国際税務とは?税理士が国際税務を経験することでキャリアアップにつながる?
近年、日本企業が海外進出したり、外資系企業が日本に進出したりと、経済のグローバル化が進んでいます。そのような中、税理士業界で注目を集めているのが「国際税務」です。2カ国以上の税務を処理できる税理士の活躍の場は増え、転職市場でも高く評価されています。
そこで今回は、国際税務とは何か、その業務内容や求められる語学力の程度、キャリアアップの方法などについて詳しく解説します。
国際税務とは
国際税務とは、国境を越えた取引において生じる国際間の税務問題を扱う業務を指します。
近年では海外進出をする企業が増えていますが、その際に重要になるのが、国際税務に関する高度な知識です。そのため国際税務に精通している税理士へのニーズは年々高まりつつあり、求められる能力を有していれば、労働市場における価値も向上します。
国際税務には大きく分けて、インバウンド業務とアウトバウンド業務の2種類があります。
インバウンド業務とは、日本に進出した外資系企業の税務のことです。ただし、日本に進出して間もない時期や、日本拠点の規模が大きくい場合は日本事情に精通した人材が乏しいことから、税理士が経理や給与計算などお金に関わるあらゆる業務を任される場合もあります。
一方でアウトバウンド業務とは、日本企業が海外に進出した際に生じる税務を指します。ひと昔前だと、海外進出に積極的なのは大企業でしたが、現在ではグローバル化の進展に伴い、中小企業や個人が工場・拠点を海外に設けて事業活動を行うケースが増えています。
インバウンドの国際税務は高度な税務というよりは、活動場所があくまで日本であるため、国内企業の税務顧問業務の延長線上にあると言えます。税理士が国際税務経験を積んでキャリアアップをする際には、アウトバウンドの国際税務経験を積むことが多いです。
国際税務の仕事内容
今や大企業のみならず、中小企業においても海外進出、外国の企業との取引が当たり前の時代です。ただ、諸外国はそれぞれが課税権を持ち、税法も国ごとに定められているので、国境をまたいで取引を行う場合、そこで生じる所得がどちらの国の税法に基づいて課税されるのかといった、国際的な税務問題が発生します。
そのような複数国間における税務問題を扱う領域が「国際税務」です。
日本だけでなく他国も課税主体となり得る場合、日本の法律・制度だけでなく諸外国の税務にも精通した専門家の協力が欠かせません。
近年では、税理士資格を持つ人が、国際税務のエキスパートとして活躍するケースが増えています。
続けて国際税務の業務内容について、さらに詳しく見ていきましょう。
国際税務の具体的な業務内容
国際税務の主な業務として、以下の4つが挙げられます。
移転価格税制関連業務
移転価格とは、日本企業が海外にある関連会社(子会社など)と取引する際の価格のことです。法的にルールなどは規定されていないため、企業側で取り決めます。価格移転に関わる税務として、以下のものがあります。
・移転価格ポリシー(移転価格の算定方法)の構築
・移転価格に関する文書の作成サポート
・移転価格に対する課税リスクの分析
・寄付金課税リスクの分析
・移転価格に関して税務調査があった場合への対応
・事前確認(APA)の申し出、協議、訴訟のサポート
タックス・ヘイヴン対策税制関連業務
タックス・ヘイヴン(Tax Haven)とは、日本よりも税金の安い地域に子会社を設立したり、資産を移転したりして節税することです。タックス・ヘイヴンに関わる税務を行うことも、国際税務の範疇に入ります。その業務内容としては、以下のものがあります。
・外国子会社合算課税関連の申告書別表の作成支援(合算課税とは、法人税率が低い海外子会社に対し、日本にある親会社の所得と合算して国内で課税する税制のこと)
・合算課税リスクの分析
国際源泉課税と外国税額控除
国際源泉課税とは、得られた所得が日本国内の所得(国内源泉所得)であるのか、国外の所得(国外源泉所得)であるのかを判別した上で、国外分に関してその国の課税制度に対応することです。
そして外国税額控除とは、外国で納付した外国税額を、一定の範囲内で国内の課税額から控除する制度のことで、国際的な二重課税を調整するために導入されています。
国際源泉課税と外国税額控除に関しては、以下の業務内容が国際税務として生じます。
・国際源泉課税に関する租税条約の減免措置の適用支援(租税条約の減免措置とは、国内に主たる事業所のない海外企業が、日本で源泉徴収の対象となるような支払いを受けた場合、「租税条約に関する届出書」を税務署に提出することで、課税額の軽減または免除を受けられる制度)
・居住者なのか、非居住者なのかの検討
・控除対象となる外国法人税の検討、租税条約に関わるルールの検討
海外課税問題への対応
日本企業が海外進出した際の税務、および日本企業から海外の子会社や事務所、工場に出向した日本人従業員が直面する課税問題への対応などを行います。
国際税務を取り扱う税理士の業務例
