監査法人のパートナーになるためには?求められるスキル・適性や待遇を解説
監査法人は、比較的明確に職位が決められており、明確なキャリアパスが特徴です。職位の頂点に位置するのが「パートナー」ですが、そもそも監査法人のパートナーが何なのかよくわかっていないという方も多いでしょう。
また、パートナーになるために求められるスキルや、どれほどの待遇になるのかに疑問を感じている人もいるかもしれません。そこで今回の記事では、監査法人のパートナーの概要や、パートナーになるステップを紹介します。
そもそも監査法人のパートナーとは?
監査法人のパートナーとは、監査法人の共同経営者を意味します。監査法人における役員であり、責任者です。「従業員として雇用される側」ではなく、「使用者として雇用する立場」であり、監査法人における職位の頂点に位置します。
パートナーを理解するためには、監査法人の性質についてよく理解する必要があります。一般的な企業では、「所有と経営の分離」が行われており、出資者(株主)と経営者(役員)は別の立場になります。
しかし監査法人は、公認会計士が共同出資をして成り立っている組織であり、一般企業のように「所有と経営の分離」がありません。つまりパートナーは監査法人の共同経営者であり、かつ出資者として扱われます。
パートナーは会計監査の最終責任者です。スタッフやマネージャーに不手際があり、監査に誤りがあった際は、対外的な責任を負います。一般的な管理職とは比較できないほど、責任の重い立場です。
パートナーは、上場企業の有価証券報告書のひとつである「監査報告書」に、署名捺印をします。「この企業の財務諸表類は、正当な内容です」「粉飾などの事実は見当たりません」といったお墨付きを与えることで、投資家に対して更なる投資を促します。
監査法人のパートナーになるための道のり
スタッフ
監査法人に勤務することになった会計士は、最初「スタッフ(ジュニアスタッフ)」と呼ばれる立場となります。
月収はおおよそ30万円ほどで、賞与や諸手当を含めて、年収は500万円前後で、残業代を含めると600万円前後になるでしょう。会計士資格を取得するまでに要した先行投資や時間などを考慮すれば、やや心もとない待遇かもしれません。ただ、どの会計士もスタッフの職位からスタートです。
上司や先輩の指示を仰ぎながら、会計監査の最前線の現場で働くことになります。クライアント企業の生産現場などを視察したり、関係者から話を聞き取ったりするために、全国各地に出張することもあるでしょう。監査法人のオフィスにはほとんど戻らず、クライアントの事務所で作業をすることも少なくありません。また、各企業の決算直後の時期にあたる4月~5月は、監査法人にとっての繁忙期に該当します。そのため、膨大なチェック作業を完了させるまでには、深夜にまで及ぶ残業も発生するでしょう。
体調を崩さないよう、くれぐれも気をつけながら繁忙期を乗り越えなければなりません。ただ、このときの働きぶりがその後の出世に繋がるのも確かです。他人の手柄を奪ったりするのはアンフェアですが、自分の手柄や成果、業務の合理化などを嫌らしくなく上司にアピールすることも、出世に結びつけるためのスキルといえます。
シニアスタッフ
法人内で働きぶりを認められたスタッフは、3~4年ぐらいのキャリアを積んだ後、「シニアスタッフ」に昇格します。
シニアスタッフはインチャージを任されることも増えるでしょう。インチャージとは、監査の現場を俯瞰して観察し、各スタッフに的確な指示を出す「現場監督(主任)」のような役割を果たします。
年間スケジュールを策定し、日々の業務がスケジュール通りに進んでいるか、その進捗管理もシニアスタッフの日常業務です。
複数の会計士スタッフをチームとして取りまとめるリーダーシップが求められますし、的確な指示を出すための前提として、上司やクライアント企業と密接なコミュニケーションを採る必要があります。月収は40万円台、年収は650万円前後で、残業が多い人は800万円近くまでのぼることもあるでしょう。
マネージャー
