です。
勤務先 | 平均オファー年収 |
---|---|
監査法人・会計事務所・コンサル系 | 701万円 |
インハウス(事業会社) | 823万円 |
監査法人を含む勤務先の平均オファー年収よりも事業会社への転職の方が年収が高いことが分かります。
転職決定者の年齢や企業規模などが異なるため一概には言えませんが、昨今、事業会社における会計士の需要が高まっていることから、特に若手会計士が監査法人から事業会社への転職で年収を上げている事例が多くみられます。
ワークライフバランスを整えることができる
監査法人は、クライアントの決算時期の前後に繁忙期を迎え、その時期には残業や求人出勤などにより、ワークライフバランスを保つことができない可能性があります。
また、最近では監査業務の複雑化が進んでいる一方、監査法人の会計士不足が問題になっており、以前よりも監査法人に勤務する公認会計士は忙しくなっていると考えられます。
事業会社にも繁忙期はありますが、一般的に事業会社の方が残業などは少ないため、事業会社への転職でワークライフバランスを整えることが可能です。
幅広い業務経験を積むことができる
事業会社やコンサル、会計事務所などでは、監査法人では経験できない業務があります。
特に事業会社では、クライアントではなく自社企業のあらゆる課題に対してアプローチをすることができるので、企業経営に直接関わることができます。
他にも監査以外の様々な業務経験を積むことができるので、さらなるキャリアアップにも繋がります。
まとめ
あなたが公認会計士資格を取得したら、キャリアの選択肢は大きく分けて2つになります。
1つ目の選択肢は、監査法人に就職して監査業務の経験を積み、最終的には監査法人のパートナーになるか独立して会計事務所等を開業する。
2つ目の選択肢は事業会社、コンサルティングファームなどに就職(あるいは監査法人等から転職)して監査法人以外のキャリアの道を歩む。2つ目の選択肢の場合は、既述のごとくその業務内容は様々で多彩です。
いずれのキャリアの道を歩むにせよ、公認会計士としての高度な専門知識をバックボーンに、その事業体において欠かせないキーパーソンとして活躍できるはずでしょう。
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