国際税務を取り扱う業務例をいくつかご紹介します。
国際税務に関する日常的な質問への対応
顧問契約を結んだクライアントから、国際税務に関する質問に対応する業務です。対応方法は面談、メール、電話など状況に応じて変わります。
質問内容もさまざまで、問題に関する具体的な回答を求められる場合や、確認したいことやチェックしてもらいたいことがあって連絡を受ける場合もあります。
基本的に国際税務に関する内容であるため、専門的な知識、経験を背景にした対応が求められます。
中~大規模な国際税務プロジェクトの推進
移転価格ポリシーの設定とその文書化、および外国子会社合算税制に対する対応は、一朝一夕で行えるものではありません。通常は分析や検討期間も踏まえて、数カ月単位のプロジェクトとして実施されるのが通例です。
近年では大企業だけでなく、中小企業でも国をまたがったプロジェクトが行われるようになり、国際税務を任せられる税理士への需要は大きいです。実績を豊富に持つ税理士であれば、プロジェクトを取りまとめるマネージャ―やリーダーとしての活躍も求められます。その際、海外で現地採用された従業員と頻繁にコミュニケーションを取る必要もあるため、高度な語学力も不可欠です。
税務調査への対応支援
国際税務に関わる税務調査では、関連する知識・経験を豊富に持つ調査官が対応します。たとえば移転価格に関する調査であれば、移転価格に関する専門的な知識を持つ調査官が来て、問題点を指摘するわけです。
こうした調査官に対応するには、対応する企業の側も国際税務に関する深い知識を持つ必要があります。税理士として対応を任されたなら、国際税務の専門家としての力量が試される場となるでしょう。
二国間相互協議の支援
二国間相互協議とは、国内と国外における税制の違いによって生じた問題を、日本を含む当該国の税務当局の役人同士で話し合って解決することです。移転価格税制に関連する事前確認、二重課税の問題への対応などがその典型例として挙げられます。状況によっては海外の税制事情に詳しい現地専門家の力を借りる必要があり、その際の交渉も行います。
海外との連携
海外に進出した日本企業は、進出先の国でどのような税制に直面するのかについて、詳細な情報収集を行う必要があります。そのためには現地在住の税の専門家や、海外子会社の税務担当者との情報交換が必要となりますが、その際にクライアント企業から支援要請が来る場合があります。つまり、同じ税務の専門家として、海外在住の税の専門家・海外子会社の税務担当者との直接的なやり取りを求められるわけです。
その際は当然ながら外国語を使ってのメール、電話、ウェブ会議などが必要となります。英語力があれば基本的に対応できますが、英語が使用されない地域・企業では、現地語の読解力・スピーキング力も求められます。
国際税務で働くうえで語学力は必要か
「国際税務」と聞くと、英語をはじめとした語学力が必要なのだろうかと不安を抱く方もいるかもしれません。
結論から言えば、語学力があるに越したことはありません。英語力があればあるほど、国際税務への転職が有利となるのも事実です。
しかし、国際税務へ転職した人全員が英語に堪能だったわけではありません。入社後に仕事をしながら語学力を磨いていったというケースも多く存在します。
そのためまずはTOEIC700点以上の取得を目標としつつ、「法人税」や「消費税」といった国際税務でとくに求められる分野の知識を高めていくようにしていきましょう。
語学力以外で身に着けておきたいスキルとは
国際税務への転職時、英語力以外に身に着けておきたいスキルとして「対顧客スキル」と「高いコミュニケーションスキル」が挙げられます。
国際税務で関わる企業の大半は大手企業であることが多く、国際税務として求められるレベルも高い傾向にあるでしょう。
そのため、クライアントから期待外れだったと思われないような接し方ができるかどうかはもちろん、ビジネスシーンにおける所作や振る舞いも今一度しっかり身に着けておくことをおすすめします。
また、これは国際税務に限った話ではありませんがコミュニケーション能力を磨いておくことも重要です。
税務業務と聞くと、机上で完結するようなイメージを抱く方が多いかもしれませんが、国際税務では対顧客相手にプレゼンをする機会も多く、それ相応のコミュニケーション能力が求められます。
コミュニケーション能力の高さは転職の面接時においても有利に働くため、常日頃から対人能力を高めようとする意識を持つようにしましょう。
国際税務のキャリアを歩むには
国際税務のキャリアを歩むために、どういったところへ転職したらよいのかわからない方も多いかもしれません。
国際税務に関する業務を扱っているところとして、Big4税理士法人が挙げられるでしょう。Big4税理士法人とは、以下4つの法人のことを指します。
- ・PwC税理士法人
- ・デロイトトーマツ税理士法人
- ・KPMG税理士法人
- ・EY税理士法人
