2024年05月31日

戦略法務とは?予防法務や臨床法務との違いや、転職で有利になるのか解説

近年、法務業務の中でも「戦略法務」の重要性が増し、新規事業の立ち上げやM&A、海外進出などでも重要な役割を果たしています。
企業法務としてキャリアアップを図る場合、戦略法務の知識・スキルは不可欠です。また、そこで積み上げた実務経験は、転職の際も大きな強みともなるでしょう。

今回は、戦略法務とは何か、その業務内容求められる知識・スキルについて詳しく解説します。

法務の3つの仕事「戦略法務」「予防法務」「臨床法務」とは

まず、法務の3つの仕事である「戦略法務」「予防法務」「臨床法務」のそれぞれについて見ていきましょう。

戦略法務

戦略法務とはいわゆる「攻めの法務」です。明確な定義はありませんが、法的な知識やスキルを活かして会社の経営戦略をサポートし、企業価値や利益の向上につなげていくことを意味します。

市場のグローバル化が加速する近年では、大企業のみならず中小企業でも積極的に海外進出しています。また、海外から予想もしなかった競合が登場してくることもあるでしょう。
複雑化したビジネス環境で、法的リスクが発生する可能性も増しているのです。

戦略法務は、そのようなビジネス環境のもとで、企業がリスクを取って挑戦をしていくことのサポートをする役割を担います。具体的には、新規事業、M&A、海外展開、知的財産のビジネス活用などを行う際の法的サポートが主な業務内容です。
専門的な領域であるために、スキルを身に付けていれば転職でも有利になるといえます。

予防法務

予防法務は、戦略法務などと比較して「守りの法務」と呼ばれています。法的トラブルが起こることを避け、法的トラブルが起こった際の悪影響を最小化するための業務です。
一般的に法務業務の大半は予防法務が占めています。

具体的な業務内容は、契約書の作成からレビュー・交渉・締結・管理までの一連の業務、社内規定整備を始めとしたコンプライアンス遵守のための取り組み、株主総会対策、労働問題や労働管理、知的財産権管理などが挙げられます。

臨床法務

臨床法務とは、実際に起きてしまった法的なトラブルに対応する法務業務です。
具体的な業務内容は、訴訟対応や、損害賠償請求・和解、債権回収や財産の保全、クレーム・トラブル対応、社員・役員の不祥事への対応などが挙げられます。

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戦略法務が重視されている理由

戦略法務、予防法務、臨床法務のうち、近年ではとくに戦略法務の重要性が増しています。
その理由として、以下の3点が挙げられます。

グローバル化

経済のグローバル化が進み、大企業のみならず中小企業においても、海外への事業展開が増加傾向です。
また、インターネット技術の進展により、国内にいながら、海外市場を念頭において製品開発・マーケティングを行うことも容易になりつつあります。

さらに現在、日本における少子高齢化の深刻度が増しています。日本人を対象として商品・サービスを展開するだけでは、市場が飽和しやすく、企業成長に限界が生じやすい傾向です。
こうした構造的要因に対応するために、積極的に海外に乗り出し、世界の新市場を開拓する企業が増えているのです。

しかし、海外市場を開拓するには、現地の法規制への対応が不可欠です。日本とは法体制が大きく異なる場合も多く、トラブルを回避するには、戦略法務による法的サポートが欠かせません。海外進出を目指す企業の増加は、戦略法務の重要性の増加にも直結しているのです。

国内外の業規制

日本では21世紀に入ってから、会社法や金融関連の法律の制定・改正が急速に進みました。こうした傾向は、政府主導の働き方改革やハラスメント対策など人権意識への向上、女性の社会進出などを背景に、2020年以降も続いています。

企業としては、リスクを避けるため、あるいは既存事業を守るために、こうした法令改正に対して迅速に対応する必要があります。そのためには、戦略法務担当者のサポートが重要になるのです。

重要な取引に関するリスクコントロール

インターネットの普及や経済のグローバル化が進み、経営環境の変化が激しい現在、企業の取引相手はかつてよりも流動化し、変動しやすくなっています。
新規市場の開拓や新たな仕入れ先・販売ルートを探す中で、これまで取り引きしたことのない企業新規のベンチャー企業などとの取引も増えるでしょう。

また、現在日本ではM&Aの件数が急速に増加しつつあります。
その理由は、経営者の高齢化による事業承継型のM&Aが増加していること、人口減少によって人手不足が深刻化する中、人材確保がしやすい大手企業が中小企業のM&Aを行うケースが増えていることなどが挙げられます。

