「クラウドを活用した働き方」

第88回2012/06/18

「クラウドを活用した働き方」


「クラウドを活用した働き方」

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昨今、新聞や雑誌で目にしない日はないと言えるくらい、「クラウド」という言葉が多く使われるようになりました。以前は注目のワードとして意識されていましたが、最近では一般的に使われるようになりました。
「クラウド」という言葉は2006年頃から企業(個人)のIT活用の手法として米国を中心に注目され始め、現在では日本でも大手~中小規模の企業から個人の利用まで幅広く普及し始めています。
中でもクラウドのサービスを活用した「場所や時間にとらわれない働き方」が、2011年3月の東日本大震災をきっかけに注目され、その動きは災害対策の観点のみならず、グローバル化や労働者の働き方に対する意識変化などに対応するための手段としても注目を集めています。

 

そこで、今回はこの「クラウドを活用した働き方」をテーマに、クラウド活用の現状や将来性についてご紹介していきます。

 

「クラウド」とは
そもそも「クラウド」という言葉には、「クラウドソーシング」と「クラウドコンピューティング」という二つの意味が存在します。

 

「クラウドソーシング」は、英語で「Crowd Sourcing」と表し、企業が自社の業務や問題解決を、インターネットなどを通じて、不特定多数の群衆(Crowd)にアウトソーシング(業務委託)することです。始まりは2006年6月に米国Wired誌の編集者が作った言葉と言われています。言葉の通り、群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、米国などでは既にクラウドソーシングのサービスやビジネスが数多く立ち上がっています。
社外に開発を委託するアウトソーシングにおいては、開発作業は特定の団体(もしくは個人)が行うのに対し、「クラウドソーシング」では特に委託先を限定せず、インターネット上にいる不特定多数の開発群集(Crowd)が協力して開発を行うのが特徴です。

 

一方「クラウドコンピューティング」は、英語で「Cloud Computing」と表し、クラウドは「群衆(Crowd)」ではなく「雲(Cloud)」を意味しています。始まりは、米国Google社のエリック・シュミット(CEO)が2006年8月に公の会議で使用したことから広まったとされています。
「クラウドコンピューティング」とは、ユーザーがコンピュータ処理を、ネットワーク(通常はインターネット)経由で、サービスとして利用できる新しいコンピュータの利用形態のことを意味します。従来のコンピュータの利用は、ユーザー(企業、個人など)がハードウェア、ソフトウェア、データなどのコンピュータ資源を、自分自身で保有・管理していたのに対し、クラウドコンピューティングでは、ユーザーはインターネットの向こう側からサービスを受け、サービス利用料金を払う形になります。 その際、ネットワークを図示するのに雲状の絵を使うことが多いことから「Cloud(雲)」と表現するようになったと言われています。
その結果、ユーザーが用意すべきものは、最低限の接続環境(PCやモバイルデバイスなどのクライアント、その上で動くブラウザ・アプリ、インターネット接続環境)と、サービス利用料金となります。処理が実行されるコンピュータやサーバなどのハードウェアと、アプリケーションや蓄積するデータ(ストレージやデータベース)などのソフトウェアの、購入および管理の大半が不要になる...というわけです。
クラウドコンピューティングのサービスの提供形態は大きく3つに分類され、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service ※1)、に分けられます。
※1 HaaS(Hardware as a Service)とも言われています

 

今回のコラムでは、主に「雲(Cloud)」を意味するクラウドコンピューティングを中心にご紹介してまいります。


クラウドコンピューティングが普及した背景
2011年3月に東日本を襲った震災を機に、多くの企業が改めて認識したのがデータ管理の重要性です。自社サーバに万が一のことがあり、重要なデータを失ってしまうと、事業継続に多大な影響を与えるため、災害等が発生しても事業が継続できるよう遠隔地にデータのバックアップを置くなどして、データを守らなければなりません。そこで注目を浴びたのがクラウドコンピューティングです。
データ管理を自社側でのみ保管するのではなく、インターネットを通じてクラウド上のサーバに保管し、ネットワーク経由で利用するクラウドコンピューティングに企業や自治体が注目しました。

