定年後の再雇用制度について

第92回2013/02/20

定年後の再雇用制度について


定年後の再雇用制度について

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今般テレビ・新聞等にて報道されております通り「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正、今年4月1日から施行され、65歳までの再雇用が義務化されます。今回は、改正内容とそれに伴う企業各社の取り組み等についてまとめました。


高年齢者雇用安定法とは
高年齢者雇用安定法とは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の通称であり、もともと1971年に制定されました。1986年(昭和61)年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法の一部を改正する法律」に基づき、名称が「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」と改称され、同年10月1日に施行されました。それにより、事業主は定年を定める場合に60歳以上とすることを、努力義務として定めるとともに、経営状態の悪化や職種が高齢者に適さないといった特別な事情がないにもかかわらず、60歳定年制度を実施していない企業に対して、定年引上げの要請や、計画の作成を命令するなどの行政措置を取れることとされました。
1994年には「高年齢者(対象は主に55歳以上)雇用安定法」が改正され、1998年以降の60歳以上定年制が義務化されました。また2000年には、さらに高年齢者の就業安定対策として、今後の10年間で希望するもの全員が65歳まで継続して働けるよう各企業等の雇用制度の改正が訴えられ、2004年には「高年齢者雇用安定法」が更に改正され、2006年に改正高年齢者雇用安定法で労働者が65歳まで働ける制度の導入を義務としました。そして今回、急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として一部、法改正がなされました。
2004(平成16)年と比較して、2015(平成27)年までに、労働力人口は全体としては約110万人の減少が見込まれています。その中で、15~29歳は約220万人減少する一方、60歳以上は約170万人の増加が見込まれており、高い就労意欲を有する高年齢者が社会の支え手として活躍し続ける社会が求められています。


65歳以上の高年齢者の雇用状況について
厚生労働省が行った平成24年「高年齢者の雇用状況」の集計結果(31人以上の社員が働く約14万社が回答)によると、65歳まで希望者全員が働ける企業の割合は48.8%(68,547社)となっており、比率は徐々に上昇していますが、企業規模別に見ると、大企業は24.3%(3,560社)にとどまる一方、中小企業は51.7%(64,987社)でした。
大手企業よりも中小企業の方が進んでいる理由としては、中小企業の方が人手不足感が強いためであり、高齢者の活用が大企業よりも取り組みが進んでいます。


今回の改正の背景
2006年の高年齢者雇用安定法の改正では、60歳を下回る定年設定の禁止、65歳までの雇用確保措置導入を義務づけされました。雇用確保措置として、国は企業に「定年の65歳以上への引き上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」、「定年制の廃止」のいずれかを選択させて、60歳以降も働くことが可能になるよう、整備することを義務付けたのです。
2011年に厚生労働省が、対象企業13万2429社に対して行った調査によれば、実施している雇用確保措置の内訳は下記の通りです。
「定年の引き上げ」  ⇒14.6%、
「継続雇用制度の導入」⇒82.6%、
「定年制の廃止」   ⇒2.8%
特に従業員301人以上の大企業では、9割以上が継続雇用制度を実施しており、その主な理由は中小企業と比較し従業員数が多いので人事の停滞を招くおそれがあるためです。

 

継続雇用制度は「希望者全員を再雇用する」場合と、「労使協定で一定の基準を作り、それに該当した人のみ再雇用する」場合とがあり、継続雇用制度の導入を選択した企業の内訳を見ると、
「希望者全員を再雇用する」⇒43.2%
「労使協定で一定の基準を作り、それに該当した人のみ再雇用する」⇒56.8%
となっています。
今回の高年齢者雇用安定法の改正では、この「労使協定で一定の基準を作り、それに該当した人のみ再雇用する」を廃止し、「希望者全員を雇用する」ことを企業に義務付けたということです。

 

今回の改正の背景には、厚生年金の受給開始年齢が引き上げられるのに対応し、定年を迎えた後に年金も給料も受け取れない「空白期間」が発生するのを防ぐ狙いがあります。
年金支給開始年齢については、65歳に向けた段階的な引上げが始まっており、男性は定額部分が2001(平成13)年から2013(平成25)年にかけて、報酬比例部分は2013(平成25)年から2025(平成37)年にかけて段階的に引上げられます(女性については5年遅れのスケジュールとなっています)。

 

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(資料出所)厚生労働省「65歳までの定年の引上げ等の速やかな実施を」より


現行法と改正法の主な違い
高齢者雇用安定法について、改正前と改正後の違いについて見て行きましょう。

 

