「リテンションマネジメント」
第64回2010/05/17
「リテンションマネジメント」
「リテンションマネジメント」
昨年来の世界的な経済悪化に伴う景気の不安感や、様々な社会環境の変化から、雇用の流動化がより進んでいく時代を迎えています。これまでのような人と企業の関係性が大きく変化し、置かれている状況に応じて自分に適した仕事や環境、条件・待遇を求めて転職をする、という選択肢が一般的になりつつあります。
人材の流動化が進むということは、企業側から見ると優秀な人材が流失してしまう可能性が増えてしまうことを意味します。企業は自社にとって必要な人材の流失を食い止めるために、給与や福利厚生などの待遇面の充実や、企業自体の魅力を高めるなど、働く幸福感を高めていく必要があります。
上記のような背景から、企業の魅力を高めて人材流出を引き留める施策である「リテンションマネジメント」に注目が集まっています。今回はこの「リテンションマネジメント」に焦点を当てながら、言葉の概念、背景、具体的にどのような注意が必要なのかを解説していきます。
リテンションマネジメントとは
リテンションとは、顧客(従業員)維持・引き留めを意味します。
英語のretain(維持・保持する意味の動詞)の名詞形で「retention」となります。
そこに人事管理に用いられる「management」を組み合わせた言葉が「リテンションマネジメント」です。
既に欧米諸国においては「retention management」が人事マネジメントの一分野として認知されています。
専門的な人事用語では「企業と従業員との間に良い関係性を構築し、維持させていくこと」という意味で用いられています。
要するにリテンションマネジメントとは、「優秀な人材が長期に渡りその高い能力を発揮し続けていけるように、就業環境を整備する」ための、具体的な施策のことです。
リテンションマネジメントが注目される背景
元来、日本の企業においては終身雇用や年功序列といった安定的雇用が当然だと考えられてきました。しかし、高度成長期にあったような永続的な企業成長が見込めない現代では、これまでの雇用ルールが企業にとって大きな足枷となってしまっています。熾烈な企業間競争の中、企業は生き残りを懸けて職務適正・能力が著しく低いといった人材に対して、退職することを働きかけることも見受けられます。
一方、企業は優秀な人材を積極的に採用・維持しようと努めます。様々なコストと時間をかけて採用した人材をいかに活用していくのかが、企業にとって非常に重要な課題となっています。また、人材の流出による損失の大きさは企業側にとって決して小さくはありません。採用した社員が早期に退職してしまっては、それまでに投資した時間や費用を回収できないことになり、企業にとって大きな損失となります。
企業はスピーディーで変化の多い社会環境の中でも成長し続けていくため、獲得した人材に継続的に活躍してもらう必要があります。そのような背景から、リテンションマネジメントが注目され始めているのです。
リテンションマネジメントへ取り組む目的とメリット
リテンションマネジメントは、個人と企業そして社会全体を良くしていくための考え方になります。
リテンションマネジメントへ積極的に取り組んでいくことにより、そこで働く従業員が実務経験・ノウハウを吸収することができ、安定的且つ長期にわたってキャリア形成を図れるというメリットが得られます。また、企業側は人材の流出に伴う成長機会ロスを防ぎ、人材の定着により新しい技術・事業展開・ノウハウを蓄積することができるメリットを享受できます。さらには、社会全体で捉えた場合に安心と挑戦できる環境が定着することでこれまでにない新しい産業が生まれ、雇用そのものを生み出すことにつながります。
これこそがリテンションマネジメントへ取り組んでいく目的ではないかと考えます。
リテンション対策の考え方
それでは、具体的に人材の流出を防ぐにはどうすればいいのでしょうか?一般的に、人材を引き留める手段として「給与改善」が真っ先に浮かぶのではないかと思います。近年、企業はこれまでの年功型から成果主義の導入により、より個人に即した人事評価が主流となっています。結果、高い成果を上げる優秀な社員は、これまで以上に高い給与を得られるようになりました。しかし、従業員の志向にも多様化が進んでいることから、多くの企業の実態として給与面の約束だけは人材流出に歯止めがかけられていないのが現状ではないでしょうか。その為、成果主義に基づく給与報酬だけではリテンションマネジメントの施策として不十分です。
