「ナレッジマネジメント」

第5回2005/02/10

「ナレッジマネジメント」


「ナレッジマネジメント」

no5.jpg4、5年ほど前から頻繁に耳にするようになった「ナレッジマネジメント」
という言葉。日本のビジネス社会においてもその概念は定着し、大手企業や
IT系の企業での導入例も多くなってきています。
本来、「ナレッジマネジメント」の概念はアメリカから輸入されたものですが、
元々は日本独特の経営手法であるQCサークルなどの手法をアメリカの
コンサルティング会社や経営学者が取り入れ、発展させたものと言われます。
今回はこの「ナレッジマネジメント」に焦点をあて、解説します。

 

1.「ナレッジマネジメント(KM)」の定義

「ナレッジマネジメント」を直訳すると「知識管理」となります。
特にこの場合の「知識」とは、データや指標など数値化できるものではなく、
営業ノウハウや顧客先の詳細情報、技術情報、開発の過程など、社員個人に
蓄積されているものを意味します。この「知識」を会社全体で共有化、
活性化させることで、企業の競争力を向上させる経営手法が「ナレッジ
マネジメント」です。企業の経営資源として「人」「モノ」「金」「情報」
の四つがよく挙げられますが、これ続く第5の経営資源として「知」を
重視した考え方と言えます。


2.「ナレッジマネジメント」の導入の背景

少人数で経営を行っている創業期の段階においては、自然と情報の
共有化が図れる為、特に「ナレッジマネジメント」を意識する必要性は
それほど感じられません。しかし、従業員が増加して組織体制が整備され、
取引先も増加してくると、様々な場面において情報共有が困難となり、
業務遂行上も障害が出てくるため、対応策を考える必要性が出てきます。
そこで、どの企業でも、朝礼の開催や全社員の予定表作成、顧客管理
データの作成などを行い、会社の情報や状況の共有化を図ろうとします。
この段階ではこれも立派な「ナレッジマネジメント」と言えます。

 

さらに事業が拡大し、組織が数百名規模に発展してくると、社員全員での
朝礼の実施は非現実的ですし、スケジュール管理表や顧客データベースも
膨大なものになります。こうなると従来の方法では情報の共有化を図る
ことが困難になり、また経営者側からの現場の把握や指導も難しくなって
きます。この段階で採用される手法が「ピラミッド型経営」です。
組織全体の情報把握については組織をピラミッド化して伝達経路を明確化し、
情報(=指示)を上から順に伝え、現場の情報(=報告)はまた逆の経路を
たどってトップに伝える、という手法です。
この方式によって、情報の共有や社員教育は現場の小グループごとに行えば
良く、トップが大まかな方向性を示せば、下部組織が独自に動く、という
ことが可能となり、特に日本において、大企業を効率的に運営する手法
として成功してきたと言えます。

 

ところがこの手法も企業の肥大化や経済活動の複雑化・スピード化に伴い、
「上部から末端までの伝達に時間がかかる」「伝達の正確性に欠ける」
「どこかで伝達がストップしてしまう」「ピラミッド組織そのものが
長年の制度疲労で硬直する」などの欠陥が目立つようになりました。
またリストラや人材流動化の進展に伴い、ベテラン社員やトップ営業マンの
「知識」が社内に残りにくくなり、経験によって得たノウハウを伝授する
機会も減ってきました。そこで近年飛躍的に向上したIT技術を利用して、
より効率の良い情報伝達と知識の共有化を図り、グローバル化・スピード化
の進む現在のビジネス社会に対抗できるだけの、組織の効率的な運営を
しようとする「ナレッジマネジメント」という考え方が出てきたわけです。

 

