「ビジネスコーチング」

第2回2004/11/04

「ビジネスコーチング」


「ビジネスコーチング」

最近ビジネス雑誌等で盛んに取り上げられているコーチング(Coaching)ですが、
「スポーツ分野の話なのでは?」「スポーツとビジネスは違うのでは?」
といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。


そもそも、コーチ(Coach)という言葉が誕生したのは、1500年代のことだそうで、
「馬車」のことを指していたそうです。そこから「大切な人をその人が望む
ところまで送り届ける」という意味が派生したと言われています。
その後、学生の受験指導をする個人教師や、スポーツ競技の指導者などがコーチと
称されるようになり、今日では様々な分野におけるコーチが存在しています。
当然、ビジネスの世界でもコーチは存在し、「ビジネスコーチング」として
注目を集めているのです。

 

1.コーチングとは?

目標達成に向けて必要な知識やスキルを一方的に与えるのではなく、
相談者と同じ目線で対話をすることで自分自身が抱える問題を考えさせ、
自発的に解決が出来る状態へ導く人材育成方法と言えます。


2.同じ目線による対話の重要性

一般的に、何らかの教育や指導を行う際、先輩-後輩、上司-部下といった関係
の中では、先輩・上司の方が後輩・部下よりも一方的に話をしてしまう場面が
多く見うけられます。教育・指導する側の立場としては、何とかして後輩や部下に
理解をして欲しいという思いで熱弁を奮うのでしょうが、そのような方法では、
教えられる側の置かれている状況を把握したり心理状態を理解したり、彼らが
どんな動機ならば行動を起こせるのかについて知るための機会を失ってしまう
危険性があります。したがって、通り一辺倒のことは言えるかも知れませんが、
自発的な行動を起こさせ、根本を変化させるまでには至らないことが多いようです。

それに対し、コーチは一方的に何をしたらいいのか指示を出すのではなく、
対等な立場から効果的な質問を投げかけることにより、
自らの内側に答えを見つけることを促す存在であると言えます。
後輩や部下が、どのようにして仕事を成功させたのか、
あるいはどのようにして失敗したか、それを情報として整理出来るように導き、
積み重ねてきた経験を次回の課題解決のために活かせるようにしていくのです。


物事がうまく進まない時、それは単に後輩や部下のやる気や人間性の問題ではなく、
「自分自身の能力に気がついていない」、「知識や技術が足りない」、
「意欲をかきたてる方法を知らない」といったことに起因することが多く、
それに気づかせるための双方向のコミュニケーションを行っていくことに大きな
意義があると言えます。


3.コーチングは万能ではない

ただし、コーチングがいつでも・どんな状況でも機能するかというと、そうでは
ありません。コーチングに使われる手法は、コーチの戦略に則って使われて初めて
機能するものであり、コーチングを行うスキルを持たない人が、単にそれを真似た
としても的確な効果を発揮しませんし、逆効果をもたらす危険性も生じます。
また、コーチングを行っても、自分自身で問題解決が出来ず、ただコーチに依存を
してきてしまう後輩・部下もおり、そういった者達はコーチングを受ける段階にすら
達していないという場合もあります。従って、コーチは常に自らのスキル向上に努め、
それを適用するべき状況や対象を客観的に判断する必要があるという、シビアな
側面を持っているということも認識しておく必要があります。

 

4.コーチング・マネジメントの時代へ

経済状況の変化、ビジネス環境の変化といった様々な変化に伴い、
経営は従来のトップダウン型からボトムアップ型へと姿を変えつつあります。
ビジネスに勝つためのヒントは現場にあり、
その情報をいかにトップが吸い上げることが出来るか否かが企業の死活問題に
なっているからです。そのためには、最前線にいる社員が、自分で情報を収集し、
自分で考え、自分で行動し、自分を評価出来る力を持つことが必要です。
それを行わせるために必要とされているのが、まさに上記のようなコーチングの
考え方であり、今日、管理職のマネージメントスキルの一環として注目されて
いるのです。また、働く人々の価値観も大きく変化してきており、ただ出世すれば
いいのではなく、本人の目的と企業の目的がいかにリンクしているかをより重要視
するようになってきています。マネージャーの仕事は、ただ単に部下を管理する
という画一的なものから、状況の変化を速やかに認識しどのように対応することが
出来るかというフィールドへシフトしつつあると言えるでしょう。


5.コーチングカルチャーによる安心感が生み出すもの

上記のようなコーチング・マネジメントが浸透した風土は、コーチングカルチャ
ーと呼ばれています。コーチングカルチャーが構築された企業の最大のポイントと
なるのが、社員が会社に抱く安心感です。


例えば、威圧的な雰囲気の組織では、社員は失敗を怖れて無難な行動に終始し、
活気が無くなるばかりか環境の変化にも対応出来なくなると思われます。
その結果、上司に聞こえの良い報告しか上げなくなり、
トップは現場の状況に合わない意思決定をしてしまう可能性も生じてきます。
それに対し、組織の中に安心感があれば、社員は自分の考えやアイディアを自由に
提案でき、リスクを恐れずに新しい挑戦をしていくかも知れません。
上司や先輩は自分を叱りつける存在ではなく、成長を支援してくれる存在である
という認識が生れますから、どんな情報でも共有しようという意識も高まると
考えられます。

企業風土というものは、長い歴史の中で培われた暗黙のルールや社員の行動様式
であると言われており、たやすく変化させることが出来るものではありません。
しかし、トップを始めとした管理職がコーチングの考え方を理解・共有し、
それを実践していくことで、企業にとって実りのある大きな大変革を起こすことも
可能なのです。


6.継続的なサポート

コーチングによって、様々な気づきが発生し、視点の転換が起こり、モチベー
ションが上がることもあると思いますが、それだけでは「やる気」を維持させる
ことが出来ないと言われています。その時に理解したことを行動に移し、それを
持続していくには、条件を揃え、環境を整え、今日もそれを行っていくことが
必要になるのです。禁煙、禁酒、ダイエットなども同様のことが言えるでしょう。
どんなに有益な情報であったとしても、人が自分のパターンを崩してまでそれを
受け入れることは難しく、学んだことは時間の経過と共に風化していってしまう
ということです。


だからこそ、コーチは現在進行形で、さらに継続的にコミュニケーションを取り
続ける必要があります。例えば、営業の人間が新規受注を獲得してきた際には、
「どのようにしたらうまくいったのか」、「何がうまく機能してこのような結果
が生れたのか」、「今回の事象から何を学ぶことが出来たのか」などを継続的に
質問し、常に思いを巡らせることが出来る環境を整えていく必要があると言える
でしょう。

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