実際、給与水準は決してよくない企業でも、社員がいきいきと活躍している会社が存在しています。一方で、高い給与水準にもかかわらず社員が定着せず、次々と辞めてしまう会社も少なくありません。
リテンションマネジメントを考えるにあたって「給与改善」が必ずしも有効ではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。
給与面以外にも、その仕事に対する遣り甲斐や専門的スキルを向上できる組織かどうか、自己成長を感じられる職場風土、十分な福利厚生、ワークライフバランスのとれた職場環境など、個人が働く意義や目的を見出していける会社を求めて転職先を選択されているのが実態です。
リテンション対策の実際
次に具体的なリテンションのイメージを描いていただくために、どういったところを着目していけばよいのか例を挙げて考えていきます。
企業によって抱えている課題・問題が異なるため、各社ごとに対応していかなければならない課題は異なります。
例えば、若手社員が抱える問題を例にとっていくのであれば、会社や上司が、自己の存在価値や必要性を認めてくれているときちんと感じられているかどうかが重要です。ここでは、日々の現場で起こりうるケースや状況を想定した上で特にケアすべき項目をいくつか挙げてみます。
1. 社員の職務に責任と権限を持たせ、適正に評価していくこと
従業員は、その働きぶりをきちんと評価されている実感を得たいと欲求がありますので、個人がどのようなプロセスを通じて、その仕事へどんな形で関わったのかどうかを明確にする必要があります。その上で「裁量・権限」を新たに会社から与えることで従業員の、仕事への満足度、組織へのコミットメント、会社への帰属意識を向上させることにつながります。
2. 仕事の役割と労働対価に応じた「給与体系」の明確化
リテンション対策において職場環境の整備も勿論大事な要素ですが、労働対価としての報酬、即ち「給与」の部分も重要です。とりわけ、まずは世間一般的な給与水準、競合他社の現状を理解しておくことが大切です。
その上で、自社ならではの工夫を凝らしていくことがポイントです。働きぶりに応じた公正で適正な報酬を与える考え方が必要ではないかと考えます。その働きぶり、即ち「パフォーマンス」の定義づけは各社によって考え方による違いが生じますが、きちんと実現していくことで企業成長に貢献したい価値観と、必要な社員の定着を図っていくことが可能となります。
3.異動・能力開発の機会(チャレンジ)を推奨すること
その会社で長期的な就業を望むうえで、誰もが新しい知識や能力・スキルを伸ばしたい、習得したいという思いを持っているはずです。会社として、安易に昇給・昇格させるだけではなく、他部門への定期的な異動するなどの新たなチャレンジへの機会が必要です。明確なキャリアパスを社員へきちんと明示することで、そこで働く社員に安心感と目的達成意識が芽生え、将来的なキャリアプランをイメージさせることに繋がります。加えて、能力開発のためのキャリア別・階層別にさまざまな研修・教育の機会やツールの提供が必要不可欠です。
4.社内コミュニケーションの活性化を図る
組織構築、部門の運営に必要なチームマネジメントの考え方や具体的なトレーニングを日々、実践・社員間で議論することにより、社内の風通しをより良くしていきます。社員ひとり一人に経営者感覚に近い考え方が身につき、コミュニケーション能力の向上、対人スキルの向上が図れるのではないかと考えます。全社で対人スキルが向上していくことで、社員同士の関係が円滑になり、組織としての結びつきや信頼感の向上につながります。結果的に離職率低下へつながっていきます。
リテンション対策を行う際、要因により必要な施策は異なります。「職種」や「階層」による違いが存在し、その特性に応じたきめ細やかな対応が重要です。色々と企業のステージや従業員ごとに施策を用意しておく必要があります。
会社を機能させていくために必要十分にして最低限の社会保険や給与などの労務管理をしっかりとやることは当然です。人材をより活用していくための様々な人事企画・施策を打ち出し、従業員が遣り甲斐や存在意義を見出していける職場作りが効果的だと考えます。
