「人事評価制度の多様化」

第86回2012/03/12

 「人事評価制度の多様化」


 「人事評価制度の多様化」

column86.jpg近年、日本の人事制度は大きな転換期を迎えています。
かつて、国内の多くの企業では、一旦ひとつの会社に就職したら転職することなく定年まで勤め上げることを前提に、年齢が上がるにつれて賃金がスライドして上がる、年功序列型の賃金制度が定められていました。しかし、バブル経済の崩壊や社員の多様化、ビジネスのグローバル化などの時代・景気の変化の中で、前述のような従来の雇用スタイルをとっていた企業はその変更を余儀なくされ、抜本的な人事制度の見直しを図らなければならなくなりました。
現在では、多くの企業で成果主義に基づいた人事制度が導入されていますが、中でも特に評価制度の在り方を見直し、自社の事業特性や社員の働き方に合わせて新しい制度を導入しているケースが増えています。今回のコラムでは、『人事評価制度の多様化』について取り上げ、人事評価制度が多様化してきた背景や、近年実際に導入されている制度をいくつか紹介しながら解説していきたいと思います。


人事評価制度とは
人事評価制度とは、1年間、もしくは半年・四半期などの一定期間の社員の労働に対する評価をし、給与の昇給額や賞与の額に反映させ、また昇進・昇格に反映させる人事制度のことを指します。主に「評価制度」「賃金制度」「昇進昇格制度」の3つの仕組みで構成されています。
近年、人事制度の見直しに伴い、成果報酬制度や多面評価制度など、様々な工夫を凝らした人事制度を導入する企業が増加してきています。
かつて、多くの企業が運用していた終身雇用前提の年功序列型人事制度であれば、評価、昇進・昇格の基準は年齢や勤続年数など、比較的わかり易い項目に基づいて決定、運用されていました。しかし、成果主義を取り入れる企業が増加するにつれて、評価制度の透明性や公平性が求められるようになりました。その表れとして、具体的な行動をもとに評価するコンピテンシー制度や、各プロセスの達成度合いを量る目標管理(MBO)制度などを導入(もしくは両者を併用)する企業が増えてきています。


人事評価制度の目的
人事評価制度の目的は「社員に対し、会社が向かう方向性を理解・浸透させ、社員が成長しながら最大限の能力を発揮することで、会社の業績を向上させる」ことです。ただ単に賃金や賞与を決めるためだけのものではありません。お金やポストだけで「やる気」を引き出すのには限界があります。
人材の能力を最大限に発揮させる人事制度には、①公平かつ納得感のある評価の実現、②役割と目標の明確化、③社員のキャリアプランの明確化、④社員のモチベーションアップ、の4つの要素が必要なのです。

社員の貢献度に見合った処遇を実現させることで、高い成果を上げた社員が報われる、納得性の高い人事評価制度を作り、社員を活性化させていくことが重要です。この評価制度の目的と内容が社員に正しく理解され、徹底した運用ができていれば人事評価制度に対する不満はほとんど出てこないはずです。
そのためには、行動理念や戦略、人材育成の目標や課題等を落とし込み、会社が求める方向に社員が育ってくれるように評価基準を定める必要があります。逆に、間違った方向性、内容で評価基準を作成してしまうと、評価結果はそろってよい結果なのに業績は低迷したままという現象が発生してしまいます。
そのようなことにならないためにも、人事評価制度は、社員が主体性をもって成長できる就業環境の実現のため、いかに社員のやる気を引き出す評価基準・仕組・環境を整えることが重要です。


人事評価制度の流れ、多様化の背景
終身雇用を前提とした人事制度では、年齢や在籍年数が基準とされてきましたが、ここ数年の社会的背景から、社員の高齢化や熟年者の退職に伴い、これまでのような運用が難しくなってきました。また、高度経済成長期を過ぎた現代にあっては、毎年必ず全社員が昇給するような従来の人事制度を維持することは困難です。
そこで、近年の特徴として、企業の求める労働力は「長く勤務できる人」ではなく、労働の質を明確にして「会社への貢献度」の高い労働力が評価されるように変わりました。そのような制度を運用するには、「貢献度(成果)」を具体的に評価する指標・基準が必要になり、これまでの人事評価の仕組みを大きく変更していかなければならない流れとなっていったのです。これまでのような横並びに近い形での評価基準で対応していくのではなく、職種別や役職・役割に応じた個人及び組織での成果・実績に対してきめ細かく評価基準を設定する必要性が出てきたのです。
企業の成長・発展には、働く社員の活性化を向上させる仕組みが不可欠であり、人事評価制度は社員満足度や社員のモチベーションアップへ大きく影響します。評価基準の浸透が社員の成長のきっかけにもなり得るため、各企業はより良い人事評価制度を構築していく必要性に迫られ、各企業に合わせた制度が構築されるようになり、次第に人事評価制度は多様化をみせるようになっていきました。


