AIによって公認会計士の仕事は奪われる?会計士に将来性はある?
2022年1月26日付けで、「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」という調査報告書が、国立研究開発法人理化学研究所により公表されました。
この調査は、理化学研究所の革新知能統合研究センター(以下、AIPセンター)が、日本公認会計士協会の協力のもとに実施しました。AIPセンターは、革新的な人工知能基盤技術を開発し、それを社会に応用することを目的に活動しています。
今回は、その調査結果をもとに、将来AIによって公認会計士業務が代替されることになるのか、公認会計士の仕事がなくなるのか、それとも両者の共存が可能なのかについて考察します。
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目次
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- 公認会計士はAIに代替される?
- なぜ「会計監査係員」がなくなる対象になったのか
- なぜ「公認会計士の仕事はなくならない」といえるのか
- 監査補助者の業務はどれぐらい代替可能か?
- 主査の業務はどれぐらい代替可能か?
- 公認会計士はAIとどう付き合うべきか?
- まとめ
公認会計士はAIに代替される?
2015年12月に発表された、野村総研とイギリスのオックスフォード大学との共同研究*では、601種の職業それぞれに、コンピューター技術による代替が可能かどうかという確率が試算されました。
その結果、日本の労働人口の49%が就いている職種において、技術的には人工知能やロボットなどに代替される可能性が高いことが示されたのです。
さらに、その代替される可能性の高い職種の中に「会計監査係員」があったことから、「将来、公認会計士の仕事がなくなってしまうのではないか?」と業界に衝撃が走りました。
一方、1991年に旧ソ連から独立したエストニアでは、eガバメント(電子政府)システムの構築が進められていました。
エストニア政府は、口座取引や年金、納税、社会保険などの情報を、独自のシステムでクラウド上に統合し、99%の行政サービスが電子化しました。
「それまで人の手で行っていた業務が電子化されたことで、税理士や公認会計士の仕事が大幅に減った」というニュースも記憶に新しいことかと思います。
しかし、2005年に「公認会計士の仕事がなくなる?」と衝撃を受けてから7年以上が経過した現在、多くの人は公認会計士の仕事が「なくならない」と考えているようです。なぜ、そう思えるのでしょうか?
参考: 野村総合研究所
なぜ「会計監査係員」がなくなる対象になったのか
そもそも、なぜ「会計監査係員」は将来仕事がなくなる職業の対象になったのでしょうか。
エストニアの税務申告の例をみると、エストニアはeガバメントシステムの政策と同時に、税制を簡素化したため、個人の税務申告の自動化が実現したといわれています。
一方、日本では税金の種類だけで約50種類あり、住民登録や年金、社会保険、納税などの手続きはそれぞれ異なる官庁が管理しています。
エストニアのようにすべてを一本化するのは、日本では現実的ではないでしょう。
また、昨今の監査においては、業務全体におけるチェック作業の割合が増加しています。その膨大なチェック業務だけが悪目立ちし、公認会計士の仕事が将来AIに奪われると思われたのでしょう。
データサイエンティスト協会の理事であり、ヤフー株式会社のチーフストラテジーオフィサーの安宅和人氏によれば、現時点でのAIは、計算環境と機械学習(深層学習を含む)、自然言語処理などの情報科学、訓練データを人間が組み合わせて、実現をめざすゴールに過ぎないと語っています。
さらに、AIにできることは限られているが、できることがずば抜けてよくできることから、万能に近いと誤解されているため、一部の作業がAIにより自動化されることが、仕事のすべてを自動化されると混同している、と付け加えています。
なぜ「公認会計士の仕事はなくならない」といえるのか
会計監査は、財務諸表の信頼性を保証するものであり、一連のチェック作業と、沢山の分析、洞察、そして適正か不適正かの判断を伴います。監査の仕事は、高度な知識・深い経験に裏打ちされた職業専門家としての分析、洞察、判断の連続です。
このほかにも、重要な監査業務のひとつに、監査先とのコミュニケーションがあります。
基本的なコミュニケーションは、学校で学問として習得するというものではありません。
また、ボディーランゲージや、相手の表情を読み取り、それに合わせて声をかけるなど、感覚的なコミュニケーション能力も重要です。
そしてこれらは、いまのAIでは成し遂げることができません。
前出の安宅氏によれば、AIが「常識」と呼ばれる判断を置き換えることはきわめて困難で、人がひとり入れ替わるだけで変わるような微妙な状況のセッティングや、過去の経緯などの文脈を理解するのは、当面はほぼ不可能とのことです。
適切なタイミングで、適切な相手に、適切に問いかけることは、人間にしかできないスキルであるため、公認会計士の仕事の本質的な部分はAIには奪われない、つまり「なくならない」のです。
監査補助者の業務はどれぐらい代替可能か?
