Withコロナ時代の上場準備(対談:トヨクモ株式会社・石井様)
MS-Japanでは、2020年に上場達成した企業のキーパーソンとのインタビューを通じて、コロナ禍での上場成功の秘訣をシリーズでお伝えします。
今回のゲストは、「情報サービスをとおして、世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」を企業理念に掲げ、CMでも話題の『安否確認サービス2』とサイボウズ株式会社が展開するkintoneと連携した『kintone連携サービス』の二つのサービスを提供するトヨクモ株式会社。今回は同社取締役経営管理本部長の石井氏にお話を伺いました。
Youtubeにて今回のインタビュー動画を公開しておりますこと。
合わせてこちらもご確認ください。
動画のリンク先:https://youtu.be/958lHRnuCq0
トヨクモ株式会社が展開するサービス
——CMで今話題の安否確認サービスやkintoneと連携するサービスを軸に急速に成長している御社ですが、まずは御社のご紹介をお願いできますでしょうか?
石井様:当社は、2010年8月にサイボウズ株式会社の100%子会社として設立しました。元々はBtoB以外のサービスも展開していましたが、2011年の東日本大震災以降、安否確認サービスの問い合わせがサイボウズ株式会社へ増えたことを受け、BtoBに特化しようということで、BtoBのサービスを立ち上げた経緯があります。2015年から上場を意識し始め、社員数は32名です。
当社の企業理念は、「情報サービスをとおして、世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」を創業以来掲げており、ドメインとしては、情報サービス運用を行っており、いずれは世界へ進出していきたいと考えております。「ITの大衆化」とも掲げており、現在も個人ではITが普及してきていますが、企業ベースではFAXを利用するようなところもまだあるので、そういった方に対しても、簡単で低価格にITを活用出来るように、浸透させていきたいと思っています。
業績に関しては、おかげさまで右肩上がりに順調に成長しており、基本的にはサブスクリプションでサービスを提供しているので、経営としては非常に安定して予想を立てやすいビジネスモデルになっております。
BtoBのクラウドサービスを2つ提供しており、代表的なサービスとして、「安否確認サービス2」と「kintone連携サービス」があります。
「安否確認サービス2」に関して、もしかしたらCM等でご覧になった方もいるかもしれませんが、災害や今回のコロナウィルスのようなパンデミックが発生した際にBCPに基づいて社員の安否確認を行い、また、その後の対策まで行えるサービスとなっております。
「kintone連携サービス」に関しては、サイボウズ株式会社のkintoneと連携して、簡単に自社の業務システムを構築できるというサービスです。現在は6サービスを提供しており、最近では官公庁での導入事例も増加しています。
活用例としては、現在でもまだFAXでのやり取りやExcelへ入力するという業務が発生することもあるかと思うのですが、当社とサイボウズ社で大阪府へ提案させて頂いたkintoneとkViewerを連携させるシステムは、患者さんやコロナ感染の疑いがある方へ、今まで電話やFAXで対応してきた業務を全てこのシステムで完結してもらうというものでした。今まではシステムの構築は、カスタマイズが必要でしたが、最近話題のローコード・ノーコードで構築ができるようになっているため、非常に導入ハードルが低くなっています。
また、当社は上場1年前から積極的に広告投資を行なっており、トヨクモという社名は、トヨクモノという神様が雲を作って雨を降らしたという天地開闢にあやかり、クラウドとかけて社名を設定しました。そのブランディングのために、CMを多数放映しております。
上場準備で苦労したこと
——上場するにあたって、苦労された点があれば教えてください。
石井様私自身、純粋な意味でのIPOは初めてで、サイボウズ株式会社に在籍していた際に、2部からの市場変更を致しました。以前の市場変更の時代とは求められることが違い、労務管理のような今の時代に合わせた内部管理体制が求められたので、その点では苦労しました。
ただ、私が2015年に入社して以来、上場をイメージはしていましたが、本格的に検討し始めたのは2018年からで、そこからのスケジュールは比較的順調に進みました。ビジネスモデル上、時期を選ばなければ上場は出来るかなというイメージは持っており、IPO準備のプロジェクト発足当初、メンバーは私一人だったのでまずはリクルーティングをするところから始めましたが、そこさえクリアすれば、というのは感覚的に持っていました。
上場における人員体制
——上場準備から上場後までの人員体制についてはいかがでしたか。
石井様上場を決意した2018年にキックオフして以来、3人体制でいきたいという計画を持っていました。そのため私の最初の任務は、財務・経理の責任者をリクルートするというところでした。実はMS-Japanさんからご紹介頂き、その方はIPO経験者で知見もあったため、非常に順調に進められました。
——そう言って頂けて幸いです。ありがとうございます。業務の役割分担についてはいかがでしたか。
石井様大きく分けると経理系全般1名、内部統制担当の方を1名、それ以外は総務、法務、採用等は私が担当するという業務分掌で進めました。
——業務量的にはいかがでしたか。ギリギリでしたか?