また、近年ではBig4税理士法人以外にも国際税務を提供しているところが増えているので、弊社などの転職エージェントを活用しつつ求人先を探してみることをおすすめします。
国際税務への転職は大きなキャリアアップに
企業の規模に関係なく海外取引が増えつつある現在、国際税務を扱える専門家へのニーズも年々増加しています。
また、国内法人だけでなく、多くの外国法人も日本にやってきて、さまざまな事業を展開しています。
税理士としての業務の幅を広げ、キャリアアップを目指すのであれば、国際税務はぜひ経験しておきたい仕事であると言えます。
また、海外に事業展開を行っている企業の場合、国際税務を専門に扱う税務室を設けているケースも少なくありません。
税理士としてそのような場で働こうとする場合、単純な税務経験を重ねていくだけではなく、連結決算に関連する実務経験に加え、高度な語学力が必要です。
そのような企業・部署に転職するのはハードルが高いとも言えます。
しかし、先を見据えながら少しずつ学習・スキルアップを重ねていき、国際税務に取り組めるだけの知識や経験を身に付けていけば、将来的には税理士として多様なフィールドで活躍できるようになるでしょう。
国際税務への転職成功事例
では、実際に国際税務へとキャリアアップを果たした税理士の成功事例についてご紹介します。
50代のキャリアも見据え一般事業会社の国際税務に
Xさん(年齢・性別)資格:税理士
飲料メーカー
年収:1000万円
自動車部品メーカー
年収:1000万円
Xさんは大手外資系企業に就職後、飲料メーカーに転職し、働きながら税理士資格を取得しました。
実務経験は財務、経理一筋で、企業再編に取り組んだ経験も持っています。
飲料メーカーでの仕事も充実していましたが、保有している税理士資格と外資系企業で働いた経験を活かしたいと考え、国際税務に取り組める企業への転職を決意しました。
転職活動の際に重視したのは、「国際税務の経験を積める職場であるかどうか」という点です。
また、Xさんは飲料メーカーで働いていた時、経理の専門職として高い年収を得ていたため、転職しても何とか同水準の年収を得たいとの希望もありました。
結果として、大手製造会社の税務担当に管理職候補として内定を獲得。
「キャリアアップ」と「年収」の両方において納得できる職場を見つけることができた、理想的な成功例と言えます。
国際税務の経験と英語力を活かし外資系メーカーにキャリアアップ
Yさん(年齢・性別)資格:税理士
日系事業会社
年収:500万円
外資系メーカー
年収:600万円
Yさんは税理士法人で経験を積んだ後、過去の留学経験で培った英語力を活かし、海外展開している日系事業会社に転職されました。
同社では国際税務や金融税務などの業務に携わり、税務の専門性を高めていらっしゃいました。
しかし、経営状況の悪化に伴い海外拠点は撤退したことから、転職を考えます。
転職活動では、外資系企業を中心に活動を行いました。この際、海外拠点とのやり取りや国際税務に関する業務経験が高く評価され、結果的に転職に成功しました。
Yさんのケースは、税理士法人から国際税務として一般企業に転職し、成功した例です。
年収も向上しており、国際税務への転職が税理士のキャリアアップとなるモデルケースであると言えるでしょう。
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まとめ
経済のグローバル化が進む中、国際税務の専門家に対するニーズは高まりつつあり、税理士としてのキャリアアップを目指すなら、国際税務の経験を積むことは有効な選択肢と言えます。
ただし求められる能力は高度で、国内・外国の税務の専門知識に加えて、語学力も求められます。転職市場などで高評価を得られるようになるには、実績の積み上げも不可欠です。
国際税務は専門性の高い職務なので、転職市場では非公開求人として、特定のコネクションを通じてのみ人材を募集していることもあります。そのため実際に転職を考えるなら、国際税務を扱う税理士法人への転職支援実績が多いエージェントに相談するのが望ましいです。
弊社は国際税務の税理士の転職実績も多く、転職前から転職後に至るまで、幅広いサポート体制が整っています。国際税務の経験者およびこれから経験したい方は、ぜひご相談ください。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、幸せに働く人を増やしたいという想いから新卒でMS-Japanに入社。
上場企業を中心とした求人開拓から管理部門全般のマッチングを行い、2021年1月より専門性の高いJ事業部に異動。
主に会計事務所、監査法人、社労士事務所の担当を持ちながら士業領域での転職を検討している方のカウンセリングから案件紹介を両面で行う。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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