「外国人労働者について」

第114回2017/01/23

「外国人労働者について」


「外国人労働者について」

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<目次>
あなたの周りで外国人社員は働いていますか?
外国人労働者の特徴
期待できる効果はスキルだけではない
外国人採用の成功事例
外国人採用の課題
まとめ

あなたの周りで外国人社員は働いていますか?

昨今のダイバーシティ推進の動きが加速し、シニアや女性の社会進出が進む中で、外国人を受け入れるということも選択肢に入れる企業が増えているようです。
実際に、日本貿易振興機構(JETRO)が行ったアンケート調査によると、2015年度に外国人社員を雇用している企業は44.4%にものぼり、海外ビジネスに関心の高い日本企業を筆頭に、既に外国人という新たな労働力の受け入れが活発化しつつあります。

こうした動きの背景には、日本が直面している少子高齢化や、団塊の世代の引退による、労働人口の減少があげられます。更に、訪日外国人の増加や2020年の東京オリンピックに向けて、今後さらに外国人との関わりが増えていくことが予想されることも、外国人採用の後押しになっているのではないでしょうか。

この外国人採用の盛り上がりを流行で終わらせずに継続させることは、課題とされている従来の日本様式の働き方からの脱却につながる可能性も秘めているように感じます。そこで今回は、外国人採用について取り上げてみたいと思います。

外国人労働者の特徴

外国人採用が活発化している一方で、外国人を採用し、活用するには未だ多くの課題があるように思えます。例えば、「高学歴ポテンシャル」「終身雇用・年功序列」といった従来の日本の評価基準やキャリア形成フローは外国人人材にあまりフィットしない傾向にあるようです。それには、外国人特有の「スキル重視のスペシャリスト」「実力主義」という、新たな考え方を受け入れる必要があるようです。具体的に、日本人労働者と外国人労働者にはどのような違いや特徴があるのか見てみましょう。

・採用方法
まず、日本と海外では、採用方法にそもそもの違いがあるようです。
日本の主な採用方法は、終身雇用という考え方が人事制度の基盤構築に大きく影響を与えているように見受けられます。よって、様々な部署へのジョブローテーションを経て、経営者候補として愛社精神の深いゼネラリストに育てるキャリアプランを用意している企業が多い傾向にあります。そのため、採用時にも自社のカラーに染めやすいポテンシャル人材が好まれるという特徴もあります。
一方、海外では大学時代に専攻・研究したものがその企業や職種で活かせるかというような、「経験やスキル」を重要視する傾向にあります。最初から専門部署で働き、日本のように様々な部署の経験を通して成長させるよりも、スペシャリストとして成長するキャリアが常識のようです。
そのため、例えば情報系の大学では実際にプログラミングを組むことに重点を置いて授業が進みますし、MBAホルダーであれば、新卒であっても経営の基礎知識がある人材として評価されます。日本では人気の高い従順なポテンシャル人材であっても、海外となると、専攻やスキルのない人材は評価されにくい傾向にあります。また、自身がパフォーマンスを上げやすい部署への配属を希望し、成果に対する評価(年収や雇用条件など)も明確に希望する傾向もあります。
こういった、企業風土やキャリアの築き方にも違いがあるということを認識しておきましょう。

・スキル・価値観
その他に、外国人労働者のスキル面での特徴としては、語学力、情報力があげられます。
語学力に関しては言わずもがな、母国と日本、少なくとも二つの言語や文化を理解しているため、相手国とのビジネスをスムーズに進めることができる架け橋としての活躍が期待できます。相手国のフレッシュな情報が入手できることや、海外のネットワーク・人脈を入手し、活用できることもメリットと言えるでしょう。
そして精神面では、国際志向である為に視野の広い方や、ハングリー精神の強い方が多いこともあげられます。これは、自分の働く企業を母国だけではなく、グローバル規模で探す発想や、専門的なキャリア形成をすることから、自身の市場価値を常に意識している姿勢から来るものではないかと想像します。

期待できる効果はスキルだけではない

しかし、外国人を採用した事による効果は、上記で述べた語学力、情報力といったものだけではないようです。
実際には、外国人を受け入れることにより、日本人社員に刺激を与え、組織の活性化を実現させた企業が多いのです。
株式会社ディスコが行った外国人社員の採用に関する調査によると、外国人を採用したことで社内にどのような好影響があったかというアンケート結果では、『日本人社員への刺激・社内活性化』が71.1%という最も多い回答となりました。
近年、ニュースでも大手コンビニエンスストアチェーンや衣料品会社等、外国人採用の割合を増やす企業が増えているように見受けられます。これらの傾向からも、日本人と異なる文化や国際感覚を持っている外国人社員と日本人社員が関わることで、日本人だけでは生み出せなかった新しい発想や、システムが生まれることも期待できるのではないでしょうか。このような好影響を狙った人事も、今後有効な採用戦略として取り入れてみてはいかがでしょうか。

また、外国人と一緒に働くことそのものに価値を見出す社員もいるでしょう。
グローバル企業でなくとも、社内に外国人がいることで海外に触れながら仕事が出来るという事そのものが、社員のモチベーションアップにつながり、企業の価値を上げる事にもなる場合があります。
外国人の採用は単なる労働力としてだけではなく、語学・情報力の強化や、更には既存社員や企業に新しい刺激を与える人材として期待できることからも、外国人採用は必ずしもグローバル企業だけに関係のある話題ではない事が分かります。

