シニア人材活用-地方創生とIターン転職-
第116回2017/05/25
シニア人材活用-地方創生とIターン転職-
シニア人材活用-地方創生とIターン転職-
シニア人材の流動化
・シニア人材流動化と社会的背景
「定年を迎えたら、大好きな旅行に趣味にじっくりのんびり…」以前はこのような考え方を持って働く方が大多数ではなかったでしょうか。定年後、退職金と年金で残りの人生を充実させるといった考え方が主流であった時代には、定年後も働き続けるという考えはあまりありませんでした。しかしながら、人事コラム「元気な50代」(第111回 2016年7月19日掲載)でもご紹介した通り、現在は年齢に縛られない求職者が増加し、積極的にシニア人材を採用する企業も多くなっています。
下図は厚生労働省が発表した、平成28年「高年齢者の雇用状況」集計結果にある一部統計です。
政府は「高年齢者雇用確保措置」で定年を65歳まで引き上げるよう企業に働きかけています。
上記を見ても分かるように、定年下限である60歳以上でも継続して働く方が年々増えており、今後は65歳定年が主流になり、さらに65歳以上の継続雇用が増えていく可能性があります。
「シニア層が働き続けることで、若年層の就業機会が奪われてしまう」という言葉をよく耳にしたものですが、現在はそのような時代ではありません。これは総労働者数が一定であることを前提としたもので、現在は有効求人倍率が高い水準を保ち、人手不足が多くの業界で問題になっています。したがって、シニア層が働き続けることで若年層の雇用機会に悪影響を及ぼすという可能性は低いように考えられます。しかし、首都圏は売り手市場である一方で、業務内容や条件の良い求人は競争率が高いのが実態です。その反面、地方都市の成長企業は採用に苦戦しており、シニア採用に積極的であることが転職市場においても顕著に表れているようです。
日本が抱える課題“地方創生”
上記では、都市部と地方における人材流動やシニア人材の採用について簡単にご説明しましたが、ここでは地方の雇用問題に対する政府の取組み、さらに地方の雇用問題解決のキーとなるシニア人材について述べさせていただきます。
・政府の取り組み-地方創生とは?
2014年に内閣府から発表された、地方を3本の矢から活性化させる政策です。その1本に人材支援での地方創生政策があります。背景として人口の東京一極集中に伴う地方過疎化、ひいては人口減少という大きな問題に繋がる為、国家として取り組むべき課題として認識されました。
下図は総務省統計局が公開した、2016年までの過去11年間の地域別就業者の増減を表したものです。
上述の通り、就業者が過去11年間で増加している地域は南関東(+145万人)、近畿(+13万人)、九州・沖縄(+2万人)と3地域しかありません。一方で減少している地域は北海道(-7万人)、東北(-24万人)、北関東・甲信(-28万人)、北陸(-14万人)、東海(-6万人)、中国(-19万人)、四国(-14万人)と7地域に及んでいます。
・取り組み内容
地方創生の主たるねらいと取り組み内容は、都市部から地方への人材流動化(同時に地方から都市部への人材流出を防ぐ)や地方の雇用安定化です。
内閣府は「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、各自治体には創生の為の総合戦略プランを提出してもらいます。そのプラン内容に沿って交付金が支払われる為、各自治体はプランを充実させて「住みたい、働きたいまち」にする為、競争力が上がっていきます。政府としては地方創生スキーム作りと交付金という形でサポートをし、各自治体には、それらを利用して作成したプランを実行するべく主体的に取り組むといった、土台作りと啓発に努めているようです。
地方創生とシニア人材
さて、地方創生におけるシニア人材のニーズについて述べさせていただく前に、内閣府の取り組みについて少し触れたいと思います。それはプロフェッショナル人材事業です。プロフェッショナル人材とは、企業マネジメントに携わる経営人材・経営サポート人材、企業にとって新たな事業分野や販路を開拓することで、企業に貢献する人材、そして開発や生産等の現場で新たな価値を生み出すことのできる人材のことを指します。
この事業は、地方ごとに戦略拠点を設置し、地方企業と連携をとりながら、プロフェッショナル人材の雇用を促し、各企業が攻めの経営へと転じていくための後押しをするといった内容のものです。同事業で残した多くの採用実績は、都心部で働いていた方が半数を占めているようで、プロフェッショナル人材の経験や知識は大変注目されています。政府がこのような動きをしていることもあり、民間企業は経験豊富なシニア人材の有用性を高く評価し、地方でも経験スキル重視で人材確保に励んでいると感じます。
更に言えば地方のベンチャー企業や地方拠点、工場での管理職クラスは部門の立上げや業務スキーム改善など何かを作り上げる、あるいは改善するなど、高度なミッションが要求されることが多いです。シニア層の経験や知識はそれらミッションの成功を円滑に導くことができる実績もあるため、期待されています。シニア層が注目される理由はそこにあります。
