私はこうして開業税理士を辞めた ~税理士が開業に失敗した3つの理由~
近年、開業税理士からの転職相談が増えています。一時は顧客開拓も順調で売上も十分に立っていた“成功者”が今になってなぜ転職の相談にいらっしゃるのでしょうか。
今回の会計トピックスでは、開業税理士が抱える課題の中でも特に多い事柄について触れてみたいと思います。また、彼らが抱える課題には3つの共通項があることが分かりました。そういった課題を知ることで、これから開業を目指す方がどのような対策を取っていくべきかについても考えてみたいと思います。
会計事務所運営を継続できなくなった理由には共通項があった
冒頭でも触れたように、この数年で開業税理士からの“就職”に関する問い合わせが増えています。
お問合せ頂く税理士の中で最も多い年齢層は40代~50代、その内の半数以上は東京近郊で開業をしている方々でした。彼らとの面談を通じて、筆者としては以下の共通項を見出しました。
≪開業を続けるのが難しくなった主な理由≫
1. 案件単価の低下
2. 親の介護
3. 体力の衰え
※上記すべての項目に該当していた方は少数派で、多くの方はいずれかの項目の掛け合わせで苦しんでいる様子でした。
税務報酬の価格破壊に抗えなくて
まず、「単価の低下」ですが、この問題は業界内でも大きな問題となっています。
コンピュータや会計ソフトの発達も影響して、今まで提供してきた記帳~決算~税務申告という一連のサービスが“誰でも出来る作業”に変わってしまいました。また、インターネットの普及も相まって税務報酬の適正価格が容易に調べられるようになってしまいました。
結果、クライアント側も「今の報酬は適性なのか」「安くなるなら税理士を変更したい」と価格に関して疑問を持つケースが増え、価格とサービスのバランスに不満を持っていた客層が安い料金の会計事務所へと切り替えていったのです。このような動きが出始めると価格破壊は一気に加速してしまいます。実際に過去10年間の税務報酬は減少傾向にあり、「価格を維持できれば御の字」、「価格を上げられれば奇跡的」といった状況です。
一概には言えませんが、組織的な事務所よりも個人の事務所のほうが企業の開拓において苦労する傾向にあるようですし、特にこの数年はリーマンショックや東日本大震災後の景気低迷期だったという事もあり、開業税理士も顧問報酬の下落で大きな痛手を負ったようです。
親の介護が税理士業の障壁になるとは思わなかった
開業税理士が抱える課題の中に、親の介護を挙げる方が多いことも印象的でした。特に50代以上の方は親も高齢になり、身内の介護に関して現実味が増してくる世代です。
順調に事務所運営が出来ている税理士でも、親の介護問題が浮上してくると、本業に専念することが物理的に難しくなります。また、税理士業はクライアントの経営全般をサポートする職業ですので、何かトラブルがあれば顧問先に駆けつける必要も出てきます。そのような時に思うように身動きが取れなくなると、税理士業を営む上では大きなハンディキャップとなってしまいます。
実際に最近も筆者が面談をした税理士で、親の介護を行っている方がいましたが、「仕事と介護の両立は思った以上に難しい。一旦は介護に集中をしたい。」という理由でお客様との契約を解除している様子でした。幸いにもその税理士は、お客様からの信頼も厚く「復活したら、また顧問を任せたい。」「介護、無理しないで下さい、応援しています。」という声をかけて頂けたそうで、メンタル的な部分で大いに救われたようですが、開業した事務所の継続は難しいという結果となってしまいました。
開業税理士として今は順調に見えるけど、先々を考えると体力に不安が・・・
最後の項目ですが、これは様々な背景(意味合い)を含んでいます。
開業税理士の中には純粋に体力的な観点で自信がなくなってきたという方もいれば、景気動向や税制改正など最新の情報をキャッチアップし続けることに疲れたという方もいます。また、稼ぎ続けられるか否か“すべては自分次第”という精神的なプレッシャーに疲れてしまう方も多いようです。
いずれにしても開業税理士として事業を安定させるには相当なパワーが必要ですし、顧客を開拓した後もこまめにお客様をフォローしていくことが求められますので、税理士として成功し続ける為には、常に自己研鑽や自助努力を行う必要があるのです。
どのような人でも歳を取りますし老化は避けられません。一方、時代が変われば経済環境や業界トレンドは変化してしまいます。その変化に順応し続けていく為には「知力」「体力」「精神力」を鍛え続けることが必要とされているのです。
これから開業を目指す税理士の皆様へ
これまでの内容だと「開業税理士は辛そう。」「独立しても旨みがないのではないか。」と感じられてしまうかも知れませんが、決してそのようなことはありません。
むしろ、税理士という職業だからこそ生涯現役で活躍することも出来ますし、クライアントの成長・発展を自身の手でサポートできるという面白味もあります。事務所が軌道に乗れば金銭的な面でもサラリーマン以上に享受できる可能性は高いですし、開業するメリットは確実にあると思います。ただし、その裏には人並み以上の苦労や努力もつきものだ、それだけのことなのです。
ご存知の通り税理士業界は高齢化が進んでいます。表面上は今後の先行きに不安が残る業界に感じますが、上の世代が引退をし始めれば若い世代に主導権が訪れやすいマーケットだとも言えます。これから開業を目指す方々は、「価格競争に負けない」「親の介護も見据えて事務所運営する」「体力、知力、精神力を高め続ける」というポイントを押さえながら、ご自身に適した事業戦略を考えて頂ければと思います。
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