リテンションマネジメントに見るケーススタディ
さて、実際の企業活動においてリテンションマネジメントの重要性に着目し、早くから積極的に取り組んだことで若手社員の定着率向上に大きく効果をもたらした企業が存在します。そのユニークな制度・施策をいくつか紹介してみます。
これまでに無かった新しいネットサービスを生み出し、事業優位性の高いサービスと斬新なコンテンツで有名なITベンチャーA社の一例
入社1、2年目といった若手社員の積極的な登用と権限委譲を推進したことで、入社年次に関係なく、仕事に対する意欲向上と責任感、動機付けが強くなり、社内・組織・個人の活性化に繋がりました。しかし、一方で仕事と生活のバランスがとりにくくなり、その多忙な就労環境に対する将来的な不安から退職に至ってしまう社員も決して少なくありませんでした。
一般にベンチャー企業はとかく新しいことへチャレンジすることを先行しがちですが、会社環境や給与処遇面で中堅・大手企業と比べて大きく格差が存在しています。日々、絶えずチャレンジをし続けていくためにも、社員が安心して働ける環境が必要だと考えたようです。
そこでA社では、他社にはないユニークな福利厚生制度を導入し社員の定着率改善に取り組まれています。
1:他社にない特別休暇制度
■連続5日間の特別休暇
心身のリフレッシュ、更なるチャレンジを目的として、2年間勤続するごとに5日間の特別休暇を取得することができる制度。
■1ヶ月間の長期休暇
入社後の継続勤続年数丸5年を経過した全社員を対象に、1ヶ月間の特別休暇を付加する制度。
1ヶ月のまとまった休暇を取得してもらい、心身ともにリフレッシュと更なる意欲の向上、パワーアップを図ることを目的としている。
2:ユニークな住宅手当
■オフィス近くに住めば家賃補助
勤務オフィスの最寄り駅から各線2駅以内に住居を構える正社員を対象に、月額3万円の家賃補助を支給。
■長期就業社員に対する家賃補助
入社日から継続して5年以上勤務された正社員を対象に、月5万円の家賃補助を支給。入社5年となると、結婚や育児などが現実的な視野として入ってくる頃合。住む場所や環境も変わってくるタイミングであり、こうした面での支援も大変重要だと考えている。
※実際、従業員の7割がこちらの制度利用されているそうです
例に挙げたベンチャー企業は、創業以来、その堅実な経営姿勢と人材採用にどの企業よりも時間とコストを注いできたことにより、数多くの優秀な社員の獲得と起業家精神を育むことに成功した数少ない企業であるといえます。
しかし、どの企業も同じ精度や施策を行えばよいというわけではありません。
人材の流出を防ぐためには、まず自社の社員が何を求めているのかを知る事から始める必要があります。そして、退職原因を一つひとつきちんと分析し、然るべき対応・対策を決定し、企業に適した施策を整備し、導入・浸透させていくことが大切です。
総括
働く個人のほとんどが、入社した会社で定年まで勤め上げるという時代は終わりを迎えています。
また、企業側も雇用関係を、かつてのような一生安泰、保証していける責任を負えないのが現状です。
そんな不安定な時代だからこそ、苛烈な職場環境や人間関係の希薄さといったさまざまな問題が起こり、心の不調を訴える人が増加し、結果的に高い離職率につながっているのではないでしょうか。
だからこそ今の時代には、個人が元気に自分らしくいきいきと遣り甲斐をもって働ける組織が必要であり、そんな環境の中でこそ、そこで働く個人本来のポテンシャルや特性がいかんなく発揮されるのです。
リテンションマネジメントへ取り組むゴールは、純粋に「働く個人が、遣り甲斐や目的をもって、いきいきと元気に働ける職場作り」だと考えています。
「会社から自分の存在価値を認められたい」「誰かから必要とされたい」という自己の欲求・願望を誰もが必ず持っているはずです。ひとりひとりが充足した環境の中で自分らしく働き、企業が社会を満たす事業を提供し続け、社会が個人の生活を安定的に守るシステムを実現させていく、それがリテンションマネジメントです。
自社の従業員はどんな不満を抱えていて、どんな企業や組織で働いていたいか。これを機に、一度本心をぶつけて話し合ってみてはいかがでしょうか。
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