外国人採用の成功事例

株式会社楽天では、早くから外国人を積極的に採用しているだけでなく、柔軟な制度を取り入れている企業として有名です。2010年から社内の公用語に英語を採用したことから、外国人社員にとってはハンデであった“日本語力”という点が無くなり、楽天で働く日本人にとってもグローバルな視点を培う一助になったかと思います。結果的には日本人も外国人も平等に英語と自身のスキルで勝負が出来る環境となり、日本語が話せない外国人社員が役員に抜擢されるなど活躍の場を広げています。
現在でも、ベジタリアンの社員のための食事の提供や、イスラム教徒の社員のための礼拝の部屋や時間を確保するなど、各国の人材が働きやすい環境整備を積極的に進めており、その結果優秀な外国人エンジニアの採用に成功しています。他にも楽天は、人事制度のグローバル化により、様々な経営効果を生み出すことも実現できているようです。

外国人採用の課題

ここまで、外国人労働力の特徴と外国人を採用するメリットをご紹介してきましたが、外国人を採用し、活用することは決して簡単なことではありません。

外国人を受け入れるというと、社内での外国人採用の意義や活用方法についての共通理解、就労ビザの発行など特殊な労務手続きが発生するといった受け入れ態勢を整備することに目が向きがちですが、実際に企業努力が必要なのは入社後です。文化の違いによる思わぬトラブルや、母国への帰国など、せっかく採用した外国人社員が早期に退職し、自国へ帰ってしまうケースも少なくないからです。
この原因の一つには、前半にも話題に上がった、終身雇用を前提とした雇用体制があります。日本企業がゼネラリストを育てるべく、ジョブローテーションを通じて様々な部署で経験を積ませ、成長させていきますが、自身のキャリアを自ら選択する事を希望するスペシャリスト志向の外国人社員にとって、この教育制度は彼らが思い描くキャリアと大きなギャップを生むこととなり、その結果採用した外国人社員が、得意分野で実力を発揮する機会が少ないまま退職してしまうことは大変もったいない事だと思います。

外国人労働者は、スペシャリスト志向に伴ってキャリアパスや評価のフィードバックをより明確に要求する傾向があります。例えば、スペシャリストとして自身のスキル向上につながるキャリアパスがあるのか、常に市場価値を維持したり、高め続けたりできるフィールドはあるのか、いざというときに母国でキャリアを継続させる選択肢があるのかといったキャリアを自社で描けるのか、自身のパフォーマンスに対して明確な評価をしてもらえるのか…といった点になります。このような項目を検討するということも、働く場所を問わず自身のスキルを発揮できるスペシャリストならではの発想かもしれません。
外国人労働者をスペシャリストとして活用するという発想を取り入れ、且つキャリアパスや人事制度について明確化し、社員自身と企業とのギャップを解消することは外国人採用の成功に欠かせないことです。
採用した外国人人材の能力を最大限に発揮し、戦力となってもらう、また、労使間のトラブルを発生させることなく長期間働いてもらうためには、外国人労働力との労使関係をケアし続ける努力が必要なのです。

2012年にパソナ社が実施したアンケートからは、外国人採用の現状はまだまだ課題が多い事が読み取れます。例えば、外国人新卒者の採用目的として最も多い回答は「日本本社のグローバル化を図るため」ですが、外国人新卒者を採用後、どのような 「教育・研修」を行っているかという問いに対しては、 「企業理念や経営方針(81.3%)」が圧倒的に多く、「日本語(65.5%)」「日本文化や生活習慣」(25.0%)がそれに続く形となりました。社内のグローバル化を図って外国人を採用したものの、日本人の新卒と同じ教育研修を行っている企業がまだ多いのが現状のようです。

まとめ

もともとは労働力不足を補うことや、海外進出の足掛かりとして注目されていた外国人社員でしたが、その他にも、既存社員の活性化や企業ブランド向上など、企業の戦略によって今後さらに多様な価値の創出が期待できることが分かりました。また、採用した社員に、長く最大限の活躍をしてもらう為には、受け入れ側の努力・歩み寄りはもちろん、今まで日本の多くの企業が取り入れていない新たな人事制度や評価基準、キャリア形成を受け入れていくことが必要不可欠であるという事が分かりました。一見、これらは外国人を採用するにあたって特別に取り入れる制度のように見えますが、終身雇用の時代が終わると叫ばれている今、日本で働く私たち自身も今後意識していくべき発想であるように思います。
自身のスキルや市場価値に常に関心を持ち、企業にとらわれない持ち運び可能なスキルの獲得と維持・向上に努めた人が、明確な評価基準によって評価されるという考え方が、外国人を採用する過程でもたらされ、それが日本企業に新たな価値観を与え、社員個人の意識を変える可能性も秘めているように感じました。

<参考>
日本企業の外国人雇用への取り組みと現状 -株式会社ログワークス
海外の就職活動の特徴と日本の就活との圧倒的な違い -キャリアパーク(ポート株式会社)
外国人留学生の採用は増加傾向に。“外国人社員の入社3年以内の定着率”も発表~『外国人社員の採用に関する企業調査(2013年9月)』より~ -株式会社ディスコ
ダイバーシティ経営企業100選(平成25年度) -経済産業省
「外国人採用」と「社内のグローバル化」に関するアンケート -株式会社パソナグループ

(文/キャリアアドバイザー 清水 知美)

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