ここからは、監査業務がどの程度AIで代替可能なのか、AIPセンターの調査報告書をもとに分析してみましょう。まず監査業務では、主査と補助者という2つのポジションがありますが、そのうちの監査補助者からみてみます。
監査補助者の業務内容
AIPセンターの調査では、補助者の主な業務内容を以下の10項目に分類しています。
- ①監査チーム内の調整
- ②クライアントとの調整
- ③全社統制の評価
- ④業務プロセスに関する情報収集と整理(整備評価)
- ⑤業務プロセスの運用テスト
- ⑥実査、確認、観察(立会)
- ⑦証憑突合、帳簿突合、分析的手続
- ⑧仕訳テスト
- ⑨「⑥、⑦又は⑧」以降の追加的な手続
- ⑩表示チェック(四半期報告書含む)
補助者の業務内容は、主査に比べると定型的なものが多いと考えられます。ただし、「②クライアントとの調整」や「⑨追加的な手続」などのように、臨機応変な対応が求められる業務もあります。また、機械的業務ではあるものの、「⑦証憑突合、帳簿突合、分析的手続」の重要度も高く評価されています。
その一方で、「③全社統制の評価」「⑤業務プロセスの運用テスト」「⑥実査、確認、観察(立会)」に関しては、業務の重要度が低く評価されています。
監査補助者の業務代替可能性
では、補助者の主な業務のうち、AIによる代替可能性が高いものはどれでしょうか。
まずは、可能性が高い順番に並べ替えてみました。%の数字は10年後の代替可能性を表します。
業務 | 代替可能性 |
---|---|
⑦証憑突合、帳簿突合、分析的手続 | 81.19% |
⑧仕訳テスト | 66.66% |
⑩表示チェック(四半期報告書含む) | 61.26% |
⑤業務プロセスの運用テスト | 57.21% |
⑥実査、確認、観察(立会) | 53.18% |
④業務プロセスに関する情報収集と整理(整備評価) | 50.02% |
⑨「⑥、⑦又は⑧」以降の追加的な手続 | 43.00% |
③全社統制の評価 | 40.74% |
①監査チーム内の調整 | 33.26% |
②クライアントとの調整 | 17.87% |
この結果からすると、決められたルールに従って行う定型的な作業は代替可能性が高く、コミュニケーション能力が必要な業務は低いといえるでしょう。
しかし、証憑突合などで単純に機械的エラーを検出する場合、AIによる代替可能性は高くなるものの、エラーの原因追及や分析という作業になると、代替可能性が高いとはいえない点もAIPセンターは指摘しています。
主査の業務はどれぐらい代替可能か?
