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はじめに
IPOとは企業が株式公開を行い、新たな成長ステージへと進む重要なステップです。この過程において、管理部門全体とCFOの役割は極めて重要です。管理部門は財務報告の正確性、法的遵守、内部統制の整備など、IPO成功の基盤を形成します。一方、CFOはこれらの活動を統括し、戦略的な財務計画と投資家とのコミュニケーションを牽引します。管理部門とCFOの役割が如何にしてIPOを成功に導くかを、本記事で深掘りしていきます。
IPO準備における管理部門の役割
IPO過程では、各管理部門が特定の重要な役割を担います。IPO準備のスケジュールにより、必要となる管理部門の役割が異なります。
IPO準備と管理部門採用のスケジュール
IPOするための準備期間は、その会社の規模や業態、社内管理体制の状況にもよりますが、少なくとも3年は準備期間が必要となります。一般的に、上場する期を申請期と呼び、その1年前の期を直前期(基準期)、更に1年前を直前前期と呼びます。(上場する年度をX期(またはN期)とし、直前期をX-1(N-1)、直前前期をX-2(N-2)と表すこともあります。)直前期は上場するための「運用」をメインで行い、直前前期は「運用をする準備」となります。管理部門採用は直前前期から依頼を受けることが多くなります。
上記図にはありませんが、アーリーの上場3期前(N-3)からCFO(管理部長)、上場準備責任者(担当者)、経理、総務の人員をまずは確保します。できれば監査法人選定のタイミングより前に人員確保が出来るとよいでしょう。
直前前期(N-2)から各運用(規程整備・運用や会計基準の組み換え)に備えた増員として経理、総務(人事)、経営企画、内部監査、常勤監査役を採用していきましょう。
直前期の(N-1)では、開示を含めた各運用を1年間で実際に行う期間となるので、経理(開示)、総務(法務)、経営企画、内部監査、非常勤監査役の人員を確保できるとよいでしょう。この直前期での各運用が円滑に進まなかった場合、残念ながらIPOが延期してしまうケースも多いです。管理部門の役割がいかにIPOで重要であるかが分かります。
このように、IPO準備フェーズとスケジュールにより必要な管理部門の人員が異なります。求職者側も、どのフェーズから参画したいかは志向性が異なります。1年単位で変化の多い環境だけに、採用においては企業側・求職者の双方ですり合わせが非常に重要となります。
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IPO準備で重要な「三本の矢」
IPO準備では「三本の矢」と言われるIPO実務があります。IPO準備で必要なタスクは、大きく下記3つのタスクに分けることが出来ます。それぞれのタスクは以下となります。
■経理(会計)
・会計基準の変更:税法ベースの会計基準から会社法・金商法ベースの会計基準へ変更
・財務情報の正確性:監査対応やIPOに必要な財務報告書の整備。決算早期化、内製化
・開示体制の構築・運用:透明性のある財務報告のため、開示体制を整え運用
・連結決算の導入:複数子会社がある場合は決算統合
管理部門におけるIPO準備求人の約半分程度は経理求人となり、要となります。
■人事・総務・ガバナンス
・法的要件の確認とコンプライアンス:会社法や労働基準法等、法規遵守とリスク管理の整備。
・各種規定の整備、株主総会等の会議体の設置・運営:効率的なガバナンス構造の確立
・内部統制(J-SOX)の導入、監査制度の構築・運用:信頼性の高い経営体制とチェック体制の確立
・労務関連対応:労働関係管理(過去分含)とコンプライアンス
■経営企画・財務
・予算統制の実施:中期経営計画に基づく予実分析や管理
・資本政策、ファイナンス:資金調達戦略と実行
・IR(投資家対応):申請期以降の投資家とのコミュニケーション
これら「三本の矢」の役割は、IPOに向けた企業の全体的な準備と戦略的アプローチを形成するために不可欠です。その他、IPOのためには、以下のような様々な外部関係者と契約・関与していく必要があります。特に重要なのは主幹事証券会社と監査法人となり、費用も年間数百万~数千万円程度かかります。管理部門の人件費と併せて外部との費用も視野に入れ準備をしていく必要があります。
・主幹事証券会社
・監査法人
・株式事務代行機関(証券代行)
・印刷会社
・ベンチャーキャピタル
・その他(IPOコンサル/税理士法人/IRコンサル/会計ソフト/弁護士事務所/社会保険労務士 他)
>登録者レポートで市況をチェック(会計士・経理・人事・法務・経営企画・内部監査等)