シニアスタッフとして成果を出した会計士は、マネージャーに抜擢されます。監査法人に入所してから、早ければ10年前後でマネージャーまで昇格できます。
マネージャーはシニアスタッフの動向を監督し、報告を受けたり許可を出したりするマネージメント業務を行います。管理職として時間外手当(残業代)が付かないので、シニアスタッフよりも勤務時間あたりの対価が減るおそれもありますが、年収は900~1,200万円ほどになります。マネージャーとしてさらに実績を積むと、シニアマネージャーへと昇格することができ、シニアマネージャーは年収1,200~1,500万円が年収目安です。
パートナー
マネージャーとして優秀な働きをした会計士のみが「パートナー」に抜擢されます。
パートナーとは、言うまでもなく監査法人の共同経営者を意味します。監査法人における役員であり、出資者であり、責任者です。「従業員として雇用される側」から「使用者として雇用する立場」となる、重要な転換点なのです。
パートナーは、会計監査の最終責任者です。スタッフやマネージャーに不手際があり、監査に誤りがあったときには、対外的な責任を負います。上場企業の有価証券報告書のひとつである「監査報告書」に、署名捺印をしますので、「この企業の財務諸表類は、正当な内容です」「粉飾などの事実は見当たりません」といったお墨付きを与えることで、株主に安心感を与えて、投資家に対してさらなる出資を誘引します。
パートナーの年収・待遇
パートナーにもなると、年収2,000万円を超える方が多いです。法人・個人の状況によって更に高い水準となり、代表になれば年収数千万円にもなる場合があります。出資者なので、こうした待遇の点は監査法人の業績次第で大きく変動しますが、シニアマネージャーだと年収2,000万円を突破することはなかなか難しく、年収に天井が見えてしまいますが、パートナーに成れば2,000万円の壁を越えた後も、数百、数千万円単位で年収を伸ばしていくことができます。福利厚生面は、一般企業より見劣りすることもありますが、報酬で凌駕します。
早い人では十数年ほどでパートナーの座を獲得する場合もあります。その一方で、監査法人は年功序列ではないので、在籍年数にかかわらず、パートナーに迎え入れられる見込みがない会計士もいます。
会計士としてのスキルや頭脳明晰性だけでなく、社交性やリーダーシップ、精神的なタフネスなど、組織のトップにふさわしいとみられる人材がパートナーに登用されやすいでしょう。
退職後のキャリア・退職金
退職後のキャリア
パートナーの退職後は、さまざまな組織の顧問やアドバイザー、大学教員などに転身する場合があります。
例えば、社歴の長い上場企業の社外監査役のポストは元監査法人のパートナーが務めるケースが多いです。伝統ある企業の社外役員ともなると、かなりの実績を積んだ人しか務めることができないため、監査法人のパートナー退職者に白羽の矢が立つのです。
退職金
パートナーに就任する際には職員から出資者側になるために一度監査法人を退職し、パートナーに就任します。この一度退職するタイミングで、それまで勤続した年数分の退職金を一度受け取ることができるため、パートナーは実質的に2度退職金を受け取れるのです。
監査法人の退職金は比較的少額と言われることが多いですが、それはパートナー以外の職員の話であり、パートナーになると退職金は千万円単位、人によっては1億円近くにのぼるケースもあります。
これだけの退職金とこれまで積み上げてきた実績があれば、退職後に個人で事務所を開設して会計士として活躍し続けることも、仕事からは引退して残りの人生を悠々自適に過ごすことも思いのままです。
監査法人のパートナーは責任重大
監査法人のパートナーは監査法人の経営者に当たるため、その責任も重大なものです。上記の通り、相当額の報酬が期待できる一方で、経営者として数多くの責任も同時に引き受ける必要があります。
具体的には、以下の6つです。
- •監査品質の維持・向上
- •期日遵守
- •人材育成
- •労務管理
- •収益性の維持
- •クライアントの満足度向上
それぞれの責任を詳しく解説します。
監査品質の維持・向上
