「ブラック企業」

第93回2013/06/10

「ブラック企業」


「ブラック企業」

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最近、「ブラック企業」という言葉が改めて流行しています。
数年前に『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』という書籍や映画が話題となり、ブラック企業というキーワードが流行りましたが、SNSの発達で様々な情報が最近でも新聞やビジネス誌でも取り上げられるようになるなど、改めてクローズアップされています。新卒の離職率が低い企業をホワイト企業と呼ぶ流れも出てくる中、厚生労働省がいわゆるホワイト企業を「若者応援企業」と認定するといった取り組みも始まっており、国としても対策を練っているような状況です。
そこで今回の人事コラムでは、ブラック企業というキーワードをクローズアップし、解説したいと思います。


ブラック企業とは
流行している言葉ではありますが、明確な定義はありません。一般的には「離職率が高い、劣悪な環境で従業員が働いている等、入社を勧められない企業」と捉えられています。


あるwebサイトには、具体的に
1. 労働法やその他の法令に抵触、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いる
2. 関係諸法に抵触する可能性がある営業行為や従業員の健康面を無視した極端な長時間労働(サービス残業)・労災隠しを従業員に強いる
3. パワーハラスメントという暴力的強制を常套手段としながら本来の業務とは無関係な部分で非合理的負担を与える労働を従業員に強いる
といったものが挙げられています。
これらはコーポレートガバナンス(企業統治)の欠如やコンプライアンス(法令遵守)の軽視が要因と言われており、総じて従業員が定着しないことが大きな特徴です。


ブラック企業の実例
当社に転職のご相談にいらっしゃる方々のお話をお聞きしても、ブラックと言われるような企業に入社してしまった、といった話はよくお伺いします。
参考までに、よく話に上がる例としては、
・ 入社前に聞いていた条件と入社後の実態が異なる
・ 粉飾決算がされている
・ 極度の残業が長期間続く
・ パワハラ、セクハラがある
・ 社内の人間関係が非常に悪い
・ 法令違反を強要される
・ 平均勤続年数が極端に短い
といったことが挙げられます。
上記については、不満と感じる度合いに個人差はありますが、客観的に法が定めた事を外れるような場合はブラック企業と考えて良いかもしれません。


なぜ話題になっているか
ここで、なぜブラック企業というフレーズが流行しているか、その背景を考えてみたいと思います。
おそらく以前から労働環境の悪い企業はあったはずです。なぜここ数年でこうなったのでしょうか?


・ネットの発達
インターネットの普及により人々は簡単に情報収集ができるようになりました。Web2.0と言われて久しいですが、最近では情報収集するだけとどまらず、情報を発信するツールとしても活用されるようになっています。匿名で情報発信できるサイトも様々なものができており、とにかく怒りや不満、批判をぶつけるようなサイトもあれば、既存社員やOBが企業の評判を書いていくようなサイトもあります。現状に満足している人が、ポジティブな情報をわざわざ載せるようなことは珍しく、こういった投稿はどうしてもネガティブな情報が多くなります。そのため、ネット上にはネガティブな情報ばかりが増えていきます。また、ネガティブな情報はポジディブな情報の10倍早く伝達するという研究結果もあるほど、悪い噂は広まりやすいため、インターネットの普及も相まって、「○○はブラック企業」という噂は驚くほど早く広がっていきます。


・国際化の波と企業競争の激化
長く転職支援を行っている当社の感覚としては、実際に労働環境の悪い企業が増えているように感じます。ここ数カ月はアベノミクスの影響で景気の良い話も出てきてはいるものの、多くの企業はまだその恩恵を受けていないのが現状です。
日本の経済規模は少しずつ縮小する一方でグローバル化の波は一気にすすんでいます。これまでは国内マーケットだけで利益を生むことが出来、従業員にそこまで無理を強いることが無かった企業も、そういった波にさらされることで、就業環境に変化が生じてしまっているのです。企業の生存競争は激しくなる一方です。
そういった環境下にあるため、経営者はどうしても従業員の労働環境より企業の存続や成長性、売上・利益を重視するようになっています。そうして従業員に過度の成果を期待するようになった結果、労働環境が悪くなっています。従業員の働きやすさまで考えられるほど余裕のある企業が減っているのではないでしょうか。


・労働者のマインド
労働環境の悪い企業が増えた結果、人々の関心は「従業員満足度」「ワークライフバランス」といったことに集まりました。ネガティブな情報が増える中、「やりがい」「自己成長」より「安定」「定着」を重視する労働者が増えていきました。企業にそういった期待をする労働者たちが自分に合っていない環境に入ってしまうと、その環境を批判するようになっていきます。


