公認会計士がIPO準備中企業に転職した際の役割は?待遇や転職するメリットについて解説
近年、公認会計士がベンチャー・スタートアップ企業の「IPO準備」に関わるケースが増加しています。
大手企業のような安定性、堅実性は約束されないものの、上場を目指して組織で一丸となって活動するIPO準備中企業での業務は、大きなやりがいがあります。
そこで今回は、公認会計士がIPO準備中企業に転職した場合の役割、待遇、転職するメリットについて詳しく解説します。
IPO準備中企業の転職市場は?
日本国内において、近年非上場企業が上場企業にM&Aで買収されるケースも増えてはいますが、いまだベンチャー・スタートアップ企業の出口戦略としてはIPOが一般的です。
国内のIPO達成企業はリーマンショック後から増加傾向にあり、世界的な金融緩和が起こった2021年の125社からは少し下火にはなりましたが、依然としてIPOマーケットは活況で、公認会計士の採用ニーズも高いです。
また、従来は未上場企業の場合、大手企業と比較して待遇面で劣るという印象はありましたが、昨今は大型の資金調達も増えており、調達資金の使い道として人材に投資する企業も増えているため、年収も大手企業と遜色ない水準にまで引き上がっています。
日本経済新聞社が実施した「NEXTユニコーン調査」によると、正社員の年収を開示した78社について2023年度平均見込み額は、前年度比6%増の710万円であり、上場企業を上回る水準でした。
人材の獲得競争が激しさを増すなか、有望なスタートアップ企業は待遇面でも大手企業に対抗できる実力を備えつつあります。
企業がIPOを目指すことは何が大変なのか
株式会社の経営者は、証券取引所への上場を大きな目標の1つとすることがあります。
なぜなら、資金調達額の大きさだけでなく、知名度が上がり、取引先や顧客からの信頼度も高まるからです。
しかし、IPOへの道のりは険しいものです。
基本的には毎年「増収増益ベース」で推移している企業であることが最低条件とされており、そこまで市場に安定的に支持される商品やサービスを提供できるベンチャー企業は、ごくわずかです。
たとえ見事IPOを達成したとしても、その後が大変です。
株式の上場によって、株主が経営に積極的に関わってくることもあり、株主への説明責任を果たすための仕事に忙殺されてしまう局面も少なくありません。
また、株式を大量に取得されてしまい、他の企業に買収されてしまうなど、経営の自由度が狭まることもありえます。
IPO準備中企業での公認会計士の業務内容は?
IPO(新規株式公開)を実現するには、各証券取引所が規定する「上場審査基準」をクリアする必要があります。
ベンチャー企業が上場する枠組みには「グロース市場(旧マザーズ)」や「スタンダード市場(旧JASDAQ)」がありますが、これらの上場審査基準は東京証券取引所の「東証プライム市場」に比べるとやや緩やかです。
しかし、経営基盤の弱い企業にとっては依然として大きなハードルとなります。
上場審査基準には、上場時の株主数や時価総額などの定量的な要件のほか、「事業内容やリスクの情報開示が適切に行えるか」「事業運営が公正かつ誠実であるか」「事業計画の実行に必要な基盤があるか、または合理的に整う見込みがあるか」などの定性的な基準も含まれています。
このように、上場審査をクリアするためには、専門家のサポートが不可欠であり、企業単独では非常に困難です。
そのため、多くのIPO準備中の企業では、企業会計の専門知識を持ち、IPO実現に必要なアドバイスを客観的に提供できる公認会計士の力が求められています。
こうした背景から、経験豊富な公認会計士をCFO(最高財務責任者)として迎え入れる動きが盛んに行われています。
IPO準備中企業での公認会計士が果たす役割には、具体的に以下のものがあります。
経理規定の作成
経理・財務に関わる内部統制の構築、評価を行い、社内規定に沿って運用されているかをチェックします。
もし規定に合わない状態が確認されたら、その改善に向けた助言を行います。
監査法人への対応
IPOでは、直前2期分の財務諸表について監査を受ける必要があります。
上場の要件としては過去に遡っての監査はできないとされているため、最低でも3年前から継続して監査を受けている必要があります。
この監査を受ける前に公認会計士が問題点を発見、改善し、万全の体制で監査を受けられるように対応します。
証券会社と証券取引所による審査対応
証券会社・証券取引所からの審査にクリアするため、公認会計士が事前対応、指摘された際の対応などを行います。
フロー整備(決算の早期化、プロセス設計、API連携など)
上場企業は非上場企業よりも決算までの手間が増えるため、決算前の監査を早々に完了し、決算を早期に進められるようにアドバイス・サポートを行います。
必要に応じたシステム導入
監査に耐えられるような形で財務諸表を作成できる会計システムなど、IPO準備中に必要なシステムを導入します。
会計士がIPO準備中企業で評価される経験とは?
