「ワーキングケアラー」
第102回2015/01/19
「ワーキングケアラー」
「ワーキングケアラー」
現在、高齢社会が進行している日本では、高齢者の介護というのは避けては通れない問題となりつつあります。高齢者の増加に伴い、必然的に介護をしながら働いている人が増えています。
そこで今回は、働きながらご家族等の介護を行っている勤労者のことを指す「ワーキングケアラー」について取り上げてみます。
介護者の内、約半数がワーキングケアラー
介護をしながら働いているワーキングケアラーは、総務省が公表した「就業構造基本調査」(2013年度版)によると、その総数は全国で約290万人という統計となっております。
これは現在介護をしている人の約過半数に相当する人数です。
上記の290万人の内訳は、男性が130万人、女性が160万人となっております。
ワーキングケアラーの問題点
就業者全体からみると、介護をしている人の割合は全就業者の5%弱に過ぎませんが、これを年齢別に見てみると、かなり深刻な問題となってくる可能性が高いと言えます。
上述の290万人のうち、約6割が40~50代となるため、企業内ではマネジャーや部長クラスの人材にあたる年齢となるでしょう。実際、部長クラスになるであろう50歳代後半ではその数は10%台に達しており、60代でも10%に近い水準となっています。
また、要介護者が勤務先から離れた場所に住んでいるケースも多いため、介護に専念するためにやむを得ず退職するというケースも徐々に増えてきているようです。
こういった経験豊富な企業内の中核人材が離職することにより、ワーキングケアラー増加の経営上のリスクも指摘されるようになってきました。
介護に関する法令について
こういった事態に対処するため、介護休業に関する法令の整備が進められております。
その中核となる『育児・介護休業法』は、平成21年6月に改正され、一部を除き、平成22年6月30日から施行されました。
一部の規定は、常時100人以下の労働者を雇用する中小企業については平成24年7月1日から施行されております。
具体的には、下記のような条項があり、法令上の整備は進みつつあるようです。
つまり、『育児・介護休業法』に則れば、適宜休業や時短勤務を利用することにより、介護へ対応しやすくなる可能性が高いと言えます。
【法第11条~第15条】
◇介護休業
労働者は、事業主に申し出ることにより、対象家族1人につき、要介護状態にいたるごとに1回、通算して93日まで、 介護休業をすることができます。
【法第23条第3項】
◇介護のための短時間勤務制度等の措置
事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が希望すれば利用できる、短時間勤務制度その他の措置(短時間勤務制度等の措置)を講じなければなりません。
【法第16条の5、第16条の6】
◇介護休暇
要介護状態にある対象家族の介護その他の介護を行う労働者は、事業主に申し出ることにより、対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、1日単位で休暇を取得することができます。
【法第26条】
◇転勤に対する配慮
事業主は、労働者に就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合に、その就業場所によって介護が困難になる労働者がいるときは、当該労働者の介護の状況に配慮しなければなりません。
ワーキングケアラーの介護休業の利用実績について
上述のような介護に関する制度を適切に利用できている人はどの程度いるのでしょうか。
東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長である渥美氏の記事によると、
実際に介護休業を利用した人は約8万人であり、介護をしながら働いている人の3%程度に過ぎず、要介護の家族を持つ人を分母とするとわずか0.9%に過ぎません。
また、介護休業の利用実績がある事業所もわずか1.4%に過ぎず、介護休業以外の短時間勤務や介護休業等の各種制度を含めても利用者は約38万人と、介護をしながら働いている人の13%にとどまっているとのことでした。
参考 : http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0100E_R00C13A8000000/?df=3
ワーキングケアラーに対する企業の対応
まだまだ介護をしている人が介護制度を利用しにくい雰囲気がある中で、それに対して積極的に対応し、介護を理由とする離職リスクを防ごうと、ワーキングケアラーに対して事前策を講じる企業も増えてきつつあります。
【ケース1:大手グローバル流通企業のA社のケース】
介護に関する情報を提供し、介護の相談や個人に合わせた支援を受けることの出来る制度づくりを行っています。また、それに伴い、面談などを通じ適宜キャリア形成のすりあわせをすることにより、適切なフォローアップを行っています。
具体的には介護入門書を自社で作成し、イントラネットへ掲載、配布を行ったり、介護セミナー・介護個別相談会を実施しています。また、介護を扱うNPO法人や民間警備会社との提携することで細やかな個別支援を行うと共に、面談での適切なフォローアップを実施しています。
【ケース2:大手ゼネコンB社のケース】
法定通りの介護休業制度、介護休暇制度、時間有給制度を積極的に利用していくように呼びかけていくと共に、ユニークな休暇制度や雇用制度を設計しています。また、A社のケースと同様、介護に関する情報を適宜提供するような仕組みづくりを進めています。
具体的には、勤務時間の長さは変化させずに勤務時間の繰り上げや繰り下げを実施したり、勤務地を本人の希望により変更する制度や、介護で退職した方を再度雇用する制度などといった制度を設計しています。
まとめ
今後日本の高齢社会がますます進んでいく中で、介護をしながら働く人の割合が増えてくることは避けられないでしょう。
上記で述べたように、現在の日本ではまだまだ介護に関する制度を利用しにくい雰囲気がある一方で、いち早く介護問題に取り組んでいる企業も存在しています。
また、コンプライアンスの意識もますます高まってきている昨今においては、こういった労働問題に関する法令への適切な対処も求められてきます。
個人の働き方を尊重する意味でも、企業の経営を安定化させる意味でも、今後積極的に取り組んでいくべき問題の一つとなる可能性が高いでしょう。
(文/キャリアアドバイザー)
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