監査法人のパートナーが求められる責任の中で、とくに重要なのが「監査品質」の維持と向上です。パートナーは、監査の品質を保証する最終責任者です。監査が適切な基準に従って行われ、正確で信頼性の高い財務報告を作成する必要があります。
パートナーは、自身の専門知識と経験を活用して、複雑な会計処理や財務報告の問題に対処します。チームメンバーを指揮しつつ、監査プロセス全体を通じて高い品質基準が維持されるようにします。
チームメンバーを指揮しつつ、監査プロセス全体を通じて高い品質基準が維持されるようにします。
期日遵守
監査法人のパートナーは、監査業務に関連する法定期限を遵守する責任があります。監査に限った話ではありませんが、期限を守ることは、クライアントとの信頼関係を築いていく上で不可欠です。
監査プロセスは複雑で時間がかかるため、効果的な監査計画とスケジューリングが必要です。パートナーは、監査が計画通りに進行し、すべてが適切に審査されるようにする責任をもちます。
監査法人内部でのプロセス管理も、期日遵守に直接関連する要素です。パートナーは、内部でのレビューや前述の品質管理、報告書の最終承認など、監査プロセスの各段階が期限内に完了するようにしなければなりません。
もちろん、計画通りにいかないこともあるため、その際はクライアントのコミュニケーションを通じて軌道修正を行います。
人材育成
監査法人のパートナーに求められる責任の中で、人材育成は大変重要な要素です。もちろん人材育成はどの企業でも重要ですが、とくに監査法人のように商品・サービスそのものよりも「人材」の価値が高い企業にとっては、育成が欠かせません。
ただしパートナーは監査法人の共同経営者であり、組織の人材すべての育成に責任をもつわけではありません。直属の部下であるマネージャーを育成し、自身の責務を全うできるようにします。
「後継者」というと少し大袈裟ですが、いずれパートナーに推薦したい人を見つけて、重点的に育成するのも重要です。
労務管理
パートナーは、労務管理の責任を負う立場でもあります。監査法人は、一般的に長時間労働が常態化しやすい組織です。チームメンバーのストレスレベルをチェックし、ワークライフバランスを保つための措置を講じる必要があります。
また、プロジェクトごとに適切な人員を配置し、必要なリソースを割り当てるのも重要な仕事です。チームメンバーのスキルと経験を考慮した上で、効率的かつ公平に仕事を割り当てる必要があります。
しかし上記のような労務管理は、基本的にはマネージャーが主導して行います。ただし、違反が認められるようなことがあれば、パートナーに責任が求められるという仕組みです。
パートナーは、労務管理を行う主体であるマネージャーの健康にも配慮する必要があります。
収益性の維持
収益性の維持も、パートナーが負うべき責任です。監査法人のビジネスは労働集約型で、従業員を稼働させればさせるほど、収益が上がる構造になっています。
もちろん監査法人の共同経営者として、収益を追求するのも重要ですが、注意しておきたいのがその「健全性」です。組織のコストなどを分析し、不当に高すぎる(低すぎる)ものはないかどうかを考えます。
収益が低い場合は、その改善をするのもパートナーの仕事です。たとえば、クライアントごとの収益をみて、採算が合っていないプロジェクトを洗い出します。基本的には「業務効率を改善する」「報酬の交渉をする」の2つのパターンで、収益の改善を目指します。
クライアントの満足度向上
監査法人のビジネスは、クライアントとの関係があってはじめて成り立つものです。パートナーは、クライアントに満足してもらうために、業務管理や改善などを行います。クライアントが満足している、つまり信頼してもらっている状態であれば、効率的に監査を行う際にも大きく役立つでしょう。
クライアントの満足度を高めるためには、パートナー自身が誠意のある対応をする必要があります。監査品質などの話とも関連しますが、チームへの的確な指示を通して品質を担保し、クライアントの満足度を高めていくのが重要です。
監査法人のパートナーの適性とは?