石井様そうですね。ギリギリでした。(笑)4名必要かなとも思っていましたが、3名でやれたのはそれぞれのメンバーに上場企業での開示などの経験があったため、それほど残業することもなく、日常業務と同時並行で進めることができました。
上場準備の過程で、御社で何か工夫された点があれば教えてください。
——上場準備から上場後までの人員体制についてはいかがでしたか。
石井様当社のビジネスモデルの特性上、極力業務を効率化していくことを意識しているため、IPOに関しても極力シンプルに進めていくことを意識しました。業務フローを変えると規程も変えないといけないため、組織をあまり大きく変更せず、n-2期からは組織を変更することなく上場準備を進めました。ツールで言うと、当社が提供しているkintone連携サービスを活用し、作り込みました。そのため、全てkintone上関係する各社と連携しながらIPOの準備は進めました。
——まさに御社の強みの部分ですよね。
石井様そうですね。社内に関しては、将来的に上場したいという意向は伝えていましたが、それ以外の情報は情報管理上一切伝えていませんでした。
上場審査での論点
——続いてのご質問ですが、上場審査の過程で出てきた論点があれば教えてください。
石井様いくつかありましたが、監査法人との情報共有と審査をして頂いた主幹事証券会社についてですね。我々はkintoneの情報を当社のサービスと連携させてセキュアに閲覧できる仕組みにしていたので、その点では情報共有の観点では効率的に進められましたし、セキュリティ面も強固なので良かったです。
東京証券取引所の上場準備で言うと、適時開示の部分が論点としてあって、我々はkintone上にファイルを全てアップして開示しておりましたので、通常ですと自動連動の仕組みを使って開示していくと思いますが、当社の業務フローを変更することなく進めることが出来ました。
kintoneでうまく情報共有できたのは、効率よく上場準備を進められた大きなポイントだと思います。
——今振り返ってみて、もう少しこうしておけばよかったという点やこうしておいてよかったという点があれば教えてください。
石井様最初にキックオフしたタイミングで、重要なパートナーとなる主幹事証券会社や監査法人との連携をしっかり作り、スケジュール感や必要なことをしっかり共有していくことが出来ていたのは良かったと思います。概ねそのマイルストーンに合わせて準備をしていきました。
——そのように円滑に進んだ背景には、石井さんが能動的にミーティングなどを設定されたのでしょうか。
石井様通常、主幹事証券会社から月1回のミーティングを要求されると思いますが、その際に「こうしたい」ということを全てお伝えし、彼らにアレンジしてもらっていたので、それくらいの頻度で問題なく進められました。
——初めのうちから遠慮なく主幹事証券会社の方に伝えたいことは伝えていった感じでしょうか?
石井様そうですね。伝えたいことは伝え、早めに進めていけたのはよかったと思います。また、重要なミーティングには社長にも同席してもらい、情報を共有できたこともよかったと思います。通常は、IPO準備メンバーで準備を進め、必要があれば社長に共有する程度かと思いますが、早めのタイミングから社長を出していくことができたのは良かったと思います。
コロナ禍の上場準備
——社長の勘所を知っておくというのは、上場準備をする上で非常に大事だと私も感じております。続いて、コロナ禍での上場というところで、コロナ禍特有の準備や発生したやり取りはありましたか?
石井様kintoneを使用して進めていたので緊急事態宣言が発令されてもスムーズに在宅勤務で進めることが出来ましたので特段問題はなかったです。強いて挙げるとロードショーがzoom等を利用出来たので効率的な活動ができました。
今後のビジョンと採用計画
——今後の御社のビジョンや採用計画についてお伺いできますか。
石井様現在、安否確認サービスとkintone連携サービスの二本柱ですが、二本柱ですと安定しているとは言い難いため、今後は複数のサービスを開発していきたいと考えています。
今期中に新しいサービスをリリースできるよう準備も進めています。先程簡単に事例の紹介もしましたが、トヨクモが社会の役に立てる分野はまだまだあると思いますので、ご活用頂けるようにしっかりと認知度を高めていきたいと思います。そして、その先には、海外展開も視野に入れています。
採用で一番苦労しているのはエンジニア採用です。当社は、フルスタックエンジニアを求めておりますので、なかなか出会えません。しかし、新卒採用も含めて恒常的に力を入れており、中途も良い方がいらっしゃれば採用していきたいと思っています。
——もし興味がある方がいらっしゃいましたらご連絡してみてください。最後になりますが、今後上場を目指す方へメッセージをお願い致します。
石井様「何のために上場するのか」というところを、経営陣や株主の方々、出来れば社員ともすり合わせて進めていくのが大事だと思います。当社の場合は、積極的に多額の資金が必要というわけではなかったので、東証上場による信頼度の向上、認知度を向上などのために上場しました。社名を間違えられてしまうこともあったので、そういったところを上場することでブランディングし、の審査が入ることで信用度を高めていきたいと思い、上場の最優先の目的にしました。また、信頼できるパートナーを選定していくことも大事です。当社はたまたまスケジュール通り進めることができましたが、各社気にされるポイントも違うと思いますので、会社の中で重要度を決めて進めて頂ければと思います。
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