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自社社員の評価制度は企業によって様々ですが、一般的には何らかの形で社員がランク付けされ、各ランクに応じて給与・待遇が変わる方法が採用されています。 しかし、どのような評価制度を用いても、上司や企業の評価に一定のバイアスがかかることは避けられず、結果的に一部の社員のモチベーションを下げる結果を招いている点は否めません。
そのような事情から、新しい評価制度として「ランク付けしない」ノーレイティングが注目を集めています。 この記事では、ノーレイティングの概要や導入時のメリット・デメリットに加えて、導入事例や注意点などをご紹介します。
ノーレイティングとは
ノーレーティング(No Rating)とは、ランク付けによる評価を行わないという、比較的新しい評価制度の一つです。 ノーレイティングを理解するにあたって覚えておきたいのは、あくまでも「SS・S・A・B・C」といったランク付けをしない評価を意味するのであって、評価そのものを廃止するわけではない点です。 具体的には、1on1面談などを上司と部下の間で実施し、上司がフィードバックと評価を都度行います。
アメリカ合衆国のフォーチュン誌が毎年発行している「フォーチュン500」にランクインする企業を見てみると、2015年時点でおよそ10%が年次評価をすでに廃止したと言われています。 今後、アメリカや日本のみならず、世界中でその傾向が強まるものと予想されます。
ノーレイティングが考案された背景
ノーレイティングという評価制度が考案された背景には、大きく分けて2つの事情があります。
以下に、それぞれの事情についてご紹介します。
スピーディな環境変化に対応できる
IT化・グローバル化が進む中で、世界規模での競争は激化し、それに応じてビジネスサイクルも短期化しました。 その一方で、多くの評価制度は「過去の社員の成績」によって評価される仕組みとなっているため、リアルタイムで社員の取り組みを評価して社員の納得感を高め、環境変化に対応できる評価方法が求められていました。
従来の評価制度「レイティング」との違い
レイティングを用いた評価制度は、四半期など一定の期間を設けて上司と部下が面談を行い、その中で目標の達成度を確認しつつランク付けを行う仕組みです。 これに対してノーレイティングでは、上司がミーティング・コーチングを通して部下との信頼関係を醸成し、1ヶ月に数回というスパンでリアルタイムに近い評価を行うことで、社員のパフォーマンス向上と適切な管理につなげていきます。
ノーレイティングのメリット・デメリット
レイティングが持つ問題点にフォーカスして、その解決を目指すために考案されたノーレイティングですが、人間が運用する以上はどうしても利点と欠点が存在します。
以下に、ノーレイティングを導入するメリット・デメリットについてお伝えします。
メリット①:社員のモチベーションアップ
今までの評価制度では、上司と話し合える時間が限られていたため、どうしても部下は上司に対して壁を感じるものでした。 しかし、日常的に上司とミーティングを行うノーレイティングでは、自然と上司と部下の距離が近くなるため、部下が自分の問題点を早期に把握しやすくなります。 結果的に評価にも納得しやすくなり、モチベーションアップや業務へのフィードバックも期待できます。
メリット②:社員の再評価やスピーディな確保につながる
1ヶ月に数回という短いスパンで評価が行われることから、状況に応じて誰にどんな仕事を割り振るべきなのかを判断しやすくなります。 その結果、今までは評価していなかった社員の新たな一面に気付けたり、外部環境が変化したことによる配置換えを迅速に行えたりと、臨機応変な対応が可能となります。
デメリット:管理職側の時間的・精神的な負担が大きい
評価を受ける側にとってはメリットの大きいノーレイティングですが、管理職・上司の側から見て同じとは限りません。 部下の評価をする上司は、自分自身の日常的な業務に加えて部下とのコミュニケーションが大幅に増えますから、その分だけ時間を奪われ、精神をすり減らすことになります。 目標設定・フィードバックなど、やるべきことは多岐にわたりますから、上司の時間的・精神的な負担は大きくなるでしょう。
ノーレイティングの導入事例
実際にノーレイティングを導入している企業として有名なのは外資系企業が多く、日本ではまだまだ少数派というのが現状です。
しかし、実際に自社でノーレイティングを導入しようと考える場合、環境の違いを問わず導入事例から学べることは数多くあります。
以下に、ノーレイティングを導入している主な企業と、具体的な導入事例についてご紹介します。
