地方の弁護士の就職事情
多くの弁護士が首都圏や近畿圏といった大都市部に集中して業務を行っている「弁護士偏在」は、昔から社会問題になっていました。その裏返しで、地方に住む人々は満足な法的救済が受けられないと指摘されて久しいのです。では、弁護士が地方で活躍することは本当に難しいのでしょうか。
地方での弁護士の就職状況は、良好か?
「地方」とひとことで言っても、人口あたりの裁判数が多い九州と、裁判数が比較的少ない東北や甲信越地方では、取り巻く背景が異なります。さらにいえば、法律事務所ごとの事情の違いもあるため、就職先にありつきやすいかどうかは、一概に言えません。
まず、指摘しなければならないのは、弁護士の数が極端に少ない「ゼロワン地域」についてです。全国には、地方裁判所の本庁が50箇所あります。各都道府県庁所在地に1つずつと、北海道の釧路・旭川・函館に設置されています。さらに、その支部が各地に203箇所あり、全部で253箇所に管轄が分割されています。
これらの管轄内に、弁護士が1人ないしゼロ人しかいない地域を「ゼロワン地域」と呼ぶのです。つまり、ある地域で法律上の争いが生じて、双方に弁護士が就くことを想定したときに、少なくとも片方は管轄外に事務所を構える弁護士を呼び寄せなければならない状況となるのです。そのために「ゼロワン地域」では、裁判や交渉のたびに必要となる弁護士の往復交通費や宿泊代などを、クライアントが持たなければならず、十全な権利行使に支障が生じている状態といえます。
2015年には、各地方裁判所本庁・支部の管轄内すべてに、複数の弁護士が赴任している状態となり、「ゼロワン地域」は形式上解消されています。しかし、あくまでも形式上・統計上の話です。
法律事務所の看板を一応は掲げているものの、実際には高齢ゆえにほぼ稼働を休止している弁護士も、その統計に含まれています。また、大都市部の法律事務所から、キャリア数年の若手弁護士が派遣されて、その地域に赴任している場合もあります。もちろん、稼働実態がまったくない高齢弁護士よりは、「赴任」という統計に入れる意義もありますが、さらに数年経てば大都市部へ戻る可能性が高く、その地域に根付いて庶民から末永く頼られる素地は整っていません。
よって、「ゼロワン地域が解消された」という統計結果には、一定の疑念の目を向けておく必要があるでしょう。
そもそも地方では弁護士を求めているのか
弁護士に限らず、ある特定のサービスを求める人々の需要には「顕在的需要」と「潜在的需要」があります。消費者が自分で明確に意識している需要が「顕在的」であり、消費者自身が意識しておらず、他者からのアプローチによって初めて気づく自分の需要が「潜在的」です。
一連の司法制度改革によって、弁護士人口の増員政策が採られたのも、「地方にはリーガルサービスに対する潜在的需要があるはずだから、掘り起こして人々を救済しなければならない」という使命に基づいていました。
しかし、地方はそもそもコミュニティの結束が強く、多少のトラブルがあっても、泣き寝入りをしたり、声の大きな有力者が丸く収めたりすることで平穏を保っている傾向が強いです。たとえリーガルニーズを掘り起こしても、争われている経済的利益で高額のものは地方に少なく、せっかく掘り起こしたところで徒労に終わることが少なくありません。大都市部で企業の顧問弁護士をしていたほうが、よっぽど安定収入が得られるのが実態です。
また、地方には司法書士が万遍なく開業しているため、弁護士の供給不足を司法書士が補いながら、その職域の範囲でリーガルサービスを提供している面もあります。簡易裁判所の代理権を持っている司法書士であれば、訴額140万円以下の紛争については自ら法廷に立つこともできるのです。
地方で働くためには、どのような事務所・企業に注目すべきか
弁護士が地方で働くにあたってリスクが少ないのは、各地方の公設事務所に所属することです。公設事務所は日本弁護士連合会やその地域の弁護士会などが運営している、「ゼロワン地域」解消を目的とした、公共的色彩の濃い法律事務所です。公共的な性格が強いぶん、保守的な地方の利用者から信頼されやすい基礎があります。そのため、所属する弁護士も、最初から信頼されている状態で入ってもらえます。
また、地方に拠点を置いていても、全国的・世界的な知名度をもって支持されていたり、株式市場に上場している有力な企業があります。そうした地域を代表する優良企業の顧問となる道もあります。地方の弁護士は高齢化していく一方で、優良企業の法律顧問ニーズは変わらないからです。
今後地方弁護士は、成り立っていくのか
地方で活動する弁護士も、もはや椅子に座ってクライアントを待ち続ける「殿様商売」では成り立ちません。その地域に溶け込んで、人々と積極的に交流していく中で、法律上の悩みを抱えた住民と出会うこともあるでしょう。
「成り立っていくのか」と受け身で考えるのでなく、「この地域でも弁護士稼業を成り立たせてみせる」という前向きな気概が求められます。
まとめ
今後、日本では人口減少が止まらなくなり、特に地方部での減少率は高まっていくと予想されています。弁護士はそうした確実な将来も加味しながら、地方での就職を考える必要があります。また、インターネットを利用すれば距離的・物理的な制約を解消させることもできますので、ネットの会議システムなどを法律相談で活用できれば、必ずしも地方での赴任にこだわることもないのかもしれません。
<参考>
・ 日本弁護士連合会 特集2弁護士の大都市偏在と訴訟需要
・ 弁護士法人白浜法律事務所 弁護士激増政策は、弁護士過疎偏在対策としても失策だったのでは?
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