「制約社員」

第96回2013/12/16

「制約社員」


「制約社員」

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高度経済成長期。当時の労働世代は終身雇用、年功序列の中で働き、日本の成長を支えてきました。
男性は正社員として終身雇用で会社に尽くす。女性は結婚もしくは妊娠を境に家庭に入る。残業や休日出勤、転勤など、言われた事は絶対であり、会社もそのつもりで正社員に要求する。それが出来ない人はアルバイトや契約社員といった、いわゆる非正社員として勤務するのが一般的でした。

 

しかし現代、終身雇用で会社に尽くす、言われた事は絶対というような概念は薄れつつあり、成果主義やワークライフバランスなど新しい概念が労働環境に浸透してきています。また、グローバル化の波が押し寄せており、企業に外国人が務めていることも不思議な事ではなくなり、日本の労働社会は大きな変革期を迎えています。
加えて、日本が直面している国としての課題や、技術の進化の影響もあり、働き方は様々に、大きく変わりつつあります。

 

今、日本の労働環境が変わりつつある中で、雇い手である企業の体制はどのように変化していくべきなのでしょうか?
今回のコラムでは、変わりつつある労働環境の中で注目され始めている「制約社員」という言葉について取り上げてみます。

 

制約社員とは?

「制約社員」とはあくまで正社員であり、「アルバイト」や「派遣・契約社員」とは違います。
正社員の中でも従来型の「無制約社員」と、新たに注目され始めている「制約社員」の2つに分けると、それぞれ下記のような特徴があります。

 

「無制約社員」・・・これまで一般的に考えられてきた正社員、「いつでも・どこでも・どんな仕事でも」会社の指示・命令に則って動くことが可能な社員。

 

「制約社員」・・・人それぞれの制約があり、「いつでも・どこでも・どんな仕事でも」会社の命令通りに動けるとは限らない社員。
例えば育児や親の介護などの家庭の事情があり、フルタイムでの勤務が難しく時短勤務であったり、転居を伴う転勤が難しい、などの場合がある。
 

制約社員制度がなぜ注目されているのか?

労働者の多様化が進む中、制約社員が注目されている最大の理由は『優秀な人材の採用かつ長期雇用実現の為』です。
まず時代的背景として、国内の少子高齢化に伴い労働人口が減っている点があります。その結果、労働世代のうち育児や介護をしながら働く人が増えており、今後も増加していく可能性は高いと考えられます。
育児や介護のような家庭の事情を抱えた際に、それを理由に勤務地や勤務時間に制約がかかり、転勤が難しかったり、時短勤務を希望したりと、無制約社員としては扱えなくなる従業員が多々出てきます。
勤務場所や勤務時間に制約がある方々が働きづらい環境であれば、その方達が優秀な能力や豊富な経験があっても別の場所に職を探す可能性が出てきてしまい、人材流出の機会を増大させてしまいます。

 

その他にも、外国人が日本で働くことが一般化されてきた点が挙げられます。特に外国人の中でも、海外に出て働く方は優秀な人材が多いという印象がありますが、そういった人達も生まれ育った文化や宗教上の考え方の違いがあり、日本で働く上で様々なギャップがあります。
また、年金制度の問題から、定年の年齢を60歳から65歳に変える企業も増えてきた点も影響しているのではないでしょうか。5年長く働くという事は、5年上が詰まっているという事で、組織が活性化せず、変化がなく停滞感のある状況になる可能性があります。今までは定年だった年齢の方たちにどういった働き方をしてもらうか、新たな道も作っていく必要があります。

 

多様な働き方を認め、企業として幅広い人材が活躍できる環境を用意しないと、人材の確保の競争力が低下しますし、せっかく採用した優秀な人材の長期雇用も難しくなります。
上記のようないくつかの理由があることから、人材確保の対策の一つとして制約社員制度が注目されるようになりました。

 

また、技術革新が進んでいることも制約社員制度が整う要因にもなっていると言えます。
例えば、インターネットを使ってのテレビ電話やメール、SNS、チャットなどを使って遠く離れている方と、まるで同じ空間にいるかのようにコミュニケーションをとる事が可能になりました。これにより働き方の幅は大きく広がりました。これらのツールを活用すれば、育児や介護が必要であっても、例えば在宅勤務といった働き方も可能になったという事です。


