弁理士に将来性はあるのか。需要と供給から今後を予測



弁理士は特許出願などの知財手続きを特許庁に行える国内唯一の国家資格です。しかし近年、「事務作業が中心であり、将来的にAIへと代替されるのではないか」、「弁理士のニーズが減りつつある」などといわれるようになり、弁理士という専門職の将来性が危ぶまれるようになってきました。そこで今回は、弁理士に将来性はあるのかという点について、今後の予測をしてみます。
若手が少ない弁理士
日本弁理士会が毎年作成している「日本弁理士会会員の分布状況」において、2023年6月末時点における弁理士の年齢分布が紹介されています。 それによると、弁理士の年齢分布は20歳以上~30歳未満が0.85%、30歳以上~40歳未満が8.99%、40歳以上~50歳未満が33.92%、50歳以上~60歳未満が30.30%、60歳以上が25.92%です。弁理士全体の56.23%が50歳以上で、90.15%が40歳以上を占めています。20代~30代の弁理士は全体の9.84%程度に過ぎないのです。
例えば日本弁護士連合会のデータによると、弁護士は20代と30代だけで全体の37.97% を占めており、若い弁護士が大いに活躍しています。それと比べても、弁理士は若手が少なく、中高年以上の世代が中心であるといえるでしょう。
特許の出願件数
特許庁の「特許行政年次報告書2023年版」によれば、日本における特許出願件数は、2013年当時だと全体で32万8,436件でした。しかし、ここ約10年の間に少しずつ減りつつけ、2022年では年間で28万9,530件と、2013年当時から3万8,906件ほど減っています。弁理士は特許出願の知財手続きを行うための資格です。そのため、国内における弁理士に対するニーズは、やや減少しているといえます。
しかしその一方で、日本の特許庁を受理官庁とする特許協力条約に基づく国際出願(PCT国際出願)の件数については、2013年当時は4万3,075件でしたが、2022年は4万8,719件と5,644件増加しています。現在、研究開発や企業活動におけるグローバル化が進展しており、国内だけでなく国外における知財戦略の重要性が増加しつつあるといえます。
以上の点を踏まえると、確かに国内における弁理士のニーズは確かに伸び悩み、この点だけに注目すると、弁理士の将来性は感じにくいでしょう。しかし、国際出願に対するニーズは今後も増え続けるとみられ、将来性がある領域と考えられます。
AIが与える影響
近年では書類作成などの事務作業については、AIが代わりに行うようになってきました。弁理士の仕事のうち、商標出願業務は他社のロゴ・商品名、ロゴの調査などでAIを活用し正確かつスピーディーに対応することが可能です。その他にも書類作成などの事務作業が多いため、将来的に業務の多くをAIが取って代わると言われています。
しかし、特許の取得を考える顧客や企業も、特許の申請を判断する特許庁も、最終的な判断を行うのは人間です。そのため特許申請業務においては、人と人とのコミュニケーションが欠かせません。例えば、今後どのような権利を取得すべきか、という点を明らかにするためには、弁理士が発明者に対してインタビューを実施するなど、依頼人の考えを汲み取る必要があります。
こうした発明者へのヒアリングなどはAIが的確に行えるのか、少なくとも現状では判然としません。AIの登場・普及によって、弁理士業界が受ける影響が大きいのは確かです。しかし、人と人との対話が重視される業務が残る以上、弁理士の全ての仕事がAIに代替されるとは考えにくいでしょう。
弁理士の年収
弁理士の年収は働き方によって変わってきます。まず、特許事務所に勤務する弁理士の場合、一般的な年収は700~1,000万円ほどで、実務能力が評価されると、職場によっては30代でも1,000万円以上の年収を得られることもあるようです。
一方、企業の知財部に勤務する弁理士の場合、給与は一般のサラリーマンに準じる形となり、平均年収だとおよそ400万円前後といわれています。ただし、役職に就けば職位に応じた給与額が期待できるため、さらに年収はアップするでしょう。 勤務時代に培った人脈を活用して独立開業した場合、成功すると年収は2,000~3,000万円まで上がることもあります。しかし、本人の営業努力なども影響するため、個人差が大きいです。一般的に、年収が1,000万円以上になるには、5年はかかるといわれています。
弁理士の将来性
弁理士業界は高齢化が進んでおり、若い世代で活躍する人は少ないのが現状です。実際、国内特許件数は減少傾向にあり、この点だけをみると将来性に対して疑念を抱く人もいるかもしれません。
しかし先にみた通り、特許の国際出願件数は年々増加しています。日本企業の多くが国外に目を向けた研究開発をしており、そのような特許業務の領域であれば、弁理士へのニーズは今後も高いといえるでしょう。そのためには弁理士の側も、国際分野で活躍できるだけの語学力、専門知識を身に付ける必要があります。 また、AIが台頭しても、特許業界において人と人とのつながりやコミュニケーションが重要である以上、全ての業務が取って代わるとは考えにくいです。
これらを踏まえると、弁理士の将来性には一定の評価を与えることができ、若い世代がもっと参入を検討しても良い業界だと考えられます。
まとめ
国内特許数の減少、AIの台頭などにより、弁理士の将来性を危ぶむ声が高まってきました。しかし実際には国際出願の件数は年々増えており、AIが登場しても、弁理士の全ての業務が代替されるとは考えにくいです。こうした状況を踏まえると、弁理士は将来性のある士業であり、難関試験に挑戦するだけの価値はあるといえます。
ただし、これまで通りの国内向けのシンプルな特許出願業務をこなしているだけでは、時代の流れに対応できなくなる恐れがあるのは確かです。経済のグローバル化時代に対応し、独自性のある業務を行えるように、弁理士側もスキルアップを図る必要があるでしょう。


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