前述の通り、地方に本社を構えるベンチャー企業、優良大手企業や支社、工場を構える企業も多くなってきているようです。企業目線でのメリットとしては、国の策で本社を地方に移転した企業は、法人税の軽減など税制が優遇されるなど、地方での雇用はコストコントロールにおいて優位性があることなどが挙げられます。
上場企業の本社の多くは東京に集中しており、首都圏だけでも全体の3割を占めます。よって、本社を地方へ移転することでより一層地方の雇用が生まれることは容易に想像できます。地方創生で日本は大きく変わってきています。
地方創生とIターン人材
年齢を理由とした転職限界説も事実上なくなり、働き方やキャリア形成は多様化しています。その一環として、みなさんご存知のUターン転職など、就業地域を変える転職などが増えつつあるとも言えます。そのような中、現在はIターン転職といった手段もクローズアップされており、転職市場において注目されているようです。
・Iターン転職とは
都心で生まれ育ち働いてきた方が地方の企業に転職するケースです。Uターン転職との違いは地方→都市→地方ではなく、都市→地方という1ステップであることです。また、これまではセカンドキャリアの選択肢として考えられることは少なく、ケースとしては稀と言われていました。
・Iターンのメリットは
そもそも利便性の高い都市部で生まれ育った人が、地方で働くメリットは何かと考えると、やはり、セカンドキャリアや生活を充実させることができる点と言えるでしょう。地方に住むことで時間や金銭面でも余裕が生まれる他、今まで都市部で培った自身の経験を存分に発揮できる環境があれば、充実したセカンドキャリアを実現できるかと思います。更に、仕事中心という考え方から、「生活の質」を重視することにマインドチェンジし、「心の豊かさ」を求めて地方での生活を選択される方が多いのも事実のようです。
注目される“Iターン”&“シニア”
先述の通り、Iターン人材は言うまでもなく地方の雇用を安定させる為には不可欠です。しかし、転職者にとってはそのメリットも多い一方で、ライフステージによってはデメリットにもなります。特に、まだ社会人経験の浅い若年層にとっては、地方での就業は業種や職種の幅を狭めてしまう恐れがあるということ、家族がいる中年層にとっては子供の進学のタイミングの兼ね合いや世帯収入を下げてしまう恐れがあるということ等、リスクもあることを考慮する必要があります。
このような考えから、シニア人材は、地方に住むという面でも経験豊富で即戦力となる点からもメリットの多い層であり、地方の優良企業は大変注目しています。
Iターンシニア人材の転職成功事例
実際に当社経由でIターン×50代のシニア人材の方による転職成功事例をご紹介致します。
シニア人材を採用された企業様A社は、海外に本社を持つ大変ニッチで参入障壁の高いメーカーです。日本法人の本社は都心に位置するのですが、製造拠点が関西地方にあり(大阪、京都、兵庫以外)そこでの総務課長を求めていました。ご紹介させて頂いた50代のB様は都心のメーカーで総務課長として働かれていた方で、役職定年を控えセカンドキャリアを積む為、そして自らの経験を活かせる環境を求めて転職活動をされていました。過去に工場総務の経験もあったB様の働く環境としては、そのご経験も活かせるので、私自身も良いマッチングであると感じておりました。
B様は活動当初、首都圏でのご就業先を探していましたが、なかなかご希望に沿った企業が少なく、応募してもお見送りになるケースが続きました。そのような事情もあり、A社をご紹介し、応募していただきました。企業研究も熱心に行う方で会社の経営姿勢に共感され、企業理念に感動しA社への志望度は日に日に高くなっていきました。縁もゆかりもない土地でしたが、社内見学もされたことで、働くイメージを持っていただきました。臨んだ最終面接。もう1名の他候補者は、高い英語力を持つ外資系企業を渡り歩いた優秀な方でした。私はB様と入念な面接対策をし、それに長い時間を割いたことがとても印象的でした。無事に内定を勝ち取り、現在も良いセカンドキャリア、セカンドライフを過ごされているとのことでした。
当初は地方での就業を考えていらっしゃらなかったB様ですが、実際に企業研究をしていただくことで企業の魅力を感じとっていただき、A社にとっても採用ニーズを満たせる結果となり、大変良いマッチングとなりました。
まとめ
ご紹介した事例も含め、Iターン×シニアの転職事例が増加しつつあります。今回のコラムでもご説明した通り、労働人口が減ってきている以上、売り手市場であることは将来的にも変わらないと推測されます。
地方企業の採用担当者様は、若手・中年層をターゲットに絞られている求人に関しては、向こう10~20年働き続けていただけるシニア層にも目を向けて採用強化をしていただけますと良い人材を確保しやすくなるかと思います。
最後になりますが、日本が抱える大きな問題、人口減少を解決する為の地方創生の一助となるのは、間違いなく就業意欲のあるシニア層です。そして、その中でも都市部ならではのスピード感、ダイナミック且つ繊細な業務を豊富に経験されている都市部で働いてきたシニア層の活躍の場があります。これを機にIターンという選択肢を加えて、地方でセカンドキャリアを築いてみませんか。
(文/リクルーティングアドバイザー)
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