 

また、データ管理の重要性以外に、一般ユーザーにもクラウドが普及した背景の一つが、ネット環境の充実が挙げられます。皆さんもご存じの通り、現在では全国津々浦々にインターネットインフラが張り巡らされ、光回線や無線ネットワークなどを使い安価な料金で高速なデータ通信ができるようになりました。今では新幹線でもインターネット接続ができ、飛行機内でも携帯電話がつながるサービスもあります。モバイルのネットワーク機器を外へ持ち出せば、ほとんどの場所でインターネットの利用が可能となりました。

 

さらにはスマートフォンの登場がクラウドコンピューティングをさらに推し進めています。スマートフォンは携帯電話の延長というよりはパソコンに電話機能をつけたものですから、ある意味ノートパソコンを持ち歩くのに近いと言えます。
企業の従業員は、自宅と会社のパソコンのデータを共有するのにクラウドサービスを利用し、ネットワーク上にデータを置くことができます。特に大手企業は個人情報漏えい防止の観点からパソコン上にデータを残さないようになり、データはパソコン側でなくサーバ側におくようになりました。従業員など利用者にとって、サーバが自社にあるのかネットワーク上にあるのかは大した問題ではありません。むしろ会社にいなくとも、自宅や国内外の出張先などで場所を選ばずパソコンなどの端末を使って仕事ができるようになったことは歓迎すべき点であると言えます。

 

クラウド利用のメリットと課題
上記のような個人ユーザーに加え、企業にとってもクラウドコンピューティングは様々な点で有効であるといわれています。
その中で最もわかりやすいのが、「柔軟かつリーズナブルな価格体系」にあります。
たとえば、自社がブログサービスを提供するITサービスプロバイダであったとします。何らかのきっかけで爆発的な人気を呼び、会員数が一気に500人から50万人にふくれあがったとします。ブログサービスを支えるITシステムを自社でまかなっていたとしたら、これにどのような対応をとることができるでしょうか?
何台ものサーバ機材を調達し、ソフトウェアの設定を行ない・・・という作業を考えると、おそらく数ヶ月、いや、半年以上の時間がかかるでしょうし、それにかかるコストも莫大で、極めて非現実的です。ところがクラウドコンピューティングを活用すれば、既存の設定に大幅な手を加えることなく一気にネット上に何十台ものサーバを仮想的に用意し、利用することが可能です。
さらに、クラウドコンピューティングは組織の事業継続の実現を支えるソリューションにもなり、その一つとして災害時の影響範囲を減らすことができます。たとえば、東京の本社ビル内のメールサーバーが地震による被災を受けたとします。従来であれば、サーバを管理する部門は被災したシステムの物理的な復旧から始める必要がありましたが、もし自社で管理運用していたメールシステムを信頼性の高い外部業者に物理的に外出ししてあれば、情報システム管理部門は、エンドユーザーがインターネットに接続できる環境さえ整えてあげれば良いだけになります。

 

このように、利便性と利用コストの柔軟さから、大手企業、中小ベンチャー企業問わず、クラウド利用が進んできています。ただクラウドサービスには(特に大企業での利用には)いくつかの課題があり、その中でも最大の問題点は安全性であると言われています。
まず重要データのバックアップ機能としてクラウドを活用する場合、いくつかの安全性に関する懸念が挙げられます。クラウドコンピューティングのシステムに障害が起こった時にデータは大丈夫か、サービスを提供する会社が突然倒産して全サービスが突然終了になってしまった時はどうするか、などの場合です。様々な事態により突然サービスが終了されてしまうと、クラウド上に保管していたファイルやデータの全てを紛失する事になってしまいます。そのため、クラウドサービスを利用してデータ等を保管する場合は、必ずユーザー側の媒体にも必要なデータを保管しておいた方が良いとされています。
また、インターネット上を使用したサービスという事で、第三者にデータを盗まれるというリスクもあります。クラウドコンピューティングを使ってデータを集中的に管理しているという事は、1つ盗まれれば全ての情報を完全に盗まれてしまうという事になります。クラウドコンピューティングはハッカーの格好の餌食ともなり得るので、個人情報や企業情報、顧客情報等の大切な情報が流出してしまう危険性もあります。

