「ダブルケア」
第112回2016/09/20
「ダブルケア」
「ダブルケア」
皆様は、ダブルケアという言葉をご存知ですか?
ダブルケアとは、女性の晩婚化で出産年齢が高齢化し、親の介護と子育てを同時にしなければならない世帯のことを指します。ダブルケアをする人は現在全国に25万3千人おり、男女別にみると、男性が8万5千人、女性が16万8千人となっております。つまり、ダブルケアを行う女性の推計人口は、同男性の約2倍(1.96倍)ということになります。兄弟数や親戚ネットワークも希薄化し続けている現代、そのような家族構造の変化のなかで、子育てと親の介護を同時にする世帯が今後さらに増加していくことが予測されます。
ダブルケアという言葉は、これまであまり耳にしたことがない方が多いのではないかと思いますが、今後ダブルケアを経験する方の割合は更に高まっていくことでしょう。そこで今回は、ダブルケアの概要、今後必要とされる対策について言及していきます。
ダブルケアラー増加が予想される理由
昨今、女性の社会進出やその他の様々な要因から晩産化・超少子化、高齢化が同時進行しております。
日本人の平均初婚年齢は、2012年で夫が30.8歳(対前年比0.1歳上昇)、妻が29.2歳(同0.2歳上昇)と上昇傾向を続けており、結婚年齢が高くなる晩婚化が進行しています。1980年には、夫が27.8歳、妻が25.2歳であったので、ほぼ30年間で、夫は3.0歳、妻は4.0歳の平均初婚年齢が上昇しているということになります。
さらに、出生したときの母親の平均年齢をみると、2012(平成24)年の場合、第1 子が30.3歳、第2子が32.1歳、第3子が33.3歳であり、前年に続いて第1子出産年齢が30歳を超えました。
第2子や第3子が生まれ、子育てに最も手のかかるタイミングで両親が70歳前後になっていることが多く、平均寿命が伸びているとはいえ、子育てと介護の両方を行う必要性がでてきます。
昔は子育てが一段落するころに親の介護が必要な時期にさしかかるサイクルになっていましたが、今は上記のようなダブルケアが起こりやすいサイクルになりつつあります。
ここからみえるダブルケアの対象者
ダブルケアを行う者の平均年齢は男女とも40歳前後で、育児のみを行う者と比較してやや高く(4~5歳程度)、介護のみを行う者と比較して20歳程低いです。 ダブルケアを行う者は、30歳~40歳代が多く、男女ともに全体の約8割です。
これは、育児のみを行う者とほぼ同様となっています。働く世代がダブルケアに直面しているのです。
■団塊の世代の女性
団塊の世代の女性は、自分の親の介護と自分の孫の支援を同時に行うケースが考えられます。この世代は自分の親が介護している姿を見ているので、自分で介護をするという認識が強いです。且つ、自分の子供も働いていた場合、退職している自分が孫の面倒もみているケースもあります。特にこの世代の女性は、男性が外で働き、女性が家庭を守るという文化が根強く残っている傾向があり、一人で抱え込んでしまうケースが多いようです。
■団塊世代の子供
親が早くから介護が必要になってしまった場合や、親が高齢出産で自分を出産した場合は、親の介護と子育てが同時進行になります。
ダブルケアを行う者の男女計年齢階層別割合をみると、40~44歳が最多の27.1% 、次いで35~39歳の25.8%、30~34歳の16.4%、40~44歳の12.5%と、30歳~40歳代で全年齢層の約8割を占め、平均年齢は39.7歳となっております。
今後ダブルケア予備軍も含めると、4人に1人がダブルケアを経験すると推測されます。
ダブルケアに対する実際の取り組み
■企業の取り組み
人材紹介でお取引のある企業の経営者や人事担当者に「ダブルケア」について話しを聞いたところ、名前は聞いたことがあるが、実態まで把握している企業、または何か対策を講じている企業はほとんどありませんでした。ただ、ダブルケアではありませんが、育児や介護問題に対して働き方を柔軟に対応できるように、時短勤務やフルフレックス制の導入、男性でも育児休暇が取れる制度を検討したり、現代の流れに沿えるような取り組みを前向きに検討している企業はありました。一方で、前向きに取り組む姿勢はあるものの、やはり現状はなかなかそこまでのフォロー体制を構築できていない企業も見受けられました。
■自治体の取り組み
ダブルケア従事者(ダブルケアラー)は体力的負担、金銭的負担も多いですが、精神的な負担が一番大きいと考えられています。横浜市の民間団体では、ダブルケアラーに対してサポートを行うための研修プログラムを開発し、地域でダブルケアラーをサポートしていこうという活動が始まっています。核家族化が進む中で地域のサポートは必要不可欠なため、今後も各地域でダブルケアラーに対しての負担が軽減できるような活動が必要であると思います。
ダブルケアラーを取り残さないために
現状としてダブルケアの悩みを相談できる場所や人が圧倒的に不足しています。そのため、上記の横浜市の民間団体のようなサポーター育成の他に、自治体に総合窓口を設置し、悩みによって専門性の高い人にアドバイスや具体的解決策を貰えるなど情報収集が出来る場を増やしたり、ダブルケアラーが各々集めていた情報を一括して検索できるシステム、同じ境遇の方が情報交換できるコミュニティサイト等を立ち上げるのも良いでしょう。必要な情報が必要な時に得られるようなシステム作りが重要だと思います。
またダブルケアラーのメンタルサポートを専門的に行うカウンセラーを各自治体や企業に定期的に派遣する必要性も想定されます。保育園や幼稚園と介護施設を併設した施設をさらに増やすことで、待機児童の改善にも繋がり、高齢者にとって児童と触れ合うことで、脳が活性されたり活力が湧いたりと良い効果が生まれるのではないかと思います。児童にとっても、高齢者と触れ合うことで思いやり優しい気持ちを育むことができると思います。地域と企業が一体になってこの問題に取り組む必要が急務です。
まとめ
ダブルケアは精神的・体力的・時間的・経済的・家族的と、様々な課題が複雑に絡んでいますが、特に精神的、体力的負担が大きいと感じている人が多いです。また、現状の公的サービスにおいて介護支援や子育て支援に対して80%以上の方が十分でないと感じています。(ソニー生命調べ)
50年後も人口一億人を維持し、家庭、職場、地域で誰もが活躍できる一億総活躍社会を目指している日本だからこそ、各企業や地域も積極的にフォローできる体制構築が急務です。女性活躍推進法が施行されてはいるものの、今後ダブルケアに直面する女性は増えることが想定されます。女性を含めた全員が活躍できる社会を目指すためにも、社会全体でダブルケアについて考えていくことが必須なのではないでしょうか。
(文/リクルーティングアドバイザー 大戸 宏子)
【参考】
・ダブルケア(育児と介護の同時進行)の研究-ダブルケアとは
・内閣府男女共同参画局-ダブルケア人口・世帯の推計
・内閣府男女共同参画局-育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書のポイント
・ソニー生命保険株式会社-ダブルケア
・LOCAL GOOD YOKOHAMA-横浜から全国へ!ダブルケア(育児と介護の同時進行)サポート横浜プロジェクト
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