IPO準備中企業で評価される経験としては、次の2つが挙げられます。
監査法人でのIPO支援経験
公認会計士試験に合格して修了考査を終えた人の多くは、監査法人にてキャリアをスタートさせます。
その監査法人でIPO支援の実務経験を積んでおくと、IPO準備中企業への転職は有利になります。
将来的にIPO準備中企業への転職を視野に入れている場合、IPO支援未経験のうちに転職活動を始めても、経験不足により希望する企業からの採用は難しくなります。
監査法人の在職中にIPO支援業務に従事し、その経験を武器にして転職活動を行うのが望ましいでしょう。
ただし、大手監査法人などの場合、自分の希望通りにIPO支援の実績を積めるとは限りません。
その場合も、いきなりIPO準備中企業に転職するのではなく、アピールできる実績を築くため、IPO支援を専門的に行っている中小規模の監査法人に転職するという方法も一手です。
コンサルティングファームでの経験
監査法人でIPO支援業務の経験をある程度積んだ後、実績やスキル、知識にさらに磨きをかけるため、コンサルティングファームに転職するのも1つの方法です。
コンサルティングファームでIPO支援の実績を積めば、次の転職でIPO準備中企業のCFO(最高財務責任者)を目指すことも可能になるでしょう。
コンサルティングファームでは、クライアントの経営層と密なやり取りが必要です。
監査法人よりも経営に近い立場で経験を積むことができるだけでなく、幅広いビジネスモデルを扱うため、得られる実績にも幅ができます。
また、幅広い人脈を築けるのもコンサルティングファームの利点です。
コネクションが増えれば、IPO支援に従事する際の助けになるため、転職先を決める上での判断材料にもなります。
以上を踏まえると、IPO支援の専門家として着実にキャリアアップを図るなら、監査法人→コンサルティングファーム→IPO準備中企業(可能ならそのCFO)と経験を積んでいけると理想的でしょう。
IPO準備中企業に転職する公認会計士のメリットとは?
経営層になれるチャンスがある
IPO準備中企業は大手企業と比較して福利厚生や組織体制に関しては脆弱なケースが多いですが、組織が成熟していないがゆえに役員等の重役のポストに余裕があり、活躍次第ではCFO等の経営層を狙うことも可能です。
やりがい・自己成長
やりがいがある仕事ができる・自己成長できる点もメリットです。
近年、ファイナンス環境は大きく変化しており、資金調達手法もさまざまです。
そういった環境変化に対応するためには日々知識をアップデートして、課題解決に向けて試行錯誤する必要があります。
IPO準備中企業では、経理財務などの公認会計士が得意とする領域だけでなく、ビジネスサイドへの参画も求められるため、新しいことに挑戦し、成長し続けることができるやりがいも大きな魅力です。
IPO準備中企業に転職した公認会計士の事例4つ
IPO準備中企業・公認会計士歓迎求人を4つご紹介します。
株式上場の夢を果たしたい!40代・公認会計士の挑戦
Sさん(45歳/男性)
ベンチャー企業
年収:1,000万円
IPO準備中企業
年収:1,000万円
Sさんはベンチャー企業に10年間勤務していましたが、入社時から目標にしていたIPOの実現は果たせず、目標を失う状態に陥りました。
悩んだ結果、やはりIPOに携わりたいとの思いを実現させるため転職を決意します。
40代であるSさんは、持ち家で子どもが二人いるため、年収を大きく下げる転職や将来性が読めないベンチャー企業への転職はできないと考えていました。
しかし、IPO市場が加熱している現在、しっかりと情報収集をすれば、比較的社歴の長い安定企業のIPO準備中企業の求人もあります。
最終的に、IPO準備中中堅メーカーの経理部長の内定を獲得し、入社に至りました。
さらなるキャリアアップを目指してIPO準備企業への転職を実現
Mさん(37歳/女性)
大手上場企業
年収:1,000万円
IPO準備中企業
年収:930万円
公認会計士試験に合格後、大手監査法人で経験を積み、その後に上場企業の経理へ転職しました。
さらなるスキル、キャリアアップを図るべく、上場達成の経験を積むためにIPO準備中企業への転職を考えます。
しかし、子どもがいることから、働き方や年収についてもある程度配慮する必要があり、その点を条件面として考えていました。
転職活動の結果、上場企業とIPO準備中企業の2社から内定を獲得しました。
