「タレントマネジメント」

第94回2013/08/23

「タレントマネジメント」


「タレントマネジメント」

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「タレントマネジメント」―― 人によってはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、皆様はこの言葉をご存知でしたでしょうか?
元々この言葉の概念はHRM(human resource management)、いわゆる人的資源管理から出てきたものです。コストであり単なる労働力や生産要素とみなしていたヒトを資源として捉え、その資源(=人材)をさらに育成・訓練・開発することで人財にする、という発想の転換によって戦略的資源管理へと発展し、ヒューマンキャピタル(HC)という考え方になりました。
そのHCという考え方から一歩進んで、最近では「ヒト=タレント」という概念に変化しつつあります。実はすでにアメリカでは経営戦略として、優秀な人材をピックアップし、育成させるためのツールとしてこの「タレントマネジメント」なる手法が用いられ、人材の「能力」や「スキル」を見える化することで人材育成・人材開発を行い、さらにそれを'適材適所'で活用する方向にシフトしてきています。


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そういった変化の中で、日本においてもヒューマンパフォーマンス(成果/顕在能力)にスポットを当てていた時代から、やっとヒューマンタレント(資源/潜在能力)を如何に活用していくべきかを追及していくステージへの転換点にはいってきたことを筆者も実感しています。
今回のコラムでは、この「タレントマネジメント」について少し掘り下げてみたいと思います。


タレントマメジメントとは?
一般的にタレントマネジメントとは以下のように定義づけされております。

「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること」
(世界最大の人材マネジメント協会SHRM発行の2006年度版タレントマネジメント調査報告書より)
もともとアメリカは、日本と比較にならないくらい外部労働市場が発達しており、必要な人材をコストと時間をかけて育成するより、必要なタイミングで必要なだけ調達した方が効率的であるという、ジャストインタイムでの人材調達戦略が主流でした。そのためキャリアアップを考える優秀な人材ほど転職が多く、後継者が育ちにくい環境でした。また不況ともなると各部門が個々でリストラを進めてしまい、社内全体での人材活用意識に欠けているため職場のモラルが低下し、さらに新しいビジネスに対する人材育成・開発ができない悪循環に陥っておりました。いわゆる成果主義の功罪なのだと思います。
短期的なHRMに組み込まれた結果、パフォーマンスマネジメントにしかならなかったため、HRMの本質を見直すことで、タレントリソース(人財/潜在能力)のマネジメントが求められる結果となったのではないでしょうか。


タレントマネジメントが必要とされる背景
昨今、世の中からタレントマネジメントの考え方が必要とされ始めた背景には、以下の3つの理由があると考えられます。


1、労働力の減少
多くの先進国では労働力が減少し続けており、日本も例外ではありません。人材に限りがあるため、一人が持つ能力を育成・向上させ、最大化していく必要があるため。


2、長期的な成長
終身雇用制度の崩壊後、雇用の流動化により一部の企業では組織内にスキルが蓄積されない状況が発生しましたが、組織の長期的な成長のためには、有能な人材をしっかりと育成していかなければならないため。


3、スピーディーに変化する経済環境への対応
環境の変化のスピードが速くなったことで、個に求められる能力も常に変化しています。また、個の働き方、価値観も多様化しています。多様化する個に対して、環境に求められる能力をマネジメントするため。


今後も労働力は確実に減少することが予想されるため、人材はますます流動化し、労働者の環境も多様化する中で、企業が長期的な成長を目指すためには、現在いる人材を如何に活用し、育成し、開発していなかなければならないかを考える必要が出てきます。そのため、タレントマネジメントの必要性が浮かび上がります。


タレントマネジメントのメリット
タレントマネジメントを運用することによるメリットは、組織によって様々ですが、大別すると下記のような目的で導入されることが多いようです。


1、人材の最適配置
減少を続ける国内の労働市場の中、今ある人材資源を有効活用することは多くの組織が抱える課題です。
タレントマネジメントを活用することで、限られた人的資源を活かせず無駄なコストにしたり、離職させたりすることなく、人材の最適配置を実現し、高いパフォーマンスを引き出すことが可能になります。
経営者が後継者を選定する際のデータとして活用するだけでなく、中長期の組織図(例えば「5年後にリーダーとして活躍するのは誰だろう?」など)をイメージする際などにも活用できます。
またチーム毎にパフォーマンスが異なる際に、その原因を客観的に判断することが可能になり、組織の相性やリーダーのマネジメントスタイルなども見えてきます。


2、中長期的での成長を見通した従業員の育成
人材ごとの様々なデータを蓄積していくことで、全社的に足りている人材のタイプと不足しているタイプを判断することが可能になります。また、各従業員個人の育成についても、経営者や部門長のイメージだけでその場しのぎの育成プランを押し付けることなく、客観的な人事情報と経営戦略に基づいた情報から中長期の育成プランを計画~実行し、育成状況の進捗を見ることが可能になります。
従業員のモチベーションアップやリテンションマネジメント(離職率低下)の一環で活用される側面もありますが、次世代リーダーの育成などで活用されることが多いようです。


3、採用計画の最適化
既存社員の最適配置と、育成プランを検討することで、おのずと足りない人材像も見えてきます。そういった意味では、採用計画を立てる際にもタレントマネジメントの活用は効果的です。
全社的な採用の年間計画の大枠を決める際や、部署ごとに必要な人材の人物像を明確にする際など、新卒・中途含め、様々なシーンで活躍します。


日本におけるタレントマネジメント
日本で、いち早くタレントマネジメントを導入し始めた企業は、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。代表的な取り組み事例を下記にまとめてみました。


●タレントマネジメントを推進するための社内体制強化
社内に、タレントマネジメントを推進させるためにプロジェクトチームを結成し、役員クラスを推進役として設置。プロジェクトのメンバーが各部門責任者や人事部門をサポートする。


●全社のキャリアパスを明示し、社内労働市場を整備する
自社内にどのような役割のポジションがあるのか、それぞれの役割の目的や責任を含めて全社員に公開する。
また、役割ごとのコンピテンシーモデル(高業績者の行動モデル)を明示し、社内公募を実施したり、社内FA制度を整備したりと、社内でのキャリアアップの機会を提供する。


●システムの導入・インフラの整備
自社の方向性や運用イメージにマッチしたタレントマネジメントシステムを導入し、人事情報を一元管理する。そのデータを、部門長や経営陣の後継者発掘や人事異動時の判断に活用したり、従業員本人に人事上の意思決定させる際の情報提供などに活用している。


まとめ
タレントマネジメントという言葉の意味を、=システムの導入という認識を持たれる方もいらっしゃったかと思いますが、実際は冒頭で述べた「人材の見える化~適材適所」のために人材情報を集約していくことを指します。そのため、タレントマネジメントを導入しようとシステム導入をしても、利用する企業側にタレントマネジメントの明確なビジョンがないと、あくまでタレントの主は働く個々人であるため、システム導入しただけでで終わってしまうケースも多いようです。
タレントマネジメントの第一歩は、マネジメントスタイル云々、システム云々に関わらず、「人」重視という視点で、タレントを全社的に活用する風土・文化を如何に醸成していけるか、がポイントなのかもしれません。貴社でもこれを機に、タレントマネジメントを通じた自社の「人材活用」を再考されてみてはいかがでしょうか?

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