税理士試験における大学院の科目免除制度とは?メリットや費用など
社会人として働きながら、税理士を目指す人も少なくありません。 社会人で税理士を目指す場合、大学院の科目免除制度を利用することは大きな選択肢となるでしょう。
科目免除制度を利用することにより、通常より短期間で税理士資格を取得することが見込めます。
ここでは、大学院の科目免除制度の概要、科目免除制度のメリット、費用やスケジュール、および社会人が税理士資格を取得した後のキャリアプランをご紹介します。
税理士試験における大学院の科目免除制度とは
大学院の科目免除制度とは、大学院に通うことで税理士試験の試験科目が免除される制度です。
税理士の資格を得るためには、以下の2つの方法があります。
- ・税理士試験を受け、5科目に合格する
- ・大学院に進学して1~2科目の免除を受けたうえで、税理士試験の3~4科目に合格する
通常の税理士試験は以下の計5科目に合格しなければなりません。
- ・会計学に属する科目(簿記論、財務諸表論)の2科目
- ・税法に属する科目(所得税法、法人税法、相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税)から3科目
- (ただし、所得税法または法人税法のどちらか1科目は必ず選択)
令和5年の税理士試験科目合格率の平均が18.8%となっており、合格者は10人中1~2人といった非常に難しい試験であるといえます。
そのため、5科目に合格して税理士の資格を取得するまで、何度も受験される方も多くいます。
それに対して、大学院の科目免除制度を利用すれば、
・会計科目の免除申請の場合は1科目
・税法科目の免除申請の場合は2科目
の科目試験が免除されます。
科目の免除を受けるには、大学院へ進学し、必要な科目を履修して、単位を取得します。そのうえで、学位論文を作成し、国税審議会へ科目免除の申請を行います。
申請を行う時点で、税理士試験に1科目合格していれば、残りの1科目(会計の場合)または2科目(税法の場合)の科目試験が免除されます。
大学院の科目免除制度を活用するメリットは?
税理士試験において大学院の科目免除制度を利用するメリットは、主に下記の3点です。
・資格取得までの期間が短縮できる可能性がある
・法律全般の知識が深まる
・アウトプット力を身につけることができる
具体的にどのような魅力があるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
資格取得までの期間が短縮できる可能性がある
大学院の科目免除制度を活用する最大のメリットといえるのが、資格取得までの期間が短縮できる可能性があることです。
税理士試験において5科目すべてに合格することは非常に難しく、なかには1科目合格するのに何年もかかる人も少なくありません。5科目の合格までに必要な勉強時間は4,000~6,000時間といわれることもあり、仮に1日4時間ほど勉強できたとしても3年近くかかります。(実際には社会人受験生も多いため、3年で官報合格できる人は稀です。)
それに対して、大学院では必要な単位をきちんと取得し、修士論文を作成すれば科目免除制度が適用され、必要な科目のみの勉強に注力することが可能です。そのため、通常の科目試験を受けるよりも大学院の科目免除制度を活用する方が短い期間で税理士資格を取得できる可能性が高いでしょう。
法律全般の知識が深まる
大学院に進学して税法系の学位を取得することにより、法律全般の理解が深まることも大きなメリットです。また、大学院では民法や労働基準法といった税理士試験の科目にない法律にも触れることができるため、そこで培った幅広い知識は実際に税理士となった際に大いに役立つことでしょう。
アウトプット力を身につけることができる
修士論文の作成や研究会を通じて、アウトプット力を身につけられることも大学院に進学する魅力のひとつです。自ら問題意識に沿って調査や研究を進め、文章やプレゼン等で表現する中で、説明能力やコミュニケーション能力を効果的に養えます。
科目免除制度は転職・就職に不利?
大学院の科目免除制度で税理士資格を取得した場合、「転職や就職に不利にならないか?」と思う方もいるでしょう。
たしかに、大手税理士法人に就職・転職しようと思う場合には、残念ながら、大学院の科目免除者は不利になることがあります。
大手税理士法人のなかには、「大学院の科目免除者は採用しない」としているところがあります。
また、「採用しない」と決めるまで行かなくても、仮に似たような実務経験の応募者がいた場合、科目免除者が不利になるケースもあり得ます。
ただし、中小の税理士法人や会計事務所の場合には、税理士資格を取得してさえいれば、科目免除であるかないかはそれほど関係ないといわれています。
大学院の科目免除を利用する場合、合格しておくと評価の高い科目は受験することをおすすめします。
税法科目と会計科目では、税法科目を試験で合格している方が評価されます。
また、税法科目のなかでも、特に「法人税法」が重視されます。
法人税法を試験で合格することにより、転職・就職の際の選択肢は広がることになるでしょう。
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税理士試験で科目免除になる大学院は?
続いては、税理士試験において科目免除の対象となる大学院や研究科を4つご紹介します。
・会計大学院
・商学研究科・経営学研究科
・経済学研究科
・法学研究科
それぞれの特徴は以下の通りです。
会計大学院
会計大学院は、会計分野を専門的に学べる専門職大学院です。
従来の大学院では専門分野の研究者を育てることを目的としてカリキュラムが組まれていますが、会計大学院の場合は会計のプロフェッショナルの養成を目的としています。そのため、研究指導や論文審査などは行われておらず、現役の実務家を教員に起用した実践的なカリキュラムであることが大きな特徴です。
一般的に、会計大学院を修了し学位が授与されるまでには2年間かかります。会計専門職修士の学位を取得できれば、修士論文で税法関連のテーマを扱う場合は税法2科目、会計関連のテーマを扱う場合は会計学1科目の科目免除が可能です。
なお、入試の内容は各会計大学院によって異なるものの、「書類選考+面接(+小論文)」といったスタイルが多くみられます。
商学研究科・経営学研究科
経営や会計など商学・経営学系の科目を履修する商学研究科、または経営学研究科では、修士論文を法律からのアプローチで取り組むことによって税法科目免除が可能となります。この研究科では経営・会計・商学系の知識やスキルを高められるため、税理士になったあとで経営・会計全般のコンサルタントとして活躍したい場合におすすめです。
なお、商学研究科・経営学研究科への入学試験においては、会計学や経営学の知識が問われる傾向があります。
経済学研究科
経済学研究科においてはミクロ経済学やマクロ経済学、財政学といった経済学に関する科目を履修し、財政学の観点から租税論に関する修士論文を作成することによって税法科目免除が可能になるケースが多いです。また、税法を専門とする教授がいる場合は、法律の視点から修士論文を作成しても構いません。
なお、経済学研究科の入試では先述した経済学に関する科目の理解度が試される傾向があります。
法学研究科
法学研究科では税法や憲法、民法、刑法といった法律科目を履修し、法の解釈や判例研究などの法律からの観点で修士論文を作成することによって税法科目免除が適用されます。税法をテーマに執筆すればより一層税法への理解を深められるため、法律に精通した税理士として活躍したい人におすすめです。
なお、法学研究科の入試では法律に関する知識を問う問題が多く出題されます。
働きながら大学院に通う場合の費用・スケジュールは?
科目免除申請ができる大学院は、夜間のコースを設けているところが多くあります。
したがって、働きながら大学院に通うことができます。
税理士法人や会計事務所に勤務しながら大学院に通う例も多くあります。
大学院に進学するための学費は、200万円程度となるのが相場です。
税法の科目免除を受ける場合、働きながら大学院に通うスケジュールは以下のようになるでしょう。
1. 会計の2科目および税法の1科目について税理士試験に合格する
2. 税法の免除申請ができる大学院に進学する
3. 税法に属する科目を履修し、4単位以上を取得する
4. 修士論文を作成し、学内の学位論文審査に合格したうえで大学院を修了する
5. 国税審議会へ科目免除の申請をする
6. 国税審議会で審査が行われ、科目免除の認定が決定される
7. 税理士の資格が得られる
※ 1の「税理士試験の合格」は、必ずしも大学院の進学前ではなく、大学院の進学後あるいは修了後でもかまいません。
国税審議会への免除申請は、税法1科目の合格後に行うこととなります。
社会人で大学院に通い税理士資格を取得!キャリアプランは?
社会人で大学院に通い、税理士資格を取得した場合のキャリアプランとしては下記が挙げられます。
・Big4税理士法人などの大手税理士法人に転職する
・中小企業への支援を中心とする個人会計事務所に転職する
・コンサルティングファームに転職する
・一般事業会社に転職する
それぞれについて、以下で詳しく解説します。
Big4税理士法人などの大手税理士法人に転職する
税理士資格取得後のキャリアプランとして、やはり大手税理士法人への転職を志望するケースも多いのではないでしょうか。
大手のなかでも「Big4」と呼ばれるKPMG税理士法人・EY税理士法人・デロイト トーマツ税理士法人・PwC税理士法人に憧れを抱く人が多く、中小税理士法人や個人事務所に比べて高年収であることや、大規模な案件に携われる点などが大きなメリットです。
クライアントには外資系企業も多く、高い英語力を持っている人はそのスキルを存分に活かせます。ただし、分業制をとっているケースが多いことから幅広い分野の業務を行えない可能性があるほか、比較的残業が多い点もしっかりと認識しておくことをおすすめします。
中小企業への支援を中心とする個人会計事務所に転職する
個人会計事務所も、税理士資格取得後の就業先として一般的です。クライアントとしては個人事業主や中小零細企業が多く、その地域に根差した形で税務・会計サービスを提供しています。
個人会計事務所に転職するメリットは、幅広い会計業務に携われることです。また、経営のトップである所長が身近な存在であることから、将来的に独立開業を志望している人にとっては経営のノウハウを学ぶ大きなチャンスにもなります。
一方で、個人会計事務所では「所長の方針=事務所の方針」であるため、所長の考え方に共感できるところ、相性が良さそうなところを選ぶ必要がある点に注意しましょう。
コンサルティングファームに転職する
企業支援に興味がある場合は、コンサルティングファームに転職するのもよいでしょう。具体的な支援内容は各コンサルティング会社によって異なりますが、基本的には創業・スタートアップ支援や経営計画策定、M&A・事業承継支援、事業再生支援、海外進出支援といったサポートを行っているところが多くみられます。
税理士のスキルだけでなくコンサルティング能力も活かすことのできる魅力的な職場ですが、経営全般やマーケティングといった税務・会計以外の知識が強く求められます。なかには経営アドバイスがメインで、税理士試験で培った知識やスキルを存分に発揮できない場合もあるため、しっかりと企業研究を行ったうえで自分に適した転職先を見つける必要があるでしょう。
一般事業会社に転職する
一般事業会社の経理部門や税務部門等に転職するのも、税理士資格取得後に人気のキャリアプランです。税務や財務会計のほか、その周辺業務など幅広い種類の業務を経験できるメリットがあります。
また、税理士法人や会計事務所では繁忙期になると残業の日が続く場合もありますが、一般事業会社においては会社の規定に則って業務に携わるため、そういった激務はほとんど発生しません。ワークライフバランスの実現を重視している場合は、非常に適した選択肢といえるでしょう。
税理士のよくある質問
最後に、税理士関連でよくある質問をいくつかご紹介します。
Q.税理士資格の勉強をしながら働くことはできる?
可能です。ただ、「資格勉強をしながら勤務OK」といった求人案件はほとんど一般公開されておらず、ご自身で探すことは難しい傾向があります。MS-Japanのような税理士の転職に特化した転職支援サービスを活用することで、勤務時間の調整や試験前休暇、研修などの方法で資格取得を支援している事務所を見つけやすくなるでしょう。
Q.税理士という資格の市場価値は今後どうなる?
税理士の資格は、現在においても大変市場価値が高い状態です。しかし、近年における会計ソフトの目覚ましい進歩により、近い将来に税理士資格のみのアピールポイントでは評価されづらい時代が訪れる可能性もあります。
とはいえ、事務的な作業が少なくなる分クライアント対応に時間を費やすことができるようになり、コンサルティング業務もあわせて行う税理士事務所が増えてくるのではと考えられます。そのため、コンサルティング能力に長けた税理士の市場価値は今後ぐんぐん上昇するでしょう。
Q.税理士試験は何歳までチャレンジできる?
税理士試験に年齢制限はなく、何歳でもチャレンジできます。ただし、40代以上で未経験の税理士は転職活動が困難になりやすいため、税理士の資格を職業に活かすのであればなるべく早く受験するとよいでしょう。
【その他の質問を確認したい方はこちら】
税理士の基礎知識 転職FAQ
まとめ
社会人が税理士への道を目指す場合、大学院の科目免除制度を利用するとよいでしょう。大学院に進学するための費用はかかりますが、短い期間で税理士試験に合格すれば、通常のスタイルで試験を受けるよりも早く税理士資格を得られる可能性があります。
ぜひ今回ご紹介した内容を参考に、スムーズな税理士資格の取得を目指してみてください。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、不動産会社にて個人向けの営業を経験。その後MS-Japanへ入社。会計事務所・コンサルティングファーム・監査法人・法律事務所・社会保険労務士事務所等の法人側担当として採用支援に従事。現在はキャリアアドバイザーも兼務し一気通貫で担当しております。
会計事務所・監査法人 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ USCPA を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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