IPOに向けた組織づくりと人材配置のポイント
上場準備責任者(管理部長/CFOなど)部長・CFOなど)について
上述の「三本の矢」に基づくと、ある程度の規模間の会社では、三本の矢をそれぞれ別の組織とし、上場準備責任者を取締役や管理部長として統括に配置すると良いでしょう。
ただ、コンパクトな組織の場合、上場準備責任者が三本の矢のうちの一本を受け持つケースもあります。企業の中で、特に上場達成上の課題となる部分を責任者である役員が受け持つと、準備がスムーズに進むケースが多くなるためお勧めです。そのため、CFOや管理部長のバックグラウンドですが、内部統制が強い会計士の方や、管理部長等、足元で上場に向けて今何が足りていないのか、課題感を把握することにたけている方を採用されると、IPO達成への可能性も高まるのではないでしょうか。
資金調達や株価形成に重点を置く場合はファイナンス・経営企画寄りのCFOをメインに準備を進めるとよいかと思いますが、実際の資金調達業務は少ないケースが多い印象です。MS-Japanにおいても、稀にファイナンス特化のCFOを採用したいという求人依頼もありますが、まずは管理部門を固めたいという場合は、ファイナンスよりも内部統制経験を重視されると良いでしょう。
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経理(開示)の採用は早めがおすすめ
前述で、経理(開示)については直前期頃の採用をお勧めしましたが、もう少し早めの直前前期位からゆるやかに募集を開始することをお勧めします。
近年、経理人材は売り手市場となり上場企業でさえも採用に苦戦をしています。その中で変化の多いIPO企業を希望する求職者は更に母数が減ってしまうことから、「超売り手市場」の市況感です。開示対応可能な経理人材となると、経理部長やマネージャーなど、管理職候補のポジションで採用をしたい企業が多くなります。開示の経験者は上場企業を含めた他社とバッティングをするため、早めの募集開始やエージェントへの相談がお勧めです。
求職者とのスキルマッチングだけではなく、志向性のマッチングもポイントです。なるべく上場確度の高いフェーズで入社しIPO達成経験を確実に積みたい方か、序盤の体制整備から一通り経験されたい方かで志向性は大きく異なります。直前前期から採用となると、運用期前の内部統制を進めていく事になるため、前者の志向性の方はすり合わせが必要となります。IPO準備が進み、CFOや管理部長が開示を兼任するとなると大変なため、経理のキーポジションはお早めにご相談ください。
IPO準備担当は必要?
稀に「IPO準備担当」求人を目にしますが、応募する求職者側からすると魅力的にうつらず母集団形成がしにくいケースがあるので注意は必要です。理由の1つとして、特に上場後のポジションが明確ではない求人が多い為となります。
また、複数ポジションを同時期に一気に採用することも注意が必要です。例えば、ガバナンス強化を目的に人事・総務・法務などを複数採用すると、後々ポジションが重複したり、上場後に人員充足のため他部署に異動させるなどのリスクが発生する可能性があります。
IPOだけに必要な業務遂行を目的に採用をしてしまうと、上場後に人が余ってしまうこともあるため、長期目線での採用計画が必要です。MS-Japanのような特化型人材紹介会社の他にも、証券会社等にも採用相談をすると、該当ポジションについての市況感を知ることが出来るためお勧めです。
CFO・管理部長と管理部門の連携強化の重要性
IPO準備企業へ多くの管理部門人材を支援してきたMS-Japanリクルーティングアドバイザーに、実際に上場成功した企業には、どのような特徴があるのか聞いてみました。
外部との調整においてもCFO・管理部長の旗振りが上場達成を大きく左右することが分かります。
また、内部の旗振りも勿論重要です。スケジュール通りにIPO準備を進めていくうえでも既存の管理部門メンバーの士気や意識をあげることは不可欠です。大きく企業が変革期を迎えるタイミングであると同時に、IPO関連業務が増えるメンバーは不安を抱えることが多く、最悪の場合、退職に至ってしまうケースもあります。不安を取り除けるように丁寧な説明を行い、理解を得ながら連携を強化することも、採用と同じ位大切な要素です。
>建前とホンネの転職理由から学ぶ「経理人材採用と定着強化のポイント」
IPO成功事例の紹介と教訓
実際に管理部門採用が上手だった企業様の例をご紹介します。前述のように、取締役がエージェントとの折衝を担当されていたとの事です。
MS-Japan 東京本社
リクルーティングアドバイザー
新谷 大騎
