「SNSを利用した採用活動」

第87回2012/04/16

「SNSを利用した採用活動」


「SNSを利用した採用活動」

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近年、情報の受発信手段としてSNSが注目を集めています。
SNSを一躍有名にしたFacebook(フェイスブック)の創設者の半生が映画化されるなど、その注目度は2010年頃から日増しに注目を集めており、ブームから徐々に日常生活に定着してきています。
毎年利用者が増え続けるSNSに対して、今まで企業はクチコミ効果を期待する媒体としての利用に取組んできました。しかし、昨年にLinkedInが国内に参入したことをきっかけに、米国を中心に既に始まっている採用活動への利用が、国内の各業界・企業で順次開始されていくことが予想されます。

 

そこで、今回はこのSNSを利用した採用活動の現状を、SNSの基礎知識に触れながらご紹介します。


SNSとは
採用への活用に触れる前に、SNSの基礎知識についておさらいしておきます。
SNSとは、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」、又は「ソーシャル・ネットワーキング・サイト」の略称です。つまり、個と個、個と集団の繋がりをインターネット上で構築するためのサイト、及びそのサイトにおけるサービスの総称がSNSです。

 

SNSの主な目的は、人と人とのコミュニケーションを促進することにあります。
一つは、オフライン(現実)で、すでに知り合い同士の相手とのコミュニケーションの手段や場としての活用があります。もう一つは、趣味・嗜好、生活圏、出身地などのつながりや、同じ知人を共有する「知り合いの知り合い」など、まだ知り合いではない相手との間接的な繋がりを経由した、新たな人間関係を構築する手段や場としても活用されています。
上記の目的を踏まえて、SNSは主に次の機能を有するものが大半です。
プロフィール公開機能、メッセージ送受信機能、ユーザー相互リンク機能、写真・動画・音楽などのコンテンツ共有機能、コミュニティー機能、ユーザー又はコミュニティー検索機能、Blog(日記)機能などです。
SNS利用者はこれらの機能を活用して、知人を増やし、知人とのコミュニケーションを促進していきます。

 

また、SNSの先がけとなったFriendsterでは、既存の繋がりが重視されていたため、SNSの既存参加者からの招待を受けて新規参加する「招待制」となっていましたが、最近は招待がなくても任意で登録が出来る「登録制」のSNSが主流になっており、誰でも自由に参加が出来るサービスが多くなっています。

 

SNS登録者の64%がほぼ毎日利用している現状
現在、SNSの多くが「登録制」になっていることから、その利用者は年々増加しています。
情報通信技術分野の調査会社「株式会社ICT総研」 (東京都千代田区)によると、2011年12月時点の国内ネットユーザーは9,510万人に達しており、SNS利用者はそのうちの45%にあたる4,289万人であったと発表しています。2010年末の3,671万人から618万人増加しており、ひと月あたり50万人以上がサービスを開始していることになります。
また、同社調べによる利用者の日常的なSNS利用率は、SNSを利用したことのあるアンケート回答者のうち、1日に10回以上SNSを利用している人は15.1%、1日5回以上が16.8%、1日1回以上が32.2%でした。つまり、1日1回以上SNSを利用する人が全体の64%を占めているということになります。
上記の調査結果からも、SNSが多くの利用者の中で定着し、日常的にサービスを利用してコミュニケーションをとっていることがわかります。


採用に利用されるSNS
ここ数年で爆発的に利用者が増加しているSNSですが、利用者の大半が嗜好性でセグメントされており、ある利用者と共通の嗜好性を持つ複数の知人とがSNS上で情報を共有しています。そのため、今までは企業のマーケティング戦略の一つとして、ビジネス上での活用方法が模索されてきました。すでに確立されつつある活用方法として、広告掲載や口コミを利用した消費者の動向調査などが挙げられます。
このように、多くの企業ではSNSをマーケティング中心に活用してきましたが、SNS利用者数が世界最大である米国では、採用活動でも積極的に利用される動きが出てきています。

 

採用に利用されている主なSNSは、実名での登録が前提となっているFacebookとLinkedInの2つです。この2つのサービスが採用に利用される主な理由を3点紹介します。

 

1、利用者が実名で志向性を含めた個人情報を開示している
基本的に利用者が実名を公開しているため、匿名登録が可能なSNSで起こり易い誹謗中傷や不謹慎な書き込みなどが起こりづらいという特徴があります。無責任な書き込みや、炎上などのリスクが少ないことは、利用する企業にとってもメリットを得やすくなります。
また、個人の志向性や過去の活動などをプロフィールから確認出来るため、既存の採用手法では獲得するまでに時間がかかった個人情報を選考前に把握することができます。そのため採用のミスマッチを避け易くなると共に、ある程度必要な人材を絞り込んだうえで対象にアプローチをすることが出来ます。