しかし、新たな取引相手が本当に信用できるのか、長く付き合える企業なのかは、容易には判断できません。
また、M&Aの契約・遂行には多額の資金が必要であり、企業として失敗は許されません。

新規取引やM&Aを成功させるには、法律の専門家によるデューデリジェンス(Due Diligence)が重要です。デューデリジェンスとは、取引相手や買収相手の企業価値や、契約締結によって生じ得るリスクなどを詳細に調査することで、これは企業法務が行う戦略法務の対象業務です。
とくに大規模な取引・M&Aでは、自社がどこまでリスクを許容できるのかを判断し、その内容を契約書の中に盛り込むことが求められます。適切なデューデリジェンスによって自社の契約方針・内容を定めることは、戦略法務の重要な役割です。

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戦略法務の具体的な業務内容

戦略法務の仕事内容を詳しく見てみましょう。

新規事業の法的サポート

新規取引・事業展開を行う際の法的リスクを前もって検討し、その発生を最小限に抑制するための法務業務です。
新規取引・事業内容を詳細に調査・把握し、そこで得られた情報を元に、契約書の作成・確認を行います。

M&Aサポート

通常の企業買収・売却に加えて、事業再編や事業承継なども戦略法務の対象です。
買収方針の策定デューデリジェンスの実施契約書の作成、買収・売却後の法的リスクの確認など幅広い業務が任されます。
近年では同業他社に対する買収・売却のみならず、異業種の企業からのM&Aが行われるケースも増えています。戦略法務の業務内容も多様化・複雑化し、業界を超えた法律知識・経験・スキルが求められるでしょう。

海外展開のサポート

海外市場で取引を行う場合、日本の法体系にはない問題に直面するリスクがあります。
また、英文契約書のレビューや、現地の法令調査などの対応も不可欠です。さらに、海外市場に存在するライバル企業の状況や現地の市場(顧客)環境、自社の進出に適した場所なのかを調査し、必要に応じて法的手続きを迅速に行うことが求められます。
企業によっては現地法人を設立し、現地で従業員を雇用したり、現地の弁護士と連携を取ったりする必要も生じます。
これらの法的サポートはすべて戦略法務の業務に含まれます。

知的財産のビジネス活用のサポート

他社が持つ知的財産を侵害しないための予防策に加えて、自社が持つ知的財産を正しく評価して権利化することで、企業価値向上を図ります。
自社の知的財産権の活用としては、他社に対するライセンス共用や、パートナー企業のネットワーク化などがあります。実際にどのように権利を展開していくのかは、自社の経営戦略のあり方も踏まえての検討が必要です。

立法府・行政府へのロビイング

ロビイングとは、自社が事業展開する業界・業種の法令規制を緩和させるために、行政・政治家に働きかけを行うことを意味します。
一企業だけの働きかけは効果が限られるため、業界団体として意見をまとめて提言を行うのが一般的です。
そのためには、同じ団体に属する同業他社との意見のすり合わせなども求められます。
ロビイングには、既存法令の正確な知識はもちろん、自社利益確保のために、その内容をどのように改正するのが望ましいかを検討できる知見・能力も不可欠です。高度な法律知識、法的素養が求められます。

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戦略法務担当者に求められることは?

戦略法務担当者に求められるスキルとしては、以下の点が挙げられます。

個人のスキル

法律知識と経営視点

法律知識のみならず、ビジネスの視点を持って、法制度の内容と自社利益とを結びつけられる法的素養が求められます。
経営者の視点から物事を考え、法律のあり方を考えられる人材が、戦略法務担当者に向いていると言えるでしょう。

担当領域における高い専門性

戦略法務業務はルーティン業務ではなく、法的な問題を都度解決するイレギュラーな対応が求められます。そのため、法律知識はもちろん、幅広い業界知識・経験も必要です。
同一業界内でさまざまな企業法務経験がある人や、企業法務系法律事務所の実務経験がある人は高く評価されるでしょう。

外部弁護士や政治家などの人脈

とくに外部の弁護士との交流があると、企業が法律の専門家との連携が必要になったときに、迅速に話し合いを進められます。
また、ロビイング活動を行う際、地元の政治家との関係性があると、活動がスムーズに行えるかもしれません。