【CFOとの直接折衝で複数名採用。未経験人材がマネージャーに昇進】
コンサルティングのIPO企業様で、会計士の方が既に経理部長として在籍されていたこともあり、育成リソースが整っている状況でした。取締役が直接採用を担当されていたこともあり、ポジションへの理解も深かったため、未経験者の若手経理を複数名採用して頂きました。
そのうちの1名は、営業出身の未経験者でしたが、グロース上場後の現在もマネージャーとしてキャリアアップされ、ご活躍されています。経理の他にも労務など、5名以上採用のご支援をしている企業様です。
トップが現場の課題を把握しており、決裁権を持った方が実際にエージェントと話をすることで転職市況やポジションへの理解が深まり、採用活動が円滑に進んでいった一例となります。採用担当者は役員や部門トップが積極的に採用に参加できるよう、機会を設ける事も重要となります。
IPO準備における課題と解決策
組織面において、IPO準備企業が陥りやすい課題と解決策についてご紹介をします。
■人員不足によるIPO延期や頓挫
人員不足でIPO延期や頓挫は避けたいものです。IPOを目指す企業は事業の成長性は勿論のこと、採用力の高い企業が多く、求職者に対してのアプローチも高度です。「超売り手市場」の市況感において、もし採用期限を優先するようであれば、経験者だけフォーカスするのではなく、人材のポテンシャルを見て採用をする事もおすすめです。経験を重視するようであれば、IPOや上場企業出身のシニア層を検討すると良いでしょう。
■CFOや管理部長等、上場準備責任者の退職
IPO準備というミッションを遂行する中で、CFOや管理部長は社長含めたステークホルダーとの調整に多大な労力を費やすことになります。社長や経営層と意見相違などがある場合や、ハードワークになりやすいこと、力量不足などで退職に至ってしまうケースが多々あります。伴いIPO準備スケジュールが大幅に変わり、最悪頓挫してしまうケースも。
部門トップの退職を機に、転職を決断する管理部門メンバーは多くいます。見通しが立たないIPOスケジュールは既存メンバーの更なる流出を招くため、経営層がCFOや管理部長の重要性、そして管理部門への理解を含め、寄り添う事が大切となります。
■IPOの基準が変更と内部統制について
社会的な事件に左右されて審査内容のポイントやウエイトは日々変化します。
近年では予算統制や労務関連対応等が例に上げられます。外部から積極的に情報をキャッチアップし、内部統制の整備不足を防ぐようにしましょう。
まとめ
IPO準備企業にとって、管理部門採用はスケジュール通りにIPOを進める上で非常に重要となります。中でも要となるのはCFOや管理部長のような上場準備責任者であり、外部内部の旗振りとして、組織におけるキーポジションとなります。
超売り手市場における市況において、早めの募集開始は勿論のこと、上場準備責任者自らが管理部門採用に積極的になることで、スピード感をもった人員確保が可能となり、IPO達成に近づきます。
MS-Japanでは、経理・人事・法務スタッフからCFO・常勤、非常勤監査まで幅広い人材の採用支援が可能です。IPO・スタートアップ企業の支援実績豊富なコンサルタントが担当いたしますのでお気軽にご相談ください。
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この記事を監修したリクルーティングアドバイザー
新谷 大騎
大学卒業後、2018年に新卒でMS-Japanに入社。東京本社にて一貫してリクルーティングアドバイザーとして法人営業に従事。
IPO・ベンチャー企業を中心に、数多くの企業へ採用支援実績がある。特にVC、証券、信託などのIPO周辺プレイヤーとのつながりも豊富。チームリーダーとして後輩指導にも従事している。
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MS-Japan 東京本社
リクルーティングアドバイザー 新谷 大騎
上場達成している企業様に共通していえること
「役員クラス(CFO等)や部門のトップが、どれだけ管理部門採用に積極的なのか」という事がポイントです。以前、担当企業のCFOの方が「自分で一次面接や書類選考を担当するようになってから、円滑に採用が進むようになった」と仰っていたことがありました。
CFOや部門のトップが現場の課題を把握をする事が大切であり、且つ決裁権を持った方が実際にエージェント候補者と直接話をすることでポジション理解が深まり、採用活動が円滑に進む傾向があります。
社内の管理部門との連携は勿論、外部との連携も強化出来るかどうかが、非常に重要な要素となります。