次に主査の業務について、AIでの代替可能性を確認してみましょう。
監査主査の業務内容
監査主査に関しても、主な業務内容は以下のような10項目に分類されています。
- ①クライアントとの調整
- ②監査チームのマネジメント
- ③監査契約時(新規締結・更新時)のリスク評価
- ④企業環境の理解及び監査リスクの評価
- ⑤適切な監査手続の立案と必要な修正
- ⑥定型的な監査手続の実施
- ⑦非定型な監査手続
- ⑧監査上の重要事項に係る検討及び判断
- ⑨監査調書の査閲と監査意見案の作成
- ⑩マネジメントレター案等の作成
監査主査の業務では、「⑧監査上の重要事項に係る検討及び判断」の重要度が最も高いとされています。この能力が高ければ、主査としての評価も上がると考えられます。
それに対して、「⑥定型的な監査手続の実施」と「③監査契約時(新規締結・更新時)のリスク評価」の業務は、他と比較して重要度が低めと見なされています。
監査主査の業務代替可能性
では監査主査について、AIによる代替可能性が高い順番に並べ替えてみましょう。%の数字は10年後の代替可能性を表します。
業務 | 代替可能性 |
---|---|
⑥定型的な監査手続の実施 | 70.44% |
③監査契約時(新規締結・更新時)のリスク評価 | 41.99% |
⑩マネジメントレター案等の作成 | 38.25% |
④企業環境の理解及び監査リスクの評価 | 36.99% |
②監査チームのマネジメント | 34.67% |
⑨監査調書の査閲と監査意見案の作成 | 29.91% |
⑤適切な監査手続の立案と必要な修正 | 29.62% |
⑦非定型な監査手続 | 27.62% |
⑧監査上の重要事項に係る検討及び判断 | 19.96% |
①クライアントとの調整 | 17.87% |
予想通り「⑥定型的な監査手続の実施」が最も可能性が高く、「①クライアントとの調整」や「⑧監査上の重要事項に係る検討及び判断」のように、判断力やコミュニケーション能力を求められる業務は低いという結果になりました。
また補助者と比較すると、全体的に数値が低いことがわかります。補助者では代替可能性50%以上の業務が6項目あるのに対して、主査ではわずかに1項目です。 やはり業務内容と重要度から考えて、主査のほうが補助者よりも代替の可能性が低いといえるでしょう。
公認会計士はAIとどう付き合うべきか?
理化学研究所が公表した「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」の調査報告を受けて、日本公認会計士協会は今後のAIなどの進化に関して、公認会計士が向き合うべき5つの指針をまとめました。以下にその要約を紹介します。
AI等のテクノロジーの活用による監査業務の品質・生産性の向上
AIによる業務代替は、定型的な大量のデータ処理などの分野で進むことが考えられます。公認会計士がテクノロジーを積極的に活用すれば、定型業務の生産性を高め、重要な判断が必要な業務に重点を置くことができるようになるでしょう。
AI等のテクノロジーの進化による監査業務の在り方の変化への対応
AIの活用が進むと、現在の監査業務の枠組みに変化が生じたり、公認会計士の業務ニーズに変化を及ぼしたりする可能性があります。公認会計士には、こうした変化に対する柔軟な対応が求められます。
新たな業務領域の探索と業務遂行への取組
AIでの代替が可能な業務に代わって、公認会計士は監査業務以外も視野に入れながら、新たな業務領域へのシフトを進めなければなりません。場合によっては、財務・会計管理以外の分野に取り組むことを求められるかもしれません。
AI等のテクノロジー活用のための能力開発と人材の育成、スキルセットの特定
AIによる業務代行を進める上では、公認会計士が積極的にAIの設計・開発に参加する必要もあります。必要なスキルセットを特定し、そのための技術や知識を習得しながら、自身の能力を高めるとともに、人材育成にも取り組まなければなりません。
AI等のテクノロジーの活用に係るさまざまな制約の考慮
AIへの代替は急速に進むものではなく、実際には基盤整備やコスト面などで、さまざまな制約が生じると考えられます。AIの活用は、こうした制約と必要な時間などの要素も検討した上で、余裕をもって計画を進める必要があるでしょう。
今後、AIをはじめとするIT分野の発展はビジネスに大きな影響を与えるでしょう。
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まとめ
AIの進化には目覚ましいものがあり、一部ではその進化に危機感を募らせる声も上がっています。このままAIが進歩し続ければ、公認会計士の仕事がなくなるという恐れを感じる方もいることでしょう。
公認会計士の業務の中にはAIで代替可能なものもありますが、むしろ専門的な知識を活かした業務が増えたり、AIそのものの開発に協力する業務が増えたりすることも考えられます。
理化学研究所の報告書でも指摘されていますが、AIと対立するのではなく、むしろ積極的に活用することが、公認会計士に求められるようになるでしょう。
この記事を監修したキャリアアドバイザー
大学卒業後、新卒でMS-Japanに入社。
法律事務所・会計事務所・監査法人・FAS系コンサルティングファーム等の士業領域において事務所側担当として採用支援に従事。その後、事務所側担当兼キャリアアドバイザーとして一気通貫で担当。
会計事務所・監査法人 ・ 法律・特許事務所 ・ コンサルティング ・ 金融 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 税理士科目合格 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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