 

2、採用コスト全体の削減が見込める
両サービスともに、基本的なサービスの利用は無料です。(一部機能や広告掲載は有料)
より積極的に活用する場合は、サイトのデザイン料やメッセージの送付機能など、一定の必要経費が発生しますが、既存の採用サイトを制作~運用する際に発生していた必要経費に比べ、制作費や広告掲載料などのコストの削減が可能です。LinkedInに関しては、企業が求職者にアプローチする際に費用がかかりますが、求人広告の掲載料や、ヘッドハンティングなどの採用サービスの手数料を削減することが出来ます。

 

3、特定のターゲット層の母集団形成が容易
両サービスともに、利用者の多くが何らかの背景を共有した知人及び知人の知人、コミュニティーと繋がりを持っており、日常的に情報共有を行っています。そのため、自社の採用対象となる人物や、ターゲットが集まるコミュニティーと接点を持つことが出来れば、その人物やコミュニティーを経由したクチコミ効果によって、特定の潜在的な母集団に対して採用情報を拡散させることが可能です。

 

上記の3点を前提に、両社の違いとしては、Facebookはプライベート情報の受発信の色合いを強く有しているのに対して、LinkedInはビジネス情報の受発信の色合いを有している点が挙げられます。
この2つのサービスを採用活動に利用する場合には、両サービスの特徴を十分に理解し、そのメリット・デメリットを活かした使い分けをする必要があります。

 

続いて、以下に2社の主な特徴を紹介します。
Facebookは国内外の利用者数が圧倒的に多い点と、プライベートな出来事や人間関係を開示している利用者が多いという特徴があります。逆に、ビジネスでの利用を想定した情報発信をしていない利用者が多い傾向があります。
そのため、現在ではポテンシャルやパーソナリティを重視する傾向がある新卒採用などのシーンで利用しようとする企業が目立ちます。従来のナビ系サイトのエントリー情報ではわからなかったパーソナリティを確認することで特定の人材に対しては選考フローを変える(例えばグループ面接をせずに個別面談からスタートする)など、ユニークな選考方法を行う企業も出てきています。

 

一方、LinkedInは利用者がほぼ例外なくビジネスでの利用を前提に情報開示を行っており、ビジネスで積極的に情報開示をする必要がない人材はそもそも利用者の中に含まれていないという傾向があるため、ビジネス上で必要な特定の技術・スキルや実績を持った人物を見つけ出して、その本人及びその知人にアプローチをかける場合などに活用されています。そのため、ある程度の実績を持った人材をサーチする際の手段の一つとしての利用に適しているといえます。


総評
今回のコラムではSNSを利用した採用について紹介してまいりましたが、国内でのSNSを通じた採用活動はまさにこれからが本番です。
現在、国内のSNS利用状況を見る限り、個人の情報受発信に主眼を置くSNSが主流の米国とは異なり、ソーシャルゲームに主眼を置くSNSがマーケットのシェアを握っている状況です。(徐々に変わりつつありますが。)
そのため、米国のようにSNSが国内で急激に採用に利用される状況は想定し辛い状況ですが、あらゆるコミュニケーションのプラットホームとしてSNSが引き続き成長する可能性は高い状況です。
実際に2012年の新卒採用では、既存の求人媒体と並行してSNSの利用が各社で始まっていますが、中途採用に関しては、ITリテラシーに敏感なシステム・ネットワーク系の企業や外資系企業など試験的に取組みが始まっている程度で、積極的な動きはまだ始まっていません。

 

しかし、Jobvite Social Recruiting Survey 2011によると、SNS先進国の米国では既に89%の企業が採用活動にSNSを利用しており、その内63.6%の企業が人材獲得に至っているとのことであり、今後は国内でもSNSを通じた採用が拡大していく可能性は高いと考えられます。また、2011年10月には、米国労働省がFacebookとパートナーシップを結び、失業率改善にSNSを活用する方針を打ち出していることからも、SNSを利用した採用に一定の効果が期待できることは明らかです。
国内でもソーシャルゲームを通じてSNSに触れている10代~20代前半の世代が労働人口の中核を担う頃には、SNSを通じて企業が求職者の情報を、求職者が企業の情報を獲得するようになることは容易に想像できます。
またITエンジニア採用や外国人採用に積極的な企業は、もう少し早い段階でSNSを利用した採用が必要になってくることでしょう。
もし、このコラムをご覧の方でSNSを利用したことが無いという方がいらっしゃいましたら、SNSを活用した採用が本格化する前に、まずはSNS自体に慣れておくことから始めてみることをお勧めします。

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