上記のようなことから、世間から注目されるようになってきたようです。
ブラック企業というキーワードが徐々に普及してきた理由が、なんとなくご理解いただけましたでしょうか。


ブラック企業か判断する際によく見られるポイント
ブラック企業かどうかの見極めのラインについては、雇用側の意識と労働者側の意識は少し異なっていることが多いようです。ここでは一般的な労働者側の目線で、どのような点が見られているかお伝えします。


◆インターネットの風評
 ・従業員やOBの自社に対する評価が低い
 ・検索サイトで社名を入れるとブラックと自動的に出る


◆求人情報
 ・同じポジションの求人が頻繁に募集されている
 ・求人情報のフレーズが極端ではないか
  (良い事ばかり書いていないか、激しい言葉が並んでいないか)
 ・試用期間が長すぎないか
 ・給与の内訳として歩合給が大きすぎないか


◆選考過程
 ・職場の雰囲気が悪い
 ・面接官の態度が横柄
 ・簡単な面接で内定が出る
 ・条件提示が書面で出ない


また、上記と合わせて上場企業の場合は、決算書などの開示書類から以下のような点も見られています。
 ・利益に対して人件費
 ・社員の平均年収
 ・平均勤続年数
 ・社員の平均年齢


最近の求職者達は敏感になっているので、様々な方法でその企業を見極めようとしています。自社がどのように見られているか、一度チェックをしてみても良いかもしれません。


ブラック企業と言われた際のデメリット
ブラック企業という風評が出てしまった際に一番大きいデメリットと言えば、優秀な人材の確保が難しくなる点です。実情がいかに良い企業で、仕事にやりがいがあって社員が優秀であっても、ブラック企業という風評が立つだけで新規採用は一気に難しくなります。「そんな評判を気にする人材は応募しなくてよい」と考える企業もあるかもしれませんが、他にもたくさんの企業がある中であえてそういった企業を選ぶ人材は少ないのが実情です。
また、売上に影響することもあります。飲食系であれば衛生状態を心配されてお客さんが減ってしまうことも考えられますし、飲食以外でも企業イメージが悪いことを理由に、同じサービスを提供している別の企業に顧客が流れてしまう可能性もあります。


どうやって防ぐか?
一度ブラック企業だと思われた会社は、情報がネットやメディアを通じて拡散してしまうので、一度レッテルを貼られてしまった後にイメージを変えるのは非常に難しいといえます。「逆SEO」という誹謗中傷サイトの検索順位を下げるサービスなども出てきていますが、人のイメージはなかなか変わるものではないので、限界があります。そのため、現実的にはブラック企業と呼ばれてからではなく、そう呼ばれてしまう前に対策をする必要があります。
最も重要なのは法令遵守の意識を持つことです。当たり前のことですが、日本の会社は日本の法律を守る必要があります。労働基準法や三六協定、職業安定法等、労働に関する取り決めは必ず守らなければいけません。社員の労働時間を管理し、難しいことですが限られた時間の中で成果を上げられる仕組みを作っていく必要があります。その他、企業活動を行う上で守るべき法律や取り決め、会計上のルールを守ることも言うまでもなく重要なことです。
また、経営者や管理職が従業員を大切にするマインドを持つことも重要です。従業員が楽をして経営がうまくいく企業はほとんど無く、現実としては従業員に多少の無理をさせている企業が多いのではないかと思います。しかし、従業員を大切にするマインドがあれば、そういった労をねぎらったり、体調を気遣ったり、仕事のやりがいを伝えたり、といったコミュニケーションが自然発生的に行われることで、カバーされます。それは、従業員のことを何も考えずに、ただ厳しい労働を強いることとは大きく異なります。大切なのは企業と従業員の信頼関係であり、従業員への「伝え方」と言い換えることもできます。


まとめ
これまでお伝えした通り、悪い風評は広がりやすく、その被害も少なからず発生します。また、一度レッテルを貼られた後にそのイメージを変えるのは難しいため、やはりそうなる前に対策を練っていくことが重要です。
ブラック企業と呼ばれる会社の中には売上や利益、規模等の面で成長している会社が多く存在するもの事実であり、従業員のことばかり考えることが良い経営かというと、そうではない面もあるとは思います。
あなたがお勤めの企業、もしくはあなたが経営する企業は、ブラック企業と呼ばれるようなことはしていませんか?この機会に企業と従業員の理想的な関係について考えてみてはいかがでしょうか。

管理部門・士業業界最大級の求人数と職種・転職に精通したアドバイザーが転職をサポート。ご要望に応じた転職先をご提案いたします。

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