Microsoft
2000~2010年の間は、Apple・Googleといったライバル会社の後塵を拝する立場に追い込まれていました。 過去に用いられていた相対評価制度「Stack Ranking System」によって、20%の高評価者・70%の普通評価者・10%の低評価者が生まれており、社員同士が不健全な形で働く結果につながっていたことが一因とされます。
その反省から、リアルタイムでフィードバックができるシステムが社内に導入され、従業員の強み・改善点・改善するためにすべきことなどを上司が随時フィードバックできる体制が整いました。 チーム・個人という2面からのパフォーマンスが評価され、日常のフィードバックの延長線上に人事評価が存在しています。
カルビー株式会社
2010年の経営体制の変化に伴い成果主義に舵が切られ、職能資格制度・スキル評価制度等を正式に廃止した後、2012年にノーレイティングへの切り替えが行われました。 C&A(commitment & accountability)という制度が運用されており、「約束したらやり遂げる」というテーマのもとで、上司と部下でコミットメントを交わしたシートをイントラネットに掲載して全従業員分のものをオープンにするなど、大胆なディスクローズを実現しています。 社員の評価に対する納得性を高められる一方、他の社員の目にさらされるという緊張感があることから、結果的に会社全体のレベルの底上げにつながるものと推察されます。
P&G
目標管理のプロセスを重要視している企業の一つで、社長や経営陣が会社の目標を定めた後、それが各部門の目標に分解されていき、最終的に部下それぞれに割り当てられる形で目標が共有されます。 チーム目標→個人目標という流れで目標が割り当てられるため、共有度・透明性ともに高くなるのが特徴です。
上司は部下に「目標・仕事をどうして与えたのか」を説明した上で、2週間に1回のスパンで個人面談を行います。 思った結果が出ない部下にはアドバイスする、結果が出ている部下には成果をより上位の役職者にアピールするなど、間接的に部下の出した結果が上司の評価に反映されるような仕組みが構築されています。
ノーレイティング導入の注意点
メリット・デメリットなどを踏まえた上で、実際に自社でノーレイティングを導入するためには、事前に確認・準備しておきたい注意点がいくつか存在します。
以下に、主な注意点をご紹介します。
1on1ミーティングに対応できる上司の育成
部下を育成するためには、まず上司がきちんと部下を指導できる立場にいなければなりません。 仕事ができる人が必ずしも仕事を教えるのが得意とは限らないように、上司もまた傾聴力のある人ばかりとは限りません。
自然体な会話の中で、キャリア・スキルに関するヒアリングを継続的に行う必要があるため、単純な仕事上のスキル・実績以外の面で上司としての能力が問われます。 月に数回1on1ミーティングを行うノーレイティングでは、部下よりも先に上司の育成体制を構築する準備が大切です。
評価制度の再構築
定期的なタイミングで評価ができるレイティングとは違い、ノーレイティングの評価は地続きであり、給与・待遇・役職などに評価を反映するタイミングを意識して決めなければなりません。 当然、既存の評価制度と組み合わせようとすると、どこかに問題が発生するでしょう。
さらに、日本ではプレイングマネージャーとして自らも仕事を数多く抱えているケースが多いため、管理職が取り組むべき仕事の見直しも求められます。 スムーズに新体制に移行するためには、評価制度全体の再構築を検討しなければなりません。 もちろん、社員がきちんと新しい評価制度・ミーティングを行う意味について理解できるよう、周囲への説明も必要です。
まとめ
人間が他の誰かを評価しようと試みる場合、どうしても主観を捨てるのが難しく、数多くの企業の人事が最適な評価制度・評価方法の導入に腐心してきました。 その結果生まれた評価制度の一つが、あえてランク付けをせずリアルタイムで人物を評価し続けようとする「ノーレイティング」です。
ノーレイティングは、過去に広く運用されていた評価の仕組みの弊害を取り払っており、目標とそれに対するアウトプット・結果にフォーカスした評価制度でありながら、社員たちの納得感を高められる稀有な評価制度です。 一方で、評価する側の管理職に多大な負担をかけてしまうおそれがあり、上司のコーチングスキルが未熟であれば部下が不満を持つことにつながります。 導入する前の段階で、必要な事前準備を怠らないことが、ノーレイティングを成功へと導くためのポイントと言えるでしょう。
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