3.「ナレッジマネジメント」導入のメリット

1.情報伝達のスピードアップ

社員一人一人が場所や階層を問わず、即時に連絡を取り合ったり、社内の
情報や文書へアクセスできるよう、社内イントラネットを整備する。
⇒社長→部長→課長→社員というような伝言経路や多数の社員間での回覧
といった手法では、兎角時間がかかりますが、メールの一斉送信や共有
フォルダを活用することによって、情報伝達のスピードと正確性が向上します。 


2.営業力・技術力の強化

営業ノウハウや技術・製品開発過程をデータベース化し、共有化する。
⇒トップの業績を残す社員のノウハウを他の社員も共有することによって、
営業部門全体のスキルアップが望め、また技術・開発の分野では過去の
成功、不成功のケースを参照することによって、より効率の良い開発や
新アイデアを得ることができるようになります。 


3.事務効率化

全社ベースで過去の文書を蓄積し、共有化する。
⇒過去の文書や他部署、他の支社などで使用している文書を再利用もしくは
参照することによって文書作成の効率化を図ることができます。
大会社の総務部門などでよく取り入れられるツールです。 


4.顧客への迅速な対応

膨大な顧客情報を蓄積、分類整理し、検索できるようにする。
⇒顧客ニーズに対して迅速な対応が図れるようになります。
特に金融機関やコールセンターなどでこのシステムの導入が進んでいます。 


5.業務の標準化 業務フローをケースごとに定型化し、手順を明確にする。

⇒特に新卒社員の即戦力化を図りたいベンチャー企業で注目される手法です。
業務フローを統一(共有化)することによって、経験のない社員でも
ある程度のレベルまではベテラン社員と変わらない仕事ができるようになります。  


4.「ナレッジマネジメント」導入のポイント

ところが、実際に膨大な費用と時間をかけてシステムを作り上げてみた
ものの、運用がスムーズにいっていない、効果をあげていない、という
ケースもあり、ナレッジマネジメントを導入した企業の全てが成功して
いるわけではない、という現状もあります。

 

課題は大きく2つ考えられます。


一つは、「ノウハウを共有することの難しさ」です。
例えば、トップ営業マンであれば自分の営業方法を他の営業マンには
教えたくないのが本音ですし、単に「情報を入力するのが面倒くさい」
ということもあるかもしれません。
「ナレッジマネジメント」の重要性を認識していなければ、情報を共有化
するというメリットはなかなか実感の持てないことです。またナレッジ
データベースができたとしても、今度は何をどうやって探したらよいのか、
そもそもそれを利用する価値を認識していなければ、探そうとは思いません。
情報量が膨大になった場合、探すことそのものに労力がかかってしまう
こともあります。
 

二つ目は、「マネジメントの不在」です。ナレッジマネジメントを進める
には、ツールという「場」を作るだけでなく、社員から「知識」を引き出し
たり、必要としている「知識」まで誘導するといった「マネジメント」が
不可欠なのですが、この重要性の認識が不十分であり、ナレッジマネジ
メント責任者(ナレッジマネージャー)を置いていないなど、体制を
整えていないケースも多いようです。

 

これらの原因としては「ナレッジマネジメント」の導入が、現場の個人
レベルでの理解が不充分な中で進められてきたことにあるようです。
「ナレッジマネジメント」の成功の秘訣は、有用なITツールの開発も勿論
ですが、それ以上にそれを利用し活かす「人」です。まずはこの「ナレッジ
マネジメント」の重要性や価値を組織全員が理解し認識した上で、現場の
実情にあった仕組みづくりを個々の社員まで巻き込んで構築する必要が
あるのです。
 

社員同士の情報共有や相互扶助は元々日本の企業文化の特徴の一つです。
また「物量」ではなく「アイデア」や「ノウハウ」で勝負することを得意と
することも特色です。その意味ではナレッジマネジメントは日本企業に
向いている経営手法であると言えます。「知識」の共有と有効な活用、
というナレッジマネジメントの本質を見失うことなく、社員一人一人の
意識を高めていくことが、今後の企業成長を左右することになるでしょう。

 

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