「株式上場に至るまでの経営管理組織の確立」~ミドルステージ編~

第40回2008/05/13

「株式上場に至るまでの経営管理組織の確立」~ミドルステージ編~


「株式上場に至るまでの経営管理組織の確立」~ミドルステージ編~

前回のアーリーステージ編では上場準備の初期に必要な人員計画として、
成長段階にある売上を安定的に伸ばしていくための人員(営業・生産・販売など)強化と、
上場に向けて社長の右腕となり、
管理部門構築のために必要な経営管理責任者の採用であると解説して参りました。
解説の中では具体的に
「優秀な経営管理責任者」を採用することに重点を置いて説明して参りましたが、
ここで採用に至った人材(CFOあるいは管理部長候補)を中心として、
上場に向けての管理部門構築を行うことがミドルステージで必要な人員強化であると言えます。


アーリーステージからミドルステージへ

前回のおさらいになりますが、
「ミドルステージ」の時期は上場申請期の2~1期前(通称:直前々期、もしくは直前期)であり、
上場準備が本格化し始め、上場時期も具体的に決まってくる段階です。


監査法人や主幹事(主となる証券会社)の選定も始まるほか、
資本政策や上場申請書作成など、多くの課題も抱えており、
社長(CEO)、もしくはCFOは、
証券会社や監査法人の対応に追われることが多くあります。
人員構築においては上場企業に必要とされる組織体制に向けて、
適材適所に人員補充をしていきます。


まずはアーリーステージで採用した人材(CFOあるいは管理部長候補)が、
できる限り広い業務を行い、
その結果不足であると判断されたポジションから人員補充を行う必要があります。
例えば、同人材が経理中心のキャリアであれば、
総務や人事といったキャリアを持った人材を採用することなどが求められます。


ミドルステージでの人員計画における管理部門強化の重要性

上場準備初期段階での規模の小さい会社では、
例えば経理部と総務部を合わせて少数で運営していたり、
管理部門を社長自らが中心となって見ていたり、
また経理スタッフは出納業務を実施している程度で、
決算などは顧問税理士に依頼している会社なども少なくありません。


近年の傾向では、規模の小さい会社を中心に
これらのスタッフ業務についてアウトソーシングする企業が増えていますが、
株式上場企業では、管理部門が管理機能を発揮するうえで
全面的なアウトソーシングは難しいと考えられます。


株式上場企業になると、これまでの税務申告中心の会計報告から、
投資家に向けたディスクロージャーへと会計報告の役割が広がります。
そのため、経理部門に関連法規に基づいた開示体制を構築することが必要です。
また、総務部門においても、株式上場によって増加する従業員や株主に対処するため、
上場、あるいは上場準備企業での実務経験者が不可欠となってきます。


次に、そうした管理部門強化について具体的にご説明します。


管理部門における人員強化のポイント

●経理部門の強化
経理機能のうち株式上場後の業務はディスクロージャー制度への対応です。


非上場企業にとっては、決算書を外部へ提出する場面は、主に税務署への申告です。
しかし、単に税法に従い帳簿を記載することと、
上場企業として外部報告用の決算書を作成しディスクロ-ズすることとは大きく異なります。


上場企業では外部報告に際し、金融商品取引法、上場規則、財務諸表等規則、
会社法等の関連法律に従って開示書類を作成する必要があります。
そのため、適時に会社の財務内容を開示できるような会計システム、
組織、人員の確保が不可欠です。
子会社、関連会社がある場合には、連結決算体制の整備も必要となります。
上場後は、有価証券報告書、半期報告書、
決算短信のほか四半期報告が求められこともあるため、
経理部門を中心にこれらに適時に対応できる体制づくりが求められます。


設立間もない企業や人員の少ない企業では、管理部門への人員配置まで手が回らず、
経理部門を外部に委託するケースがよく見受けられます。
経理部門のアウトソーシングは必ずしも禁止されていませんが、
経理部門のアウトソーシングにより、
投資家に対するディスクロージャー体制を確保できるかが重要なポイントとなります。


上場企業では迅速な月次決算が求められますし、
四半期ごとの情報開示が連結ベースで要求されます。
経理部門の主要な部分をアウトソーシングしたまま、
これらのディスクロージャーに対応できるかは難しい問題です。


一般には、これらのディスクロージャーに対応するためには、
経理部門を社内に整備し、月次の決算体制の精度を向上させ、
さらにスピードアップさせる必要があります。
したがって、経理の一部を一時的に外部委託に頼るにしても、
経理のディスクロージャーに関する中核部分は、社内の人員で行うことが必要です。


●総務部門の強化
スタッフ部門として総務・人事部門を強化することは、上場企業として不可欠です。
上場プロジェクトチームの一員としても総務・人事部門の参加が一般的です。


総務部門の業務としては、既存の業務以外に、会社の諸規程の整備、
株主総会の運営、各種議事録の整備、株式事務等が求められます。
したがって上場に際しては、
企業の規模に応じた総務・人事部門の人員も早期に整備する必要があります。


最近では、総務部門のアウトソーシングを進める企業も多くあります。
これについても必ずしも禁止されていませんが、
総務部門は経営管理機能の重要な部分を担う部門であることから
一部分においては可能ですが、
全面的なアウトソーシングは困難であると考えられます。


●経営企画部門の強化
株式上場審査においては、会社がオーナー経営を脱し、
組織的な経営管理を行うために必要十分な組織体制になっているかが審査されます。
そのためには全体的な経営方針や中長期計画、これを実現するための実行予算等を策定し、
その実現に必要な統制を全社的に実施する必要があります。


このような機能は経営企画機能と呼び、組織的な経営管理のためには、
社長が直接管轄できる経営企画室などとしてこの機能が働きます。
こうした経営企画部門では、株式上場準備期間中そして上場後も、
事業計画の策定や予算管理、IR機能など重要な任務を行うことにもなります。


●法務部門の強化
株式上場に向けては、内部統制やコンプライアンスを整備する必要もあります。
未上場企業では対策を講じてこなかった株式上場ルールや金融商品取引法、
上場を見据えての会社法や税法などの整備を
担当できる法務経験者を外部から採用する必要があります。


業種によっては独自の法務対策のため、例えばIT法務、先端科学法務、
レジャービジネス法務、エンタテイメントビジネス法務など、
特殊な企業法務課題に取り組む部署の設置が求められます。


上場直前期になれば、主幹事(証券会社)から法務部を置くように指示をされますが、
コスト面でこれ以上管理人材ばかりを増やせない、
あるいはなかなか優秀な人材を確保できないなどを理由に、
顧問弁護士などを通じて法律の専門家にアウトソースするケースも多いのですが、
ミドルステージからは社内で法務部門の体制を整えることが必要になります。


●インサイダー情報の管理と監査の必要性
先述の通り、管理部門のアウトソーシングは基本的に禁止されていないものの、
あくまで上場企業としての管理体制を構築しなければならない、
という認識を持たなければなりません。
すなわち、企業規模の理由などから一部の業務を外部委託することはあっても、
中核の業務は会社の責任において社内で行う必要があるのです。


また、管理部門は会社の重要情報が事前に入手できる部門であり、
インサイダー情報を管理する体制を整えることも必要となります。


レイターステージに向けて、組織体制を完成させるために

レイターステージ(上場申請期1期前もしくは申請期)に向けて、
ミドルステージでは管理部門を中心とした組織ごとに
必要な人材を確保することの重要性について解説して参りました。


ミドルステージを経て上場直前期に入ると、
上場後の事業会社に必要な内部統制責任者や内部監査業務担当者の採用が求められます。
また監査法人により、常勤監査役の設置を求められたり、
IR活動に適した人員の確保なども必要となってきます。


次回のレイターステージ編での人員計画では、上場申請に必要な人員強化に加え、
上場後を見据えた人員強化についての解説もして参ります。

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