制約社員制度のメリット

制約社員制度が求められつつある背景は先述しましたが、現実的に制度を作る事によって発生しうるメリットや課題とはどういったものでしょうか?いくつかの項目に分けて解説します。

 

【働き手にとってのメリット】
・家庭の都合に合わせて、仕事と育児や介護を両立できるワークライフバランスの実現
・自身の制約に影響されて転職を考えなくて良いため、長期就業が可能になりキャリアを形成しやすい
・パートとは違い、社会保険加入が可能であったり、福利厚生など待遇も良い

 

【雇い手にとってのメリット】
・長期雇用の人材を確保できるので、組織の安定化が図れ、必然的に業務を習得した人が増える
・働きやすい環境を提供する事で、優秀な人材を採用しやすくなる
・就業環境の改善に積極的な企業として社会的信頼を得られる

 

上記のように、様々な働き方に対して受け入れ可能な状況を作ることによって、様々なメリットが生まれます。

 

制約社員制度を導入する上での課題

制約社員のように柔軟な勤務体系を用意するには、企業にとっても様々な制度や仕組みを整備する必要があります。それには下記のような仕組みや制度が挙げられます。

 

・人事評価制度の明確化
・業務の役割分担(それにともなう業務の細分化)
・在宅勤務やテレビ会議など、通信機器やネットワーク環境の整備

 

特に人事評価制度の明確化が出来ていなければ、同じ正社員の枠組みの中でも制約と無制約という働き方の異なる人たちが混在する組織の中で、評価や報酬といった点で比較しあい、不満が生まれる可能性がありますので、公平かつ明確な制度を用意する必要があります。

 

次は制約社員の制度を導入している企業の、具体的な事例を見ていきましょう。

 

各企業の取り組み

ここでは『制約社員』として分類されるような取組み事例を2つ紹介します。

 

1、某大手小売り企業の事例
2007年、某小売企業が地域限定正社員という形で全国の店舗にて準社員雇用だった人たちを正社員化しました。それまで店舗での人員不足の問題は深刻でしたが、この正社員化によって一定基準まで改善されたと共に、勤続年数の長い社員が地域ごとに増える事によって、店舗それぞれの組織は安定し強化されてきました。しかしこれにともない、正社員の中でも、仕事に対しての大きな意識の差が生まれ、無制約社員や他の準社員から不満の声があがるようになり、良い面ばかりでなかったのも事実です。
その制度は今でも続いており、当時は正社員への変更を希望した際は、簡単な面接をクリアすればよかったものの、現在では日常の業務態度や能力に対する上司の評価を元に、SPI試験や社内の面接等をクリアしないと合格とはならず、採用基準は厳しくなっているようです。

 

2、某IT企業の事例
2010年、東京のIT企業が在宅勤務を取り入れました。特定の社員に限るのではなく、全社員が最大月4回まで取得可能という形でスタートしています。また、この企業はそれ以前にも育児休暇を最長6年にしたり、働く時間に応じて選択可能な選択人事型制度を作っています。(いくらでも残業する、少し残業する、定時・時短で働くの3区分)
その結果、正社員離職率は28%⇒4%に減り、女性社員比率も4割まで上昇。また採用や研修のコストカットにもつながり、高効率の組織に近づいたそうです。

 

2つ目の事例のように、ITなどの物を扱わないサービスであれば、在宅勤務などの制度は比較的に容易に実現できると思われます。逆にメーカーや飲食など現場に人が集まらないと難しい職種であれば、どのような切り口で働きやすい環境を作るのか、なかなか前例がないのが実状です。

 

まとめ

既に述べた様に、日本が抱える少子高齢化や企業のグローバル化、またインターネットの普及など様々な背景から働き方は多様化してきており、それに対応する為の1つの手段として制約社員制度は有効な手段です。まだまだ明確な制約社員制度を打ち出している会社は少なく、断片的に実施している企業が徐々に増えてきているような状況ですが、今一度自身の会社の現状を見つめてみてはいかがでしょうか。
制約を抱えながら働いている従業員はいませんか?
その方達の仕事にかける想いを持て余すような事になっていませんか?
また、この先外国人が入社してくる可能性はないでしょうか?
この先、企業が長期にわたって発展を続け、ひいては世の中が発展し続けていくためにも、良い人材にやりがいを持って働いてもらう事は非常に重要な事です。是非一度、制約社員制度の作成に目を向けて見てはいかがでしょうか。

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