提示年収は上場企業の方が高かったのですが、「上場達成の経験を積みたい」との以前からの希望により、IPO準備企業の経理マネジャーへの転職を決めました。
CFOを目指し、監査法人から設立3年未満のスタートアップ企業へ転職
Tさん(20代後半/男性)
大手監査法人
年収:900万円
IPO準備中企業
年収:750万円
大手監査法人で約5年にわたり金融機関をクライアントとした監査業務に従事し、規模の大小問わずさまざまなクライアントの監査経験を積み、シニアにも昇格してチームマネジメントの経験もありました。
将来的に事業会社のCFOになりたいと考えており、少数精鋭のIPOベンチャーで事業会社の会計や上場準備を広く経験したいと希望し、転職を決意しました。
転職活動の結果、条件面だけでなく、自身が思い描くキャリアから逆算で転職先を決めることにし、幅広い経験を優秀な経営者のもとで積めるIPO準備中スタートアップベンチャーへの転職を成功させています。
監査法人からIPO準備企業の管理部長として転職
Bさん(30代前半/男性)
中小監査法人
年収:700万円
IPO準備中企業
年収:850万円+SO
Bさんは、監査法人に在籍していましたが、今後のキャリアを考えて事業会社への転職を決意しました。
監査法人では上場企業~IPO準備中企業まで幅広く対応していたため、企業フェーズに応じた業務や社風について、一定のイメージを把握していました。
働き方としては、一定の裁量をもちながら自由な環境で、スピード感をもちながら成長できる環境を希望していました。
最終的にIPO準備中の企業に管理部長候補としてオファーを受けました。年収も大きくアップしています。
IPO準備中企業の公認会計士向け求人
IPO準備中企業・公認会計士歓迎求人を3つご紹介します。
IPO準備中 IT・通信業界 経理財務部長候補
仕事内容 |
・月次、四半期および年次決算業務全般 ・入出金管理/資金繰り管理 ・財務業務(金融機関などとの折衝業務含む) ・管理会計業務(予算管理業務、差異分析業務など) ・原価計算・PJT 収益管理のための社内業務フロー構築 など |
想定年収 |
800万円~950万円 |
IPO準備中企業 マスコミ・広告業界 CFO候補
仕事内容 |
・決算業務(主にチェック業務) ・証券会社、監査法人対応 ・IPO準備業務(Ⅰの部、Ⅱの部の作成など) ・予算立案および管理、予算実績再分析など ・管理会計(財務分析から経営層へのレポーティング)など |
想定年収 |
1,000万円~1,300万円 |
IPO準備中企業 コンサルティング業界 M&Aアドバイザー
仕事内容 |
・後継者不足などで悩む企業経営者の経営相談 ・M&A戦略を含めたさまざまな選択肢を提案 ・譲渡希望の経営者に対しては、譲渡先の発掘からクロージングまで支援 |
想定年収 |
800万円~年収1,500万円 |
まとめ
IPOを目指す企業にとって、公認会計士のサポートは不可欠です。
複雑な上場審査基準をクリアするためには、専門的な知識と経験を持つ公認会計士の力が求められています。
しかし、公認会計士としてIPO準備企業で活躍するためには、自身のキャリアパスを見極め、最適な求人を見つけることが重要です。
「MS Agent」は、公認会計士に特化した転職エージェントとして、経験やスキルを最大限に活かせるIPO準備企業への転職をサポートします。
「MS Agentではどのようなサポートをしてくれるの?」と疑問に思われた方は、 「MS Agent」の転職サービス紹介をご確認ください。
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この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、大手出版系企業を経て現職へ入社。
主に大手・新興上場企業を対象とする法人営業職を4年、キャリアアドバイザーとして10年以上に及ぶ。
経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 経営企画・内部監査 ・ 会計事務所・監査法人 ・ コンサルティング ・ 役員・その他 ・ IPO ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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