 

個人情報の重要性やデータの安全性を考えると、自社のどこまでの業務をクラウド化するのか、またどういったクラウドサービスを選定するのかなどが、クラウド活用の際の課題となっていくでしょう。


クラウドを活用した働き方
これまでのご紹介の通り、クラウドコンピューティングの多くは便利な反面、課題も見えてきました。その中で働き方というテーマでは、どのような成功事例があるのでしょうか。

 

NTTデータ経営研究所が2011年に発表した、震災直後のテレワーク(※2)の導入状況調査結果では、震災以前から実施している企業は13.8%(上司の裁量での実施も含む)でしたが、震災直後から徐々に増加し、一か月後を過ぎたころには、テレワークの導入企業は全体のおよそ2割にまで上がったことがわかっています。
※2テレワーク...在宅勤務をはじめとするICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方

 

在宅勤務を可能にするためのクラウドサービスとして、メールやスケジュール管理などのグループウェア、各種帳票のペーパレス化、web会議サービスやチャットなどのコミュニケーションツール、デスクトップの仮想化など、様々なサービスが活用されています。

 

次は実際にクラウドコンピューティングを利用したテレワークの例として、日系企業に比べ普及の進んでいる、外資系企業の取り組みを紹介します。
外資系某大手外食チェーンでは、東日本大震災を機に在宅勤務制度を利用する社員が急増しています。2011年6月末時点で、震災前と比べて利用者は1.5倍の約300人になったといいます。本社勤務する社員の6割が、少なくとも週に1~2回は在宅勤務を利用しているそうです。同年夏には東日本に電力不足の懸念があったため、同社は本社の電力使用量削減目標を掲げ、在宅勤務は目標達成に向けた施策の1つと位置づけていました。
対象は、管理職を含めて本社に勤務する約500人のうち、自宅では業務を進めづらい一部の部門を除く全員です。「自宅にインターネットの接続環境が整っている」「机やいすといった備品がそろっている」などの条件を満たせば、同制度を利用可能となります。同社が始めに在宅勤務を導入したのは、2009年。当初は100人規模で始め、震災前までに利用者は約200人まで増えていたそうです。

 

上記のように、クラウドコンピューティングが普及し、インターネット環境が整っていれば場所や時間を制限することなく、仕事ができるようになり、従業員の働き方も柔軟になってきます。
今後、クラウドサービスの技術が進化し、ビジネスのグローバル化が進むにつれて、クラウドを活用した働き方をする従業員はもっと増え、クラウドを活用した働き方の種類ももっと多様化していくのではないでしょうか。


まとめ
すでに「クラウド」という言葉は一般的になりつつあります。
消費者向け市場、特にモバイル市場においては、クラウドコンピューティングがすでに活用され、若者やビジネスマンなどを中心に、サーバの存在などを気にせずに自由にクラウドサービスを利用しています。また、企業向け市場においては、SaaSに代表されるように多くのサービスでクラウド化は着実に進んでいます。
今後、クラウドコンピューティングは我々の住む世界でどのように普及していくのでしょうか。

 

「クラウドを活用した働き方」は、現在の日本経済が直面する課題、たとえば原子力発電所の全てが停止したことによる夏場の電力不足の懸念、少子高齢化による労働力人口の減少により育児をする女性労働力の活用の必要性、円高の影響などによる企業のグローバル化の加速など、今後さまざまな課題解決のシーンで応用されていくことで、ワークスタイルの変革を実現できるのではないでしょうか。
また、技術の進歩によりさまざまなITリソースがサービスとして利用可能になる中で、「何をどこまでクラウドに頼るのが良いのか」という判断基準の確立が、今後効率よくクラウドサービスを利用するために重要となるでしょう。

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