監査法人のパートナーの適性として求められるものは、以下の3つがあります。
- ・強靭なメンタル
- ・ホスピタリティ、人間性
- ・リーダーシップ
それぞれの適性について詳しく解説します。
強靭なメンタル
監査法人のパートナーを務めるためには、強靭なメンタルが必要です。パートナーは、本記事で紹介してきたさまざまな責任を負わなければならず、その重圧は凄まじいものでしょう。最悪の場合、刑事事件や社会問題に発展するリスクもあります。
たとえば期日の厳しさや問題解決、クライアントやチームからの多様な要求など、パートナーは多くのストレス要因に直面します。強靭なメンタルは、ストレスを効果的に管理し、冷静かつ合理的な意思決定を行うために欠かせません。
ホスピタリティ、人間性
監査法人のパートナーに求められる重要な特性として、ホスピタリティと人間性があります。ホスピタリティとは、クライアントやチームメンバーに対する思いやり、効果的なコミュニケーションです。
人間性は、誠実さ、正直さなどの特性を意味します。人間性の高いパートナーは、チームの手本となるような立ち振る舞いをし、従業員(とくに直属の部下であるマネージャー)やクライアントとの強固な関係を維持できるでしょう。
リーダーシップ
監査法人のパートナーに限った話ではありませんが、人の上に立つ立場として、リーダーシップは欠かせないでしょう。まずは、直属の部下であるマネージャーを管理し、滞りなく業務を進める必要があります。
とくに監査の場合は、大規模なチームで業務に当たることも珍しくありません。チームを統率し、期日以内に監査を進める力が、前提として求められます。
監査法人のパートナーになれない場合は、、
上述のように、監査法人のパートナーは非常に魅力的な待遇ですが、それだけにパートナーに上り詰めるハードルは非常に高いです。監査法人で勤務している会計士の方の中には、自分はパートナーに成れないのではないかと不安を抱えている方もいるでしょう。
監査法人においては、職員かパートナーかで待遇が全く違うため、もしそのような不安があるのであれば、別のキャリアを模索することも方法の一つです。
昨今では会計士の活躍のフィールドが広がっているため、一度監査法人から飛び出して、他の環境に身を置くことで、新たな発見があるかもしれません。例えば、以下のような選択肢があります。
一般企業に転職する
近年では一般企業で勤務する会計士(インハウス会計士)の数は増加傾向にあり、日本公認会計士協会によれば、組織内会計士ネットワーク会員数は2014年時点では1,292名だったのに対し、9年後の2023年には2927名にまで数を増やしています。
高度な専門性を持つ会計士は非常にニーズが高いため、退職金を多く得たいのであれば大手企業に転職するという手もありますし、大金を稼ぎたいのであれば、スタートアップ企業に転職し、IPOを達成した際にSOを得るという手もあります。
【参考】
日本公認会計士協会「組織内会計士ネットワークについて」
会計事務所・税理士法人に転職する
ゆくゆくは独立して自分の事務所を持ってみたいという気持ちがある方は、会計事務所に転職することも有効でしょう。会計事務所で会計士が勤務するメリットとしては、①税務の実務経験を積める②監査法人とは違ったクライアント層にサービスを提供できる、という2点が挙げられます。
税務の実務経験を積むことによって、独立した際には税務顧問先をいくつか獲得することさえできれば、月額で顧問料を得ることができるので、精神的に安定した事務所経営ができます。
また、会計事務所のクライアントは個人~中小企業がメインとなり、監査法人にいたときとはまた違ったクライアントとの距離感で仕事ができるため、新しい発見があるかもしれません。
税務顧問という仕事は、クライアントに代わって税務申告の手続きをしたり、クライアントの経営相談に乗ることが多いため、クライアントと近い距離で、感謝される仕事をすることもメリットの一つでしょう。
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まとめ
監査法人にも、かつては年功序列で勤続年数に応じてパートナーに迎え入れられる時代がありました。
しかし、現在は実力主義が幅を利かせており、パートナーに出世できる会計士は一握りです。
経営者としての立場となるため年収も地位も高く、一度は目標とする会計士は多いで、求められる責任は重く、多くの適性も必要とされるため簡単に務まるわけではなく、難しいポジションです。
ただ、出世がすべてではありません。一般企業の経理部や経営コンサルティングファームなど、監査法人の出世コースとはまた違った会計士の転身先は、いくつもあります。
転職を考えはじめたら、まずは転職エージェントに相談することがおすすめです。最新の情報をもとに多くの選択肢を検討することが可能となります。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、飲料メーカー営業、学習塾の教室運営を経て19年MS-Japanに入社。キャリアアドバイザーとして企業管理部門、会計事務所などの士業界の幅広い年齢層の転職支援を担当。
経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 経営企画・内部監査 ・ 会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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