【現行法】
1.再雇用の対象者は、能力・勤務態度等の労使協定で定めた条件を充足する者
2.雇入れ企業は定年を迎えた会社とその子会社
3.違反した場合は勧告措置

 

【改正法】
1.対象者は原則全員、今後除外事由(心身の健康状態が悪い場合等)を決定
2.雇入れ企業は定年を迎えた会社とその子会社に加え、グループ企業
3.指導や助言に従わない場合には企業名を公表

 

労使協定で一定の基準が設けられたのは、希望者全員を65歳まで雇用することになれば企業側の負担が重くなると考えられたからです。継続雇用制度を選択した企業の約6割が「基準に該当した人のみを再雇用する」ことにしたわけですが、その基準として多いものの一つに「会社が提示する職務内容に合意できること」という項目があります。会社が提示する職務内容というのは給与・仕事内容のことを指しますが、その条件でよければ再雇用されるということです。ただ65歳までの継続雇用といっても最初から5年契約を結ぶのはまれで、たいがいは1年ごとに労使で条件を確認し、合意すれば更新されるという仕組みです。厚生労働省の調査によれば、今回の改正前の過去1年間で定年を迎えた約43万5000人のうち、定年後の動向は、
継続雇用された人⇒73.6%、
継続雇用を希望しなかった人⇒24.6%
継続雇用を希望したが基準に該当せず離職した人⇒1.8%
となっていました。
全体の約1.8%、約7600人は、希望したが継続雇用されなかったということですが、高齢者雇用安定法の改正で、離職者(約7600人)はなくなるとみられています。また、約4人に1人は継続雇用を希望しませんでしたが、改正後は雇用条件等の問題で継続雇用を希望しなかった人のなかにも、年金の空白期間の問題で「再雇用を希望する」人が相当数出てくることが予想されます。
今年の4月以降、希望者全員を再雇用しなければならなくなる企業側にとっては、今回の改正法が新たな負担とならないよう準備を進めなければなりません。


今回の改正に対する大手企業の取組み
今回の改正を踏まえ、対応が迫られる大企業では、定年制度の変更に関する動きがでてきており、定年後に再雇用した社員の給与を引き上げる動きも広がっています。

 

・サントリーホールディングス
2013年4月1日から、現行60歳の定年を65歳とする「65歳定年制」を導入。現行制度では60歳の定年後に1年ごとの更新で最長5年間、嘱託社員として再雇用している。今回はあえて定年の延長にまで取り組むことで、社員の士気向上につなげる意向。

 

・大和ハウス工業
 サントリーHDと同様、大和ハウス工業も2013年4月1日から65歳定年制度を導入する方針を発表。現行制度では60歳が定年で、定年後は希望者を最長5年間、嘱託社員として再雇用しているが、新制度では現在の再雇用制度よりも待遇を改善し、技能や経験が豊かなベテラン社員の労働意欲を高める制度にする。

 

・オリックス
2014年4月、定年を60歳から65歳に延長する「65歳定年制」を導入する。サントリーHD、大和ハウス工業とは異なり、60歳で一度辞めて、65歳まで1年更新で再雇用する現制度も残し、60歳時点で社員が再雇用か定年延長かどちらかを選べる仕組みにする。住宅ローンの返済などでまとまったお金が必要な社員に配慮し、再雇用なら退職金を60歳で受け取れる。

 

・NTT
NTTグループは社員を65歳まで継続雇用するため現役世代の人件費上昇を抑制する賃金制度を2013年秋から導入することで労使合意したと発表。40~50歳代を中心に平均賃金カーブの上昇を抑え60歳から65歳の賃金原資を確保。14年4月から希望者全員を再雇用する。65歳までの雇用延長への移行に向け、成果賃金を増やす一方、現役世代の人件費を抑制する。

 

上記以外にも、大手企業の対応は進みつつあります。
中でも、社員数で20万人を抱えるNTTグループの労使合意の内容については、産業界にとっての高齢者雇用のひな型となるかもしれません。


まとめ
定年後再雇用制度により、企業側にとって人件費負担の増加が見込まれる中、企業はこの難局を乗り切っていかなければなりません。また、働く側にとっては、年金も仕事もない空白期間をどう過ごすか、真剣に考えていかなければなりません。
今回の法改正のみならず、グローバル競争の中、世界最速のスピードで高齢化が進む日本において、その変化に適応しさらなる成長を遂げていく為には、個人にも企業にも、それぞれの課題への対応が求められます。

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