多様化する人事評価制度の種類
前述のとおり、次第に多様化が進む人事評価制度ですが、ここでは実際に各企業で導入されている人事評価制度のうち代表的なものをご紹介いたします。

 

1、 目標管理(MBO)制度
目標管理=Management By Objectiveの頭文字をとってMBO制度とも呼ばれています。
組織の目標達成、個人の能力・意欲の開発、公平感のある処遇の実現を目指して、将来の環境変化や経営資源を見つめ、目標を設定し、実行~結果の確認というサイクルを組織的に回す仕組みであり、その言葉どおり「目標」でマネジメントする人事制度です。
従来の組織・チームの目標から個人目標に重きを置き、そのゴールまでのプロセスを個人裁量に委ね、本人の自主性を引き出し、組織の革新を推進する組織運営の仕組みとして用いられています。

目標設定を明確にすることで、どのようにしてその目標を達成するのかその道筋(手段)が明快になり、自分の仕事に対して具体的なイメージをもって取り組むことが可能になります。同時に、達成できたこと、できなかったことが明確になるため、目標到達度合いによる成果・実績に基づいた評価・賃金制度を設計しやすくなるメリットが得られます。また、目標設定の面談、評価面談を通じて上司とのコミュニケーションを図ることができ、双方が納得しながら仕事を進めることが可能になります。

 

2、 コンピテンシー評価・制度
コンピテンシーとは、社員1人ひとりの「行動特性」や「業務の遂行能力」を意味し、「ある成果を生むためにどんな行動をとったか」を社員ごとに分析することです。業務内容や役職に応じて企業が社員に期待する「あるべき人材の姿」と個人の状況を比較し、社員の正確な評価につなげるというものです。
高い業績を上げている人に特徴的に見られる行動を類型化した「できる社員の行動パターン」あるいは「行動ノウハウ」と理解すればよいでしょう。

評価基準が実際に目に見える行動ベースとなるため、職務遂行能力などに比べて評価のしやすくなるメリットが得られます。より細かく、等級レベルや所属部門、職務内容に応じて具体的な行動が示されるために、成果を上げるためにはどんな行動を取ればよいのかが明確になり、そのための能力開発もしやすくなります。

 

3、 多面評価(360度評価)
多面評価とは、上司、部下、同僚、仕事で関係のある他部門の担当者、取引先や顧客など、あらゆる角度(多方面)から人材を評価しようとする制度です。複数者からの評価を受け入れることにより公平性・客観性のある評価を実現しようとするものです。

従来にありがちな直属の上司からの評価を強く意識した行動から、複数の内外関係者からの評価によって客観性が高まり、納得感が得られやすくなるメリットが期待できます。結果、仕事に対する意欲向上や、顧客やマーケットへの意識向上につながります。

 

以上、3つの制度に共通する点は、各制度の評価ポイントを可視化することで、社員一人一人の仕事の成果・実績に対して公正・公平な評価をアシストする役割・機能を果たすという点です。

一方で、これらの評価制度を導入・運用するうえで注意しなければならない点もあります。
例えば、設定した目標が抽象的であったり、焦点がぼやけたターゲットだったりすると、目標そのものに対する努力ではなく、活動すること自体で評価を得ようとするマインドが生まれやすくなってしまいます。
また、評価する人の評価能力に差があったり、評価の仕方があいまいな状態でいきなり導入してしまったりすると、個人の不公平感から上司や会社への不信感、不満を逆に募らせてしまう結果になりかねません。

現状の評価者のレベルを確認しながら、正しい評価をしていくための教育から取り組むなど段階的に導入を進めていくことも必要です。一方的ではない評価が得られる仕組みを作り、それを有効に活用していくことで部下と上司が信頼関係を構築することができれば、大きな効果が期待できるのではないでしょうか。


総括
人事評価制度は自社の事業特性、採用戦略、人的資源や企業風土・カルチャーと相互の補完性を持つように設計したうえで運用していかなければなりません。いざ、立派な評価の仕組みを作っても、運用方法が上手くいかなければ社員の不満を募らせ、モチベーション低下を生み出し、人材マネジメントはおろか業績に悪影響を及ぼしてしまいます。
一方、会社の向かう方向性が明確で、具体的な成果や実績に対する評価基準が明確な会社には、目的意欲の高い社員が集まり、自己成長を促すために高い目標に向かって自発的に取り組むため、結果として好業績につながります。

自社に必要な人事評価制度を導入する際、当初は明確な目的があったのに、導入後には当初の目的を失ってしまい形骸化した評価制度だけが残ってしまっている、なんてケースも見受けられますが、御社は大丈夫でしょうか?現代の厳しい経営環境だからこそ、自社に合った人事評価制度を運用し、社員も組織も成長し続けられる企業風土を目指してみてはいかがでしょうか。

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