「健康経営について」
第118回2017/10/20
「健康経営について」
「健康経営について」
皆さんは、「健康経営」という言葉を耳にしたことはありますか。
今回は、アメリカから始まり徐々に日本でも広がりつつある「健康経営」について成り立ちと現状をご紹介します。
健康経営とは
健康経営とは、企業が従業員の健康に配慮して、従業員の生産性の向上を目指す経営手法です。副次的な効果として医療コストの削減も期待できます。
今までの企業経営にはなかった健康管理という視点を取り入れた、新しい、次世代の経営手法ととらえても良いかもしれません。
最近では2015年に大手広告企業の過労死問題が大きなニュースになりました。日本国内では過去にも同様の過労死問題が起きており、そのたびに長時間労働や過度な残業、有給休暇が取りづらい労働環境が問題視されてきました。徐々に改善がなされているようですが、未だに残業しないことをネガティブにとらえる企業もあるのは非常に残念なことです。
今後、少子高齢化が進行し、労働力不足が叫ばれている日本において、こうした社員の健康に悪影響を及ぼす状況は早急に改善すべき課題ではないでしょうか。
そんな環境を改善する一つの提案として、健康経営は注目を高めていくことが予想されます。
健康経営の発祥と日本での広がり
健康経営は、公的医療保険がないアメリカで、従業員の医療費負担が企業経営に悪影響を及ぼす事態になったことをきっかけに広がった経営手法の一つです。
具体的な事例としては、アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)社の一件が知られています。当時のGM社は従業員の家族、退職者にまで100%の医療費負担をしており、それが経営を圧迫させていました。結果的に同社は経営破たんしたことで、アメリカでは、医療費が企業経営に及ぼす影響の大きさに注目が集まりました。
一方で、日本では2015年に企業によるストレスチェックの義務化がスタートしましたが、これも一定規模の企業に限った取り組みに留まっています。このことからも、「健康経営」は未だ企業側にとっては聞きなれない言葉といえます。
この状況に対して、公的な動きとしては経済産業省と東京証券取引所が動き出しており、健康経営に積極的な上場企業を選出する「健康経営銘柄」の選定と公表に取り組んでいます。このような取り組みが、今後、どのように広がっていくのかは引き続き注目していきたい点です。
なぜ健康経営の導入が重要なのか?
さて上記のように、健康経営は成果が見え辛いと述べましたが、まだ日本では「健康経営」を取り入れる必要性が理解されていません。そこで、「健康経営」に取り組む必要性を3つご紹介します。
①社員の生産性向上
企業にとって、社員は大切な経営資源の一つです。しかし昨今、働き盛りの世代に生活習慣に起因する疾病が多く発症しています。仮に稼ぎ頭のトップセールスの社員や管理職で各種判断やマネジメントをする立場の社員が倒れ、療養などで休職や退職となると、企業にとっては大きなダメージになるのではないでしょうか。
②コスト削減
既に顕在化していることとして、「会社負担分の医療費」や「健康保険料負担」があります。そういった負担を、できることならば削減・軽減していきたいと考えている企業は多いのではないでしょうか。
しかし、こういった負担は、社員が健康になり、その状態を維持しないと改善出来ない点なので、一朝一夕にはいかない問題です。一方で少子高齢化は進行し続けているので、企業側の負担がさらに膨らんでいく前に、早目に社員の健康を意識した経営に着手すべきではないでしょうか。
③企業イメージの向上
過労死はもちろん、昨今はインターネットを通じた匿名投稿による企業の内情が明らかになるケースもあります。ネガティブな情報は悪い意味で注目を集めやすいものです。
しかし、健康経営の取り組みは、「企業イメージの向上」にも繋がります。社員の健康維持のために会社全体で取り組んでいることが世間に知られることで、企業イメージを良くしていくことが出来ます。実際に、CSRの一環として健康経営を取り入れている企業もあるようです。
健康経営を取り入れている企業の事例
それでは、実際に健康経営を取り入れている企業を先ほどご紹介した「健康経営銘柄」を参考にご紹介します。
2017年の健康経営銘柄は24社あり、3年連続選出されている企業は以下の9社です。
ローソン、花王、テルモ、TOTO、神戸製鋼所、大和証券グループ本社、東京急行電鉄、日本航空、SCSK
私の会社が入っていないというご意見もあると思いますが、一業種につき一社しか選ばれない仕組みになっています。今後、健康経営に取り組む企業や労働環境が良い企業への就職・転職を検討したい方は参考にしていただければ幸いです。
今回は、24社の中で3年連続選出されているローソンと、長時間労働の文化を大きく改革した伊藤忠商事の事例をご紹介します。
・株式会社ローソンの場合
「健康経営」に早くから着手したローソンでは、2015年にCHO(チーフ・ヘルス・オフィサー)を設置して、社長の竹増氏が自らそのポジションに就任しました。実際に竹増氏の肩書は代表取締役社長兼CHOとなっています。更に人事組織内に「社員健康チーム」という組織を設置して、産業医・健康保険組合・労働組合の協力を得て様々な施策を展開しています。
「健康経営」を実現するためには、経営者と従業員が一体となる必要があることが分かる良い事例ではないでしょうか。
・伊藤忠商事株式会社の場合
長時間労働の風土が根強かった同社では、代表取締役社長の岡藤氏が中心となり「伊藤忠健康憲章」を制定し、抜本的な労働環境の改革に取り組みました。
この信念を貫き徹底的に改革に臨んだことで、総合商社で初となる朝型勤務(9:00~17:15勤務、残業は原則20時以降禁止)を2014年に正式導入しています。更に取引先との会食を1次会は午後10時までとする「110運動」に取り組み行い、具体的に全社員の労働時間を短く、そして朝方にシフトさせています。
「健康経営」を実現するために、経営者の本気度が伝わってくる良い事例ではないでしょうか。
まとめ
今回、健康経営について発祥から調べてみて、今後の日本に必要不可欠な経営課題であると改めて痛感しました。
今はまだその必要性が十分に認知されていませんが、かねてから長時間労働と生産性の低さが指摘される日本企業において、避けては通れないことのように思います。ローソンの事例のように、健康経営の重要性をいち早く認識した経営者が、従業員や外部へ発信していくことや、良い取組みをしている企業の認知を広げる第三者の力が必要だと感じました。
企業の大小関係なく、世の中のトレンドに敏感で、海外の動向にも目を向けて柔軟に受け入れていこうとする経営者が、率先して「健康経営」という理念を広めていくことは一つの足掛かりになるかもしれません。大手企業から若いベンチャーまで、新たな時代の流れを取り入れていくような企業が先陣を切ることで、日本でも当然のものとして浸透が加速していくのではないかと感じました。
(文/リクルーティングアドバイザー 鳥谷 木綿)
≪参考≫
■特定非営利活動法人健康経営研究会-健康経営とは
■エコッツェリア-【コラム】「社員の健康」で「会社の健康」を
■経済産業省-健康経営銘柄
■赤ママWEB-訪問レポート 健康経営 元気!つくってます
■日本経済新聞-「健康経営」で日本に元気を
■JTB Benefit-健康経営で健康な企業と従業員を育てよう
■全国健康保険協会 福島支部-健康経営のメリット
■株式会社ローソン-ニュースリリース『グループ社員の2018年健康目標値を制定』
■東洋経済ONLINE-伊藤忠が乗り出す「全員健康経営」とは何か
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