経営陣に対して積極的に意見できる性格

戦略法務担当者はその職務上、経営陣と話し合いをする機会が多くあります。
その際、役職・年齢が上である相手に、自分の意見を堂々と述べられる性格であることも資質として求められます。

組織スキル

業務の属人化解消・標準化

戦略法務は仕事内容が複雑化しやすく、その人でなければ対応できない属人化も起こりやすいといえます。
業務が属人化した場合、担当者の退職や異動によって、パフォーマンスが一気に落ちてしまう恐れがあります。

そのため、戦略法務では属人化を解消し、業務内容を標準化することも重要です。業務内容の標準化を実現することは、人事評価の定量化がしやすくなり、客観的・適正な人事評価にもつながります。

事業部門との連携

法的サポートを行う戦略法務は、サポート相手である事業部門との密接な連携が不可欠です。
ポイントとなるのは担当者同士の信頼関係・人間関係です。戦略法務の業務は、相手の部門があって始めて成立すると言えるでしょう。
とくに事業部門の活動において、戦略法務がどのように関わるのか、業務フローを策定しておくことは、スムーズに仕事をこなす上で重要になります。

DX視点での業務の設計、プロセスの見直し

DXとは「デジタルトランスフォーメーション」を略した言葉で、デジタル技術を用いたビジネスの変革を意味します。法務部門においても、それまでの紙の使用や会議室での対面での打ち合わせといったアナログの手法が見直され、デジタル・ネット活用による契約書の取り交わしやリモートでの打ち合わせ、テレワークによる働き方が導入されています。
業務自体も、AIを使った契約レビューの実施など、いわゆる「リーガルテック(法律分野へのデジタル技術の活用)」がスタンダードになりつつあります。
DXを推進するスキルを持った戦略法務担当者は、ニーズが高いと言えるでしょう。

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戦略法務を身に付けるためには

戦略法務を身に付けるためには戦略法務のスキルを身に付けるためにはどうすればよいのでしょうか?
まずは、戦略法務を実際に行っている企業に勤務することが最優先だといえます。予防法務・臨床法務を行っている企業でも、比較的新しい領域である戦略法務は行っていないケースも多い傾向です。

戦略法務が実際に必要になる新規事業立ち上げやM&A、海外展開、知的財産のビジネス活用などの機会が多い環境に身を置くことで、戦略法務スキルをより効率的に身に付けることができるでしょう。

また、会社を立ち上げるために、さまざまな取り組みを行うベンチャー企業の法務もおすすめです。ベンチャー企業は、IPO準備という特殊な経験をすることもできるため、法務としての市場価値を大きく高められます。
ただし、業績によってはIPOをとん挫してしまう可能性もあります。IPO達成経験を積むために転職する場合は、応募先企業の見極めも非常に重要です。

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戦略法務スキルを持っていると転職に有利になる

戦略法務スキルを身に付けていると、転職に有利になります。これまではビジネスモデルが固定的だった企業も、近年新規事業立ち上げや海外進出に乗り出しているため、戦略法務のニーズが高まっている状況です。

しかし、戦略法務を実際に経験している法務人材は、少ないと言えるでしょう。その結果、予防法務経験者の希少価値が高まり、転職で有利になるのです。

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まとめ

企業の「戦略」とは、中長期的な視野を持って経営環境への適合、経営資源の配分を考えることです。戦略法務は、企業が今後どのような経営戦略を展開していくかによってもあり方が変わるため、法的知識を活かしながら、幅広い視野・全社的視点を持って業務に取り組むことが求められます。

戦略法務担当者として、新規事業の立ち上げ、M&A、海外進出などの経験を積むことができれば、転職市場で高く評価されるでしょう。
企業法務の専門家としてキャリアを積み重ねたい場合は、戦略法務スキルと経験を身に付けることが重要です。

この記事を監修したキャリアアドバイザー

町田 梓

大学卒業後、新卒でMS-Japanへ入社。企業側を支援するリクルーティングアドバイザーとして約6年間IPO準備企業~大手企業まで計1,000社以上をご支援。
女性リクルーティングアドバイザーとして最年少ユニットリーダーを経験の後、2019年には【転職する際相談したいRAランキング】で全社2位獲得。
2021年~キャリアアドバイザーへ異動し、現在はチーフキャリアアドバイザーとして約400名以上ご支援実績がございます。

経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 法律・特許事務所 ・ 役員・その他 ・ 社会保険労務士事務所 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!

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