「管理部門人材のキャリアパス~人事~」
第50回2009/03/09
「管理部門人材のキャリアパス~人事~」
「管理部門人材のキャリアパス~人事~」
前回は、管理部門の中でも特に経理財務というポジションについて、基本的な役割、その重要性と、実際のキャリアパスを、昨今の社会情勢も踏まえご説明しました。今回は、経理財務に並び、企業の発展の核となる「人事」にスポットを当て、その役割とキャリア形成の仕方をご紹介します。
人事の基本的役割、重要性
まず、人事の企業における役割とは何でしょうか。
企業のお金の流れを記録し、分析し、経営戦略に活かすという「経理財務」部門と異なり、「人事」はその業務範囲が、多くの企業で明確化されていない(しづらい)セクションのようです。一口に、「人に関わる仕事」といってもイメージが湧きづらく、「人事総務」を一つのセクションにし、事務業務と兼務にしている企業も多く見受けられます。その中で、「人事」の役割として基本的なものは以下の4つです。
1.採用
2.教育研修
3.労務(給与計算等も含む)
4.人事制度の構築・運用
以上4つの役割について、それぞれ簡単に解説していきます。
1.採用
採用には、基本的に新卒採用と中途採用の2種類があります。新卒採用は、中長期経営計画に則り、所定の人数を12月~5,6月にかけて一斉に採用します。実務経験の無い学生の採用になるので、理系の研究職の採用以外は、選考は社風に合うか、希望する仕事に適性がありそうか等の比較的抽象的な基準で行われます。中途採用は、ある部門の新規立ち上げ、または急な欠員、社内バランスの是正など様々な理由により行われます。即戦力としてある程度の経験・知識のある方を採用することもあれば、ポテンシャルを重視し経験の無い方を選考の対象とすることもあります。中途で募集をかける際は、ある部門での欠員募集など、目的が明確なことが多く、そのポジション、状況に確実にマッチする人材を、いかに転職市場という母集団から採用するかがキーとなります。新卒・中途、どちらの採用についても言えることは、一定の予算が与えられ、その中で、候補人材の母集団形成~選考~内定まで、計画の立案、実行、振り返り等一通りのプロセスをすべて任されているということです。「企業は人なり」という言葉もあるように、企業の成長を、その一番のリソースである「人材」の調達という形で支える採用業務は、人事の業務の中でも最も重要、かつ大きなウェイトを占めるものと言えます。
2.教育研修
研修と聞いてまず思い浮かぶ入社研修のほか、部門や階級ごとに、必要とされる技能・知識の定着を図るために行われる社内研修などの実施、さらに、前段階としての教育・研修体系の構築、研修プログラム・教育ツールの開発なども重要な業務の一つです。体系的に、また時には外部の視点での新しい知識、スキルを習得できる場として研修は重要な役割を持っています。また、教育研修は個人のキャリアアップにも密接に関わるため、従業員満足度の観点からも、その役割は大きいと言えます。
3.労務(給与計算等も含む)
給与計算、社会保険手続き、就業規則管理、勤怠管理等が主な仕事です。労使交渉や、メンタルヘルスケアもこれにあたります。日常的に発生する定型業務が比較的多いことが特長で、人事には、正確かつ迅速に、専門性を持ってこの処理を進めることが求められます。
4.人事制度の構築・運用
「賃金制度」「退職金・企業年金制度」「人事考課制度」「福利厚生制度」、主にこの4つの制度の構築・運用・改定も人事が行っています。特に昨今、従来の終身雇用や年功序列を前提とした人事制度・人事戦略の見直しが進む中で、制度の構築は今後の企業の方向性を位置づける重要な課題としてとらえている企業も増えてきています。
かつて日本では、人事部門の仕事と言えば、採用活動のほかは、給与計算、社会保険の処理、勤怠管理などの定型業務が中心でした。財務や営業、製造部門が経営の戦略に密接に関わっている部門として重要視されてきたことに対し、人事部門はその機能が間接的で目に見えづらいが故にその存在を軽視され、「人事廃止論」が叫ばれたこともあります。「人」という最も重要な経営資源を動かす大きな役割を担っていたにもかかわらず、です。しかし、終身雇用・年功序列制の見直しや、少子化によるヒューマンリソースの減少など、社会環境の変化により、社会は人材に対する姿勢の変革を余儀なくされています。企業の経営戦略を具現化する上で欠かせない部門として、「人事」の役割は新たな領域に広がりを見せています。
人事のキャリアパス
では、その企業成長に不可欠な人事部門は、どう育成していけばよいのか。具体的な人事のキャリアパスを、3つほど例を出して説明します。
【パターン1:大企業(人事業務が細分化されている企業)ケース1】
新入社員研修(数週間~数か月)
↓
人事採用担当(経験年数2~3年)
新卒採用を中心に、会社の顔として学生の前に出て、採用活動の事務連絡、手配業務などを担当。採用の現場の業務、手続きを学ぶ段階。
↓
人事採用主任(勤務年数3~6年)
採用戦略及びプランの策定、実施そしてその振り返り。現場チーフとして、中途採用時の人物評価も担当。
↓
研修カリキュラム開発(勤務年数3~6年)
上記採用活動と平行し、社内の研修カリキュラム作成、導入、研修コースの開発等にも携わる。
↓
人事開発課長(勤務年数3~6年)
社員の採用、教育プロフェッショナルとして、中~長期的戦略の策定、プランの選定。業務全体のマネジメント。
↓
人事部長
会社及びグループ全体の業績に関する統括責任者
【パターン2:大企業(人事業務が細分化されている企業)ケース2】
新入社員研修(数週間~数か月)
↓
給与計算担当(経験年数2~3年)
給与計算、社会・雇用保険手続きなど、日常の勤怠・給与関連計算業務。社会保険事務含め手続きの理解を深める段階。
↓
給与計算主任(勤務年数3~6年)
給与計算、社会保険等、労務関連に関する専門職。給与・社保関連の専門知識の他、システムや、経理分野の知見をもつことを期待され、新しいパッケージソフトの導入など、他部署も巻き込んだ業務の効率化にも携わる。
↓
人事企画主任(勤務年数3~6年)
賃金体系、退職制度、福利厚生、年金制度等、人事関連制度の改定、導入にあたってのプロジェクト責任者。
↓
人事課長(勤務年数3~6年)
上記、労務業務に加え、採用・研修業務も行う。
↓
人事部長
会社及びグループ全体の業績に関する統括責任者。
【パターン3:中小、ベンチャー企業(人事部の規模が1名~数名。総務が兼務している場合もあり)】
新入社員研修(数週間~数か月)
↓
人事総務部に配属(経営年数2~3年)
採用の事務、研修カリキュラムのアシスタント、入退社手続きの説明、健康診断手配、給与計算業務。さらに場合によっては契約書関連のほか、オフィス・備品管理などにも携わる。各種手続きを学び、人事・総務としての基礎を学ぶ期間。
↓
人事総務主任(勤務年数3~7年)
採用のプランニング、実行、振り返り、ほか社内からの社保関連の問い合わせ対応、新システムの導入プロジェクトなど、人事総務の現場責任者。
↓
人事部長
会社およびグループ全体の業績に関する統括責任者。
↓
役員、取締役など
この例でもわかる通り、大企業、中堅企業(人事部の中で、採用、研修、社保などセクションが明確に分かれている場合)の場合は、まずは採用アシスタント、または給与計算業務から入っていき、年数を経るごとにジョブローテーションを通じ他の業務にも携わっていくことが多いようです。その中で、強みとなる業務の専門性を高めていきます。ベンチャー企業など、人事部が採用・研修・労務などに細分化されていない企業の場合は、始めからそれぞれの業務に幅広く携わっていき、会社の管理機能を一手に取り仕切ることのできるプレイングマネージャーを目指すという形が一般的です。
求められる人材像と今後の展望
最後に、企業にて求められる人事職の人材像についてご紹介します。昨今の社会情勢に合わせ、人事制度の構築・運用の経験が、現在一つの鍵になっています。ただ、制度の構築という概念自体が最近のもので、市場に経験者も極端に少ないため、制度の経験が無い場合は、その他の部門(採用・研修・労務など)の高い専門性を求められるといった特徴もあります。一般に、上場企業では人事制度の構築・運用の経験者が、ベンチャー・中小企業では、制度のスペシャリストよりも、制度も含め採用・研修・労務など幅広い業務経験者が求められる傾向にあると考えられています。ただ、市場にそのような層はそれほど多くなく、しかもニーズが集中するため採用は非常に難しくなっています。それよりも、社内の状況を鑑み最も重要だと思われる業務の経験者まで候補層を広げれば、採用は格段にし易くなります。
経営戦略の観点から人事への期待が高まっている中、ここ最近は給与計算等の業務や社会保険関連業務など、ある程度の定型業務をそのまま(または一部)アウトソースし、事業への選択と集中に専念する企業も増えています。また、制度の構築なども、プロの社労士やコンサルティングファームに任せ、リサーチや、人を通したコミュニケーション人事戦略「企業における組織・人事エリアを俯瞰した上での、人材マネジメントに関する全体的な方向性」を、各部門と密なコミュニケーションをとりながら策定し、運用する方法もあります。
現在、激変する世の中と、業界や地域ごとに多種多様な価値観・選択肢がある中で、従来どおりの人事の運用では通用しない世の中となってきています。コスト削減、優秀な人材の確保、従業員の成長やモチベーションの向上、新制度の企画立案など、経営者の抱える課題に直結する重要な役割を担うのが人事です。また、経営者と現場の中間地点にいるのも人事です。人事は企業成長に欠かせない大変重要な存在と言えます。世の中の環境の変化 に対応するために、人事制度を軸に社内という足元から変革